ロボコップ

監督:ジョゼ・パジーリャ
出演:ジョエル・キナマン、ゲイリー・オールドマン、マイケル・キートン、アビー・コーニッシュ、ジャッキー・アール・ヘイリー、サミュエル・L・ジャクソン
原題:RoboCop
制作:アメリカ/2014
URL:http://www.robocop-movie.jp
場所:新宿ミラノ3

ポール・バーホーベン監督の『ロボコップ』を観た時に、そのグロテスクな描写に今までのハリウッド映画には無いテイストを感じて、それが好きか嫌いかには関わらず、いや、どちらかと云うと好きなテイストではなかったものの、その後のポール・バーホーベン監督の映画をずっと追い続けてしまった。ヨーロッパの監督がハリウッドの色に染まって自分を見失う場合が多いのに、自分の色を失わずに変態性を爆走させるポール・バーホーベンに好感を持ったんじゃないかとおもう。

そのポール・バーホーベン版『ロボコップ』が公開されてから27年もの歳月を経てわざわざリメイクするのだから、そして同じように非ハリウッドの監督を持って来て映画化するのだから、また同じような驚きをもたらしてくれるんじゃないかと期待したわけだけど、ジョゼ・パジーリャと云うブラジル人監督にそれほど特異なスタイルを感じられなかった。すっかり、すっきりと普通のSFアクション映画になっていた。どうやらジョゼ・パジーリャ監督のおもい通りには撮らせてもらえなかったらしく、同じブラジル人監督のフェルナンド・メイレレスに語ったところによると「10個アイデアを出したら9個が却下される」状態だったらしい。ポール・バーホーベン版ロボコップの流れを汲む映画を作るのだとしたら、もっと監督に自由に撮らせるべきだった。自由に撮らせるつもりがないなら、