あやつり糸の世界

監督:ライナー・ベルナー・ファスビンダー
出演:クラウス・レービッチェ、マーシャ・ラベン、カール=ハインツ・フォスゲラウ、アドリアン・ホーフェン、バルバラ・バレンティン、ギュンター・ランプレヒト、ボルフガング・シェンク、マルギット・カルステンセン、ウーリー・ロメル、ヨアヒム・ハンセン、クルト・ラーブ、ゴットフリート・ヨーン、エル・ヘディ・ベン・サレム、イングリット・カーフェン、
原題:Welt am Draht
制作:西ドイツ/1973
URL:http://www.ivc-tokyo.co.jp/ayatsuri/
場所:ユーロスペース

60年代や70年代に作られたSF映画を見ると、当時の考えられ得る予見で持って未来世界を構築しているのだけれど、今から見ればそれがあらぬ方向にズレていることがわかってしまって、それは主に工業デザインやファッションのことなんだけど、そのズレ方がビミョーに面白可笑しく、不思議な郷愁さえも感じられてしまって、変なところをくすぐられる感覚がとても楽しい。たとえば、ジョセフ・サージェント監督の『地球爆破作戦』(1970)とか、大好き。

ファスビンダーの『あやつり糸の世界』もどちらかと云うとその類いに属する映画だったけど、でも、ストーリーのベースとなっている現実世界とヴァーチャルな世界との関係はとても普遍的で哲学的なテーマなので、例えその未来世界のビジュアルが陳腐であったとしてもそこに可笑しさを見い出すことはまったくなくて、どちらかと云うとその後のVFXを使った『マトリックス』や『インセプション』と比べても内容的にはまったく遜色がなく、いや、遜色ないどころか1973年に同じような映画をすでに作っていたこと自体に驚くばかりだった。さすがのファスビンダー。ラストも『インセプション』のラストシーンと同じような余韻が残る。いったいこれは現実なのかヴァーチャルなのか?

まあ、出てくる女優たちのメイクやファッションがロジェ・ヴァディム『バーバレラ』(1968)的な感覚の一歩手前で、どれもこれもが70年代の安っぽさを兼ね備えているところがちょっと笑えるけどね。

→ライナー・ベルナー・ファスビンダー→クラウス・レービッチェ→西ドイツ/1973→ユーロスペース→★★★★

マネー・ショート 華麗なる大逆転

監督:アダム・マッケイ
出演:クリスチャン・ベール、スティーヴ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピット、カレン・ギラン、メリッサ・レオ、マリサ・トメイ、トレイシー・レッツ、ハミッシュ・リンクレイター、ジョン・マガロ、スタンリー・ワン、バイロン・マン、レイフ・スポール、ジェレミー・ストロング、フィン・ウィットロック、マックス・グリーンフィールド
原題:The Big Short
制作:アメリカ/2015
URL:http://www.moneyshort.jp
場所:109シネマズ菖蒲

この映画は、アメリカで2007年ごろに起きたサブプライムローン(返済能力の低い人たちに住宅を担保として高利で貸し付けた住宅ローン)問題に関連したストーリーであることはわかっていたので、理解するのに一苦労するだろうな、とはおもいながら果敢に挑戦した。

金融関係の知識がないと、まずは原題の「Short」の意味する「空売り」がよくわからない。この映画は「空売り」をストーリーの中心に据えているので、その「空売り」の意味がわからないと致命傷だった。いや、今まで蓄えて来た知識の範囲内で何となく「空売り」の意味はわかる。おそらく「持っていないものを売る」ことだろう。いわゆる「信用売り」のことで、今持ってなくても必ず後から手に入れられると云う信用があることからこそ出来る売り方であることはなんとなく想像がついた。でも、それを行うことによって莫大なお金を手に入れるしくみが映画を見ている最中にはよくわからなかった。だから、見終わったあとに一生懸命調べた。

この映画には3つのグループが登場する。クリスチャン・ベールのヘッジファンドと、ライアン・ゴズリングとスティーヴ・カレルが絡むドイツ銀行&モルガン・スタンレーの子会社のチーム、そしてブラッド・ピットの投資家と若手二人のトレーダーのチームの3つ。この3つは、横の繋がりが無くても同時発生的にサブプライムローン関連の証券を元にして儲ける方法に気が付く。

