小さな出版社の日々
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 2005年07月17日
 誤植百物語
Posted by みやこ at 01:12 / カテゴリー: 本

いま編集をすすめている本のなかに、『誤植読本』(高橋輝次編著、東京書籍、2000年7月)に言及する取材記事がある。刊行したとき書評か何かを読んで気にはなっていたが、いつしか忘れていた本。「買えよな〜」という心の声も聞こえたが、今回は図書館で借りてきた。
内容は、作家、評論家、編集者などが書いたエッセイ等のアンソロジー。“誤植・校正ミス”を主題に編んでいる。作家には元編集者も多いので、校正ミスしたし誤植されたし、複雑な気持ちが反映しているものも少なくない。例外はあるが、概して誤植にやさしい感じがした。夏だし、どこかで誤植の「百物語」が開かれているかもしれない。

もう昔の話でございます。ある年配の御婦人から、句集を出す仕事を頂戴しました。この誤婦人は高名なお医者様でありますが、物語には係わりのないこと、触れずにおきましょう。
句の作者は御婦人のお従姉妹様、やはりお年を召した方でございました。還暦を機に習い始めた俳句が纏まった――と従姉妹から聞いて、ひとつ本にしてやろうじゃないかということであったかと存じます。実を申しますと、その後に起きたことが余りに強く心に刻まれ、このあたりことは朧になるのでございます。何卒お赦しくださいませ。
さて、句は新字旧仮名と伺っておりましたが、原稿を拝見すると、私のような者でもひと目で誤用とわかる旧仮名遣いが少なからず、いえ、はっきり申し上げます。誤用のほうが多かったのでございます。
誤用はどういたしましょう。作者には高齢の先生がおられ、先生が添削を終えている原稿なのでございます。国文の世界とりわけ文法は不得手な私は、とあるフリー編集者に託すことにいたしました。仮にAさんとしますが、今日Aさんの本当のお名前を申し上げれば、知らぬ国文学研究者はいないことと存じます。が、これも触れずにおきましょう。つまりは、そのような方でございましたから、仮名の誤用はすべて改められたのでございます。迷いなぞ微塵もない御様子でした。
制作作業を託したとは言え、入稿原稿、校正ゲラと、私はその都度目を通したかと存じます。はっきりと記憶しているのは最終のゲラはしっかりと確認した、その一点と言えましょうが。さて、本ができあがりました。本屋に並ぶものではございませんが、なかなか立派なもの。手に取り、頁にさーっと目を走らせます。この本は句集ではありましたが、経費を御負担したお医者様が解題をお書きでした。作者を支える方々として御親戚のお名前が幾人かつづきます。そこにあったのです。あってはならない誤植でした。
名前が違ってるうぅ〜!
最終ゲラでは正しかったのは間違いございません。それが、お名前の三つの漢字の最後の一つがきれいさっぱり無くなっておりました。この方のお名前は、ふた漢字だとわりあい多いお名前。二つめの漢字と同じ漢字が三つめにあり、こうなると、まず御本人以外いらっしゃらない。私は御本人にお会いし、お名刺を戴いた折、不思議なお名前だと興をおぼえたことでした。
わあぁ〜ん! 最終ゲラを確認したあと、Aさんが誤植だと思って直したんだぁ〜。
Aさんにお伝えしなかったばかりにと、本を持つ手は震えるばかり。後悔先に立たず。すこしの事にも先達はあらまほしきことなり。