
2004年07月23日
芥川龍之介『藪の中』
Posted by ag at 21:47/ カテゴリー: BOOK
明日は河童忌だということで。芥川龍之介『藪の中』の小刀(さすが)について。
●「多襄丸の白状」で、
どうにかこうにか太刀も抜かずに、とうとう小刀(さすが)を打ち落しました。
とある。木樵りの話しでは、現場に落ちていたものは繩と櫛のみだ。となると、誰かが拾わない限り、小刀は現場に落ちたままのはず。小刀は女(真砂)が逃げる際に拾っていったのか?
●「清水寺に来れる女の懺悔」で、
しかし幸い小刀(さすが)だけは、わたしの足もとに落ちているのです。
とある。いつ小刀が足もとに落ちたのだろう? 多襄丸が女を手ごめにしようとした時か?
●「巫女(みこ)の口を借りたる死霊の物語」で、
おれの前には妻が落した、小刀(さすが)が一つ光っている。
とある。また小刀が落ちている。いつ落ちたんだ? 女が蹴倒された時か、逃げようとしたときか?
そして最後に、
その誰かは見えない手に、そっと胸の小刀(さすが)を抜いた。
とある。これは誰だ?
※ ※ ※
多襄丸と女(真砂)と男(武弘)の話しは食い違っている。誰かが嘘を言っている。いや、誰もが嘘を言っている。しかし、男が縛られている状況と小刀が地面に落ちている状況は共通している。男を縛ったのは多襄丸に間違いない。そして、3人のうち2人が小刀が凶器だと言っていることから、男の胸元を突いたのはおそらく小刀だろう。誰が突いたのか? ここでまた木樵りの話し。
そうそう、縄のほかにも櫛(くし)が一つございました。
死骸の近くに櫛が落ちている。櫛はおそらく女のものだろう。女が縛られている男に近寄らない限り、この状況は起こらない。「多襄丸の白状」と「巫女の口を借りたる死霊の物語」では、女が男(夫)の近くに寄る状況はない。
※ ※ ※
以上の御託により、男を殺したのは妻である真砂。しかし、最後に忍び寄る影が女(真砂)であったり、櫛の落ちている正確な位置がどこなのかによって、この論証は破綻する。また、殺す理由については、「清水寺に来れる女の懺悔」で語られることが真実ではないだろう。理由についてはまだ藪の中。