サブプライムローン関連の証券とは、サブプライムローンも含んだ住宅ローンをいっぱい集めて巨大なプールを作って、住宅を買った人からの返済金額を切り分けて、資金返済の優先度の高いグループ(「シニア債」と呼ぶらしい)、その次の優先度の高いグループ(「メザニン債」と呼ぶらしい)、そして最後の優先度の低いグループ(「ジュニア債」と呼ぶらしい)と切り分けて証券化したものを指す。この細分化された一つ一つをトランシェと呼ぶらしい。資金返済の優先度の高い「シニア債(優先債)」のトランシェは債務不履行(デフォルト)になりやすいけれど、ちゃんと返済が行われれば証券を買った人へのリターンが高いくなる、というしくみで、反対に「ジュニア債(劣後債)」のトランシェはローリスク・ローリターンになる。

たとえば3つのグループの中のクリスチャン・ベールが演じているマイケル・バーリを例に取ると、彼は完全にサブプライムローンが破綻することを見通して、そのトランシェの中でもハイリスクの「シニア債(優先債)」や「メザニン債」のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を大量に買い集める。

CDSとは、証券化商品を持っている人がリスクを回避のために買う保険のようなもので、このCDSを購入し、毎年保険料をしっかりと支払っていれば、もし住宅ローンがは債務不履行(デフォルト)に陥ってもその債券の額面をしっかりと受け取れるというものだ。

マイケル・バーリのもくろみは、大量のCDSを買い増し続けて、さらに多額の保険料を支払い続けたとしても、サブプライムローンが破綻すればその債券の額面通りの金額が大量に入って来る(または、CDS自体の価格が上昇し、その売却で大量の利益が出る)と云うものだった。そのもくろみをまったく理解できないファンドの出資者たちからは「なんでCDSなんかを買うんだ!」と不満が続出し、「解約は許さない」と云うマイケル・バーリのメールに対して罵詈雑言の返信を送り付けるほど誰もがサブプライムローンを信用していた。

このようなCDSに関連した儲けの流れを理解したとしても、これのどこが「空売り」なんだろう、とまずはおもった。CDSを買い続けることがなぜ「空売り」になるんだろうと頭が混乱してしまった。でも、いろいろと調べると、もう「空売り」=「信用売り」ではないらしい。その意味合いも残っているのかもしれないけれど、この映画の「Short」とは、相場が下がる気配がまったく無い段階で下がることを見越して大博打に出ることを指すらしい。サブプライムローンが破綻して下げ相場に転じることを見越して関連証券を大量に買うこと自体が「空売り」を意味していたのだった。

他の2つのグループの「空売り」も基本的にはマイケル・バーリの「空売り」と同じようにCDSを購入して行くことだった。ただ、他の2つのグループが実際に体を動かしていろいと情報をかき集めているのに対して、クリスチャン・ベールのマイケル・バーリは部屋に閉じこもって、デスメタルをガンガンとかけているだけなのが対照的だった。さらにスティーヴ・カレルやブラッド・ピットが、本家のモルガン・スタンレーに多大な債務を負わせることや家を失って路頭に迷う人たちがいることに対して良心を嘖まれる描写があるのに対して、クリスチャン・ベールのマイケル・バーリにはそのような偽善的な描写がまったくなくてクールさだけが際立っているところがカッコよかった。

映画を見ている最中には、この「空売り」「トランシェ」「CDS」やさらに「CDO(債務担保証券)」なんてものも出てきて、その内容がまったく理解できなかったので映画の内容を充分と楽しんでいるとはまったく云えなかった。でも、サブプライムローンに関連して儲けたやつら、とだけを理解して映画を見たとしても充分に面白かった。さらに内容も理解できていれば、めちゃくちゃ面白い映画だったとおもう。

