小さな出版社の日々
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 2005年04月05日
 「農の多面的機能」と「農の恵み」の違い
Posted by みやこ at 20:58 / カテゴリー: 食・農・村

「森林」を“機能”で評価する。15年ほど前に森林関係の労働組合のパンフ制作のお手伝いをしているとき、たびたび出てきた。今は、「農」でよく見聞きする。

当時の資料を見ると、〈一九七二年、林野庁は「森林の公益的機能は一二兆八二〇〇億円」と発表した。これをいまの貨幣価値に換算すると、およそ二七兆円になる。〉とか。農は? というと……。
〈農業や農村が、食べ物を作る以外に果たしているたくさんの役割、これらを「農業の多面的機能」といいます。(中略)これらの働きをお金に直すと、年間で約8兆2200億円にもなります〉(『ジュニアファクトブック 食料・農業・JA−改訂版−』、JA全中、2004年)
ちなみに、森林のほうが農より、かなりお高い。試算項目を比べてみると、森林にある「酸素供給・大気浄化」の値が張るためだ。
さて、福岡県が2005年4月から、「生きもの調査」を条件に「環境支払い」を始めるという。昨年度に滋賀県が始めたときは、滋賀県だからできるのよねぇ、という声が上がったらしい。実際、1980年には「びわ湖条例」を施行してるし、その後も環境に関わる条例をドシドシつくっている県であるけれど。
「農と自然の研究所」代表の宇根豊さんが「研究所だより」(農と自然の研究所所報第21号収載)に書いておられる。宇根さんは、福岡県を拠点に田んぼの生きもの調査等の活動を全国展開している方だ。全文紹介したいところなのだが、抜粋で。
〈この福岡県の環境支払いの事業の名称は、「県民と育む“農の恵み”事業である。(中略)国が言う「多面的機能」という概念に安住するのをよしとせず、一歩も二歩も進めて「恵み」として表現したところに、地方自治体の気概を読みとりたい。そもそも「多面的機能」という言葉は、当初は「公益的機能」と呼ばれていたことを思い出すといい。それが「公益」性を失うことによって、ずいぶん狭められ農業の内部に縮小されて行った。〉
〈水田には気象緩和機能があると言われている。たとえば、田んぼの上を渡る風は、2.5℃冷やされる、ということである。しかし、その涼しい風を、自然に吹いている風と感じていた頃と、田んぼに水がたまり、イネが育つことにより、もたらされる「恵み」なんだなあ、と感じるようになった後では、多面的機能は同じでも、明らかに「恵み」の内実は変化している。以前はそれらは、自然現象であって、「農の恵み」ではなかったのだ。〉
〈「機能」を「恵み」として、つまり「県民の貴重な財産」とするためには、その機能が、どういう百姓仕事によって、維持されているかが表現され、県民に納得されなければならない。ここまで来ると、「育む」ためにはどうしたらいいのかが、やっと見えてくる。百姓の役割と、消費者の役割が見えてくるのである。〉
機能という言葉に、ずっと感じていた違和感。木材が安くなったからって、森林とともに生きる人やその他の動物の値打ちは下がってはいないだろうに、なんでそこから目をそらすような風にして、森林の大切さを訴えようとするんだろう。そのあたりについて、すっぱり解説してもらったようで、私は嬉しい。