三姉妹 〜雲南の子

監督:王兵(ワン・ビン)
出演:英英、珍珍、粉粉
原題:Three Sisters / San-Zimei
制作:フランス、香港/2012
URL:http://moviola.jp/sanshimai/
場所:シアター・イメージフォーラム

ドキュメンタリー映画の面白さをどこに求めるのかは人それぞれなんだろうけど、自分にとっての一番の面白さはやっぱりまっすぐな人間の描写であって、スクリーンから人間臭さがにじみ出てくるドキュメンタリー映画になるほど面白い。フレデリック・ワイズマンとか原一男とか、そしてワン・ビンとか。

第一部、第二部、第三部を合わせて9時間もあるワン・ビンのドキュメンタリー映画『鉄西区』の素晴らしさは、経済発展から取り残された地域の中国人たちのうごめきが画面からあふれんばかりに感じられるところで、それはとりもなおさず中国と云う巨大な国家に押し込められた13億人の有象無象のうごめきにも見えて、そこから放たれる人間たちの臭気に圧倒される映画だった。その次の『鳳鳴――中国の記憶』も、たった一人の老婆による3時間にも及ぶ語りだけのドキュメンタリーにもかかわらず、その独白による壮絶な冤罪の人生がいつの間にか映画を見ているものの脳裏に映像として結んで来て、スクリーンには老婆の姿がフィックスされているだけなのに、まるでその一つ一つのエピソードが映画のシーンとして展開しているように見えて来る映画だった。オーソドックスな構成でありながら野心的な姿勢も感じられる素晴らしい映画だった。今まで見たドキュメンタリー映画の中のベストワンにあげても良い。

今回の『三姉妹 〜雲南の子』は、その『鉄西区』や『鳳鳴――中国の記憶』よりもややインパクトは欠けるけれども、『鉄西区』とはまた違った中国人のもがきが感じられる映画で、北京や上海から受ける中国と同じ国とはとてもおもえない貧しい人々の生活を、三姉妹の日々の生活を中心に、ありのままに、まっすぐに映像としてとらえている。でも、服はぼろぼろだけれども、靴は泥だらけだけれども、そこには一つの閉じた小宇宙があって、外宇宙の喧騒に惑わされることもなく、淡々と静かに、中国四千年の歴史のように悠久な営みを感じさせる映像になっている。たとえ中国の経済発展から取り残されていたとしても、それに対する反発をあからさまに訴える人がいるわけでもなく、金もうけのために悪事を働く人がいるわけでもなく、ただ、ただ、生活が繰り返されていく。それがしっかりと映像に収められている。

ワン・ビンのドキュメンタリーは、自分が考えうる理想のドキュメンタリーになっているとおもう。「ドキュメンタリー映画と云えども結局は作り手の主観と作為からは逃れなくわけではない」けれども、ワン・ビンの主観と作為は出来うる限り被写体に寄り添っている。今後もできる限り見続けていきたい映画作家の一人だ。

→王兵(ワン・ビン)→英英→フランス、香港/2012→シアター・イメージフォーラム→★★★★