→アダム・マッケイ→クリスチャン・ベール→アメリカ/2015→109シネマズ菖蒲→★★★★

家族はつらいよ

監督:山田洋次
出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優、小林稔侍、風吹ジュン、中村鷹之資、丸山歩夢、笹野高史、木場勝己、徳永ゆうき、北山雅康、笑福亭鶴瓶
制作:「家族はつらいよ」制作委員会/2016
URL:http://kazoku-tsuraiyo.jp
場所:109シネマズ木場

山田洋次のコメディを久しぶりに観た。

「笑い」と云うものにはいつの時代でも笑える不変な「笑い」もあるし、その時代にしか笑えない一過性の「笑い」もある。山田洋次の撮った『男はつらいよ』の茶の間の喧嘩のシーンは、いつの時代でも笑える不変な「笑い」の代表格と云っても良いとおもう。そんな不変な「笑い」を期待して『家族はつらいよ』を観に行ったら、これがまったく笑えなかった。階段でコケる橋爪功にも、当人の前で悪口を云ってしまう夏川結衣にも、恥ずかしげもなく「どうもすいません」と云う林家正蔵にも、抱きあう妻夫木聡と蒼井優にコーヒーを持って行ってしまう笹野高史にも、すべてが不変な「笑い」のショーケースのようにも見えるけど、やはりそのような古典的な「笑い」であっても「間」が悪ければすべてが台無しになってしまうんだなあと改めて確認するような映画になってしまっていた。

笑えなかったけど、そこは山田洋次の映画なのでそれなりに楽しめる。でも、笑いたかった。

→山田洋次→橋爪功→「家族はつらいよ」制作委員会/2016→109シネマズ木場→★★★

ヘイトフル・エイト

監督:クエンティン・タランティーノ
出演:サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンズ、デミアン・ビチル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーン、ジェームズ・パークス、デイナ・グーリエ、ゾーイ・ベル、リー・ホースリー、ジーン・ジョーンズ、キース・ジェファーソン、クレイグ・スターク、ベリンダ・オウィーノ、チャニング・テイタム
原題:The Hateful Eight
制作:アメリカ/2015
URL:http://gaga.ne.jp/hateful8/top/
場所:109シネマズ木場

タランティーノの映画は、まずはタランティーノ自身の楽しんでいることが伝わってくるところが素晴らしい。次に、その楽しんでいる部分が他の映画からのマニアックな引用なところ。最後に、その使っている音楽のセンスの良さ。この3点セットで、無条件にタランティーノの映画を認めてしまう。

『ヘイトフル・エイト』は、なぜか、この3点がどれも微妙に緩かった。それは公開前に脚本が流出してしまってタランティーノのテンションが落ちてしまっためか。それともタランティーノが巨万の富を得たためにアグレッシブさが無くなってしまったためか。

とは云え、タランティーノ好きには充分に楽しめる映画だった。特にジェニファー・ジェイソン・リー! 彼女の手鼻、つば吐き、血みどろ演技を見られただけでも『ヘイトフル・エイト』を認めてしまう。

映画の第1章「レッドロックの駅馬車」で、駅馬車の中からサミュエル・L・ジャクソンを見るジェニファー・ジェイソン・リーのショットが、二つの窓のあいだの木枠を顔の中心にして、両目を左右の二つの窓に添える構図にゾクッと来た。これは1966年のマリオ・バーヴァの映画『呪いの館』からじゃないか!(昔のキネ旬のどなたかのコラムで『呪いの館』のこのシーンに触れてた事を異様に憶えている) この細かな引用がタランティーノだ。

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→クエンティン・タランティーノ→サミュエル・L・ジャクソン→アメリカ/2015→109シネマズ木場→★★★☆

子連れ狼 三途の川の乳母車

監督:三隅研次
出演:若山富三郎、富川晶宏、松尾嘉代、小林昭二、大木実、新田昌玄、岸田森、鮎川いづみ、水原麻紀、笠原玲子、池田幸路、正楠衣麻、若山ゆかり、三島ゆり子、江波多寛児、坂口徹
制作:勝プロダクション/1972
URL:
場所:フィルムセンター

クエンティン・タランティーノの『キル・ビル』の殺陣は三隅研次の『子連れ狼 三途の川の乳母車』に影響を受けていると云うことを『キル・ビル』の公開時に聞いて、これは見ないといけないなあとおもいつつも月日が流れてしまって、やっと今回のフィルムセンターの三隅研次特集で観ることが出来た。

