キャプテン・フィリップス

監督:ポール・グリーングラス
出演:トム・ハンクス、バーカッド・アブディ、バーカッド・アブディラマン、ファイサル・アメッド、マハト・M・アリ、マイケル・チャーナス、キャサリン・キーナー、デヴィッド・ウォーショフスキー、コーリイ・ジョンソン、クリス・マルケイ、ユル・ヴァスケス、マックス・マーティーニ
原題:Captain Phillips
制作:アメリカ/2013
URL:http://www.captainphillips.jp
場所:109シネマズ木場

高野秀行著「謎の独立国家ソマリランド」(本の雑誌社)を読んで、いわゆるソマリアの海賊と云うもののほとんどがプントランド(ソマリアの北東部の地域)に住む人間の仕業であることを知った。そしてその海賊行為はとてもビジネスライクなもので、本を読む限りではそこに殺伐としたものを何も感じることはできなかった。だから、この『キャプテン・フィリップス』もプントランドの海賊の仕業で、どこかのどかな、間抜けな海賊行為かと勝手におもっていたらそうではなくて、南ソマリアの人間による行為だった。

新聞などで報道されるソマリア内戦とは南ソマリアでのことを指していて、ソマリランド(ソマリアの北西部の地域)やプントランドと違って今でもとても危険な地域で、アルカイダ系過激組織アルシャバーブの活動も、一時期よりは減ってはいるもののまだまだ活発らしい。そこの出身の男たちがこの映画の中に出てくる海賊だった。彼らはハウィエ氏族のハバル・ギディル支族(と、アメリカのネイビーシールズが分析していたような気がする)らしく、アイディード将軍(ソマリア内戦のきっかけを作った人物の一人)と同じ氏族、支族の男たちだった。「謎の独立国家ソマリランド」にも繰り返し書かれてあるように、ソマリアでは民族や宗教、思想よりも、この氏族・支族、そしてさらに分家がとても大事な血縁集団として核となって機能しており、そこの長老が絶対的な意思決定者として君臨している。映画の中ではこの「長老」も大事な小道具となって機能しているのが面白かった。

ソマリアの海賊たちを演じているのがバーカッド・アブディ、バーカッド・アブディラマン、ファイサル・アメッド、マハト・M・アリの4人。長年の内戦で倦み疲れた男たちを素人とはおもえない演技で映画を引き締めている。トム・ハンクスから、海賊なんてことをしてないでまともな職業に付け、と云われて、ここはアメリカとは違うんだ、と云うシーンが、『ジャイアンツ』の中のエリザベス・テイラーが云う、お金がすべてじゃないわ、に対してのジェームス・ディーンの、持ってる人はそう云うんです、を思い出させて印象的だった。

映画後半のほとんどのシーンが救命ボートの中なのにとても緊迫感があって、そこにポール・グリーングラス監督の力量を見た気がする。今まで軽視していたポール・グリーングラス監督の映画を今後は見ようとおもう。

→ポール・グリーングラス→トム・ハンクス→アメリカ/2013→109シネマズ木場→★★★★