裁かれるは善人のみ

監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演:アレクセイ・セレブリャコフ、エレナ・リャドワ、ウラジーミル・ウドビチェンコフ、ロマン・マディアノフ、セルゲイ・ポホダーエフ、アンナ・ウコロワ、アレクセイ・ロージン
原題:Leviathan
制作:ロシア/2014
URL:http://www.bitters.co.jp/zennin/
場所:新宿武蔵野館

GoogleMapなどで世界地図を眺めると、日本の北西には海を挟んでロシアが広がっていることに気が付く。東は北アメリカ大陸との境になるベーリング海峡に面し、西は旧ソ連圏のウクライナやベラルーシとの国境に接しているほどの広大な土地には、まんべんなく都市がちらばっていることがわかる。北に目を向ければ、北極海に面した海岸にもへばりつくように町々があって、そのような北の果ての暮らしはどんなものなんだろうと想像をめぐらせたりしたこともあった。

『裁かれるは善人のみ』の舞台は、ロシアの辺境に位置する架空の都市プリブレズニイ。実際の撮影は、バレンツ海に突き出たコラ半島にあるチェベルカだそうだ。

まさに、このチェベルカのようなロシアの辺境の人々の暮らしぶりが知りたかったので、『裁かれるは善人のみ』はその場面設定自体がとても興味深かった。

北極海に突き出た断崖絶壁の岬、そこに打ち寄せる強烈な波しぶき、海岸に放置された朽ちた巨大なクジラの骨。そのようなチェベルカの町の、先の無い、どん詰まり感が素晴らしい。何もかもがおもい通りに行かなくなって、次第に追いつめられて行くストーリーも、土地と同様に閉塞感が支配していてチェベルカの風景にぴったりだった。さらに、ソ連時代の恐怖政治をも想像させるような暴力の支配も息苦しさに輪をかけているようでなんとも厳しい映画だった。

設定自体は厳しい映画ではあったけれども、邦題に付いた「善人」とは言い難く、「悪人」にも分類されないような中途半端な人々が織りなす人間模様は面白かった。夫婦関係も、親子関係も、友人関係も、そして宗教(ロシア正教)に対しても、すべてが愛情と憎しみが相半ばするような関係のまま維持せざるを得ないのは、この厳しい土地に住んで行くための先代から培われた方法なのか。北の果ての土地が醸し出すオーラに支配されているためなのか。

→アンドレイ・ズビャギンツェフ→アレクセイ・セレブリャコフ→ロシア/2014→新宿武蔵野館→★★★★