1960年代から70年代にかけてのマカロニウエスタンやカンフー映画、そして日本の時代劇やヤクザ映画に代表されるカメラアングルの凝ったオーバーアクションぎみの映画のムーブメントはいったいどこを起源にして起こったのだろう。当時のテレビドラマに対抗してなのか、大きなスクリーンを充分に活用した視覚的な娯楽映画は、なかばヤケクソにも見えるほどの映画に対する愛情がひしひしと感じられて、それを見ている我々も映画的な興奮を純粋に楽むことのできるものばかりだった。

『子連れ狼 三途の川の乳母車』はそのような映画群のひとつだった。拝一刀(おがみ いっとう)の剣や息子の大五郎の乗る乳母車から繰り出される刃によって、柳生一門や公儀からの追っ手の腕は飛び、足は飛び、人間そのものも真っ二つ。そこから飛び散る血しぶきはまるでシャワーのようだ! ここまで徹底的に人が斬られるバリエーションをまるで楽しむように作られてしまっては、こっちもゲラゲラと笑いながら一緒に楽しむ他はない。ロジャー・コーマンは『子連れ狼 三途の川の乳母車』を見て「このアイディアを考えた人間は狂気に近い才能を持つ天才にちがいない!」(ロジャー・コーマン自伝『私はいかにハリウッドで100本の映画を作りしかも10セントも損をしなかったか』より)と云ったという。まさしく、天才とキチガイの紙一重のところが頗る面白い!

このような映画を観るとウキウキしながら劇場をあとに出来る。ああ、クエンティン・タランティーノだけじゃなくて、日本映画にもこのような三隅研次を継承する監督が現れないかなあ。

→三隅研次→若山富三郎→勝プロダクション/1972→フィルムセンター→★★★★

ディーパンの闘い

監督:ジャック・オーディアール
出演:アントニーターサン・ジェスターサン、カレアスワリ・スリニバサン、カラウタヤニ・ビナシタンビ、バンサン・ロティエ
原題:Dheepan
制作:フランス/2015
URL:http://www.dheepan-movie.com
場所:109シネマズ菖蒲

2015年のカンヌ映画祭パルム・ドールを獲った映画。

中東にばかりに目が行って、難民を出している国が世界にやまほどあることを忘れがちだけど、スリランカもその一つだった。1983年にはじまったシンハラ人とタミル人との内戦は、タミル人による反政府組織「タミル・イーラム解放のトラ」が鎮圧されて2009年にいちおうの終戦を迎えたけど、スリランカから逃げ出したタミル人が多くいることは想像にかたくない。『ディーパンの闘い』は、スリランカからフランスに逃亡したタミル人のストーリーだった。

フランスはドイツとともに難民を多く受け入れていて、それはフランスが掲げる「自由」「平等」「博愛」の精神のためだと云われている。でも、受け入れた移民に対してどこまでその精神が適応できているのかは甚だ疑問だ。フランスに来た移民たちは差別的に最下層に押し込められてしまって、大都市郊外の低所得世帯用公営住宅団地で細々と貧しく暮らして行くのが現実なんだとおもう。『ディーパンの闘い』は、この低所得世帯用公営住宅団地(バンリューと云うらしい)が主に舞台の映画で、その描写がリアルで、怖くて、不気味だった。これは現実なんだろうか? 映画用に大胆に脚色されているんだろうか? もし現実だとしたら、フランスの移民政策にはまったくの絶望しか感じることが出来ない。映画で描かれている主人公ディーパンの力強い闘争にも何の希望も見い出すことが出来ず、たとえうまくイギリスに逃げおおせたとしても、イギリスでのさらに厳しい階級社会が待ってるんじゃないかと暗澹たる気持ちしか最後には残らなかった。なんとも辛い映画だった。

→ジャック・オーディアール→アントニーターサン・ジェスターサン→フランス/2015→109シネマズ菖蒲→★★★☆

裸のキッス

監督:サミュエル・フラー
出演:コンスタンス・タワーズ、アンソニー・ビスリー、マイケル・ダンテ、バージニア・グレイ、パッツィ・ケリー、マリー・デュヴルー
原題:The Naked Kiss
制作:アメリカ/1964
URL:
場所:ユーロスペース

映画を見る上で、登場人物たちの感情の推移を追いかけて行くことが自分にとっての重要なポイントの一つなので、そこに全体を通しての流れがなくて、シーンごとにブツッ、ブツッと途切れてしまうような映画がとても苦手だ。この『裸のキッス』もその手の映画なんだけど、でも、そこに意味がある場合はその限りではない。元娼婦のコンスタンス・タワーズも、警部のアンソニー・ビスリーも、街の富豪のマイケル・ダンテも、何を考えての行動なのかさっぱり読み取れない。次のシーンでは突然翻って行動を起こしたりする。そこには前後の関係性がまったく無いようにも見える。しかし、そうすることによって、映画全体に得体の知れない雰囲気が漂い、とても不気味な映画に仕上がっている。オープニングのコンスタンス・タワーズが男をボコボコに殴りつけるシーンからはじまって、ラストの疑いが晴れたコンスタンス・タワーズを向かい入れる街の人びとの無表情な顔の羅列まで、何が出てくるかわからない不気味さの連続だった。

ただ、寝不足がたたって、うつらうつら、になってしまった。素晴らしい映画だったのに残念。もう一度観ないと。

→サミュエル・フラー→コンスタンス・タワーズ→アメリカ/1964→ユーロスペース→★★★★

ショック集団

監督:サミュエル・フラー
出演:ピーター・ブレック、コンスタンス・タワーズ、ジーン・エバンス、ジェームズ・ベスト、ハリー・ローデス
原題:Shock Corridor
制作:アメリカ/1963
URL:
場所:ユーロスペース

boidから出版された「サミュエル・フラー自伝 〜わたしはいかに書き、闘い、映画をつくってきたか〜」(サミュエル・フラー、クリスタ・ラング・フラー 、ジェローム・ヘンリー・ルーズ著、遠山純生翻訳)をboidの直販で4500円で買った。普通に買うと6480円! 映画関係の本を買うのはなかなか勇気のいる時代となってきました。

で、その出版に合わせてだろうとおもわれるboid配給のサミュエル・フラー監督の連続上映がユーロスペースではじまったので、まずは『ショック集団』を観に行った。『ショック集団』は、精神病院での不可解な死を調べるために精神障害を装って潜入する新聞記者が次第に精神に異常をきたして行く話し。

設定はまったく違うのだけれど、主人公となる人物が精神障害の演技をしているのか、本当の精神障害者なのか、その2つの微妙な境でどっちつかずに見えるところがどうしてもミロシュ・フォアマン監督の『カッコーの巣の上で』をおもい出してしまった。ただ、『ショック集団』は『カッコーの巣の上で』ほど病院のシーンにリアリティが無く、いろいろな精神障害を患っている人物が次々と登場してはまるで出し物のように自分の精神障害たる部分を披露するところがとても演劇的だった。

サミュエル・フラーの映画は『拾った女』や『最前線物語』が大好きなんだけれど、この『ショック集団』はそこまで楽しめる映画ではなかった。次回は『裸のキッス』を観ようとおもう。

→サミュエル・フラー→ピーター・ブレック→アメリカ/1963→ユーロスペース→★★★

ザ・ウォーク(IMAX 3D)

監督:ロバート・ゼメキス
出演:ジョゼフ・ゴードン=レヴィット、ベン・キングズレー、シャルロット・ルボン、クレマン・シボニー、ジェームズ・バッジ・デール、セザール・ドンボーイ、ベン・シュワルツ、ベネディクト・サミュエル、スティーヴ・ヴァレンタイン
原題:The Walk
制作:アメリカ/2015
URL:http://www.thewalk-movie.jp
場所:ユナイテッド・シネマとしまえん

大きなバジェットのアクション映画は同時に3Dも作られるようになって久しいけど、やっぱり監督によっては安易な3D化しか考えてなくて、これなら2Dで充分、とおもう映画も少なくない。もしかすると、3Dの効果を充分に引き出せるか、出せないかで、監督そのものの資質がわかってしまうんじゃないかとおもったりもする。全部を観てきたわけじゃないけど、今までの3D映画で、素晴らしい! とおもった作品は、マーティン・スコセッシ『ヒューゴの不思議な発明』、アルフォンソ・キュアロン『ゼロ・グラビティ』、ジャン=ピエール・ジュネ『天才スピヴェット』、ジャン=リュック・ゴダール『さらば、愛の言葉よ』。そして、ロバート・ゼメキスの『ザ・ウォーク』も新たにそこに加わった。

ニューヨークにあったワールド・トレード・センターのツインタワーにワイヤーをかけて、そこを命綱なしで綱渡りを行った大道芸人のフィリップ・プティを描いたこの映画は、奥行きを見せることが得意な現在の3Dの方式にはぴったりの題材で、高低差を俯瞰から捉えた映像はまさに3D効果の真骨頂だった。高所恐怖症の自分にとってはそんなものをIMAX 3Dで観たら、もしかすると途中で逃げ出してしまうんじゃないかと危惧していたけれど、最初にフィリップ・プティがツインタワーを渡り切ってみんなと祝福を交わした時、えっ? もう終わり? と嘆くくらいにその3D効果を堪能してしまって、恐怖症どころの騒ぎではない不思議な恍惚感のあるまさに「ザ・3D」のような映画だった。

前々から云っているのだけれど、3D映画なんて昔のお化け屋敷やフリークショーのような怖いもの見たさで覗くゾエトロープなわけだから、そこで綱渡りの大道芸を見るのはまさしく大正解の内容の映画だった。

→ロバート・ゼメキス→ジョゼフ・ゴードン=レヴィット→アメリカ/2015→ユナイテッド・シネマとしまえん→★★★★

キャロル

監督:トッド・ヘインズ
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、カイル・チャンドラー、ジェイク・レイシー、コーリー・マイケル・スミス、ジョン・マガロ、キャリー・ブラウンスタイン
原題:Carol
制作:アメリカ/2015
URL:http://carol-movie.com
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

この情報過多の時代に、Twitterを使っているにもかかわらず、事前の何の情報も入れないでこの映画を観ることができた。なんとなく、公式サイトのビジュアルから女二人の友情の映画ではないかと推測していたのだけれど、でも、ファーストシーンの、別れ際にケイト・ブランシェットがそっとルーニー・マーラの肩に手を置く仕草で、ああ、この映画は二人の友情の物語ではなくて、愛情の物語なんだなあ、と理解することができるような心憎い演出からはじまる素晴らしい映画だった。

原作はパトリシア・ハイスミスの小説『The Price of Salt』。パトリシア・ハイスミスと云うと、ヒッチコックの『見知らぬ乗客』やルネ・クレマンの『太陽がいっぱい』の原作者として名前を知っていたけど、1952年にクレア・モーガン名義でこのような人妻と女性店員の恋愛を描いた小説を発表し、百万部を超えるほどのベストセラーになっていたとはまったく知らなかった。実際に『The Price of Salt』をパトリシア・ハイスミスが書いていたことを公表したのは1990年になってからだそうで、おそらく、その時にはアメリカ文学のファンのあいだでは大きなニュースになっていたのかもしれない。

この映画で人妻を演じたケイト・ブランシェットは、どんな役柄を演じても『ロード・オブ・ザ・リング』のガラドリエル様のような神々しさがあって、それはエリザベス1世のような高貴な人間を演じれば、そのまんまその役柄に重みを与えることができるし、『ブルージャスミン』のジャスミンのような痛い女を演じれば、痛さが下品にまで落ち込まないで女としての最低のラインをキープすることができるし、この『キャロル』でも、女性同士のカップルとして可愛らしくて華奢なルーニー・マーラの相手役としてはうってつけの凛とした男前な佇まいを醸し出していた。

ラストシーンで、ルーニー・マーラと視線が合うケイト・ブランシェットの目に背筋がゾクッとした。まるでローレン・バコールの「The Look」だ。なんて恰好良い女優なんだろう。

→トッド・ヘインズ→ケイト・ブランシェット→アメリカ/2015→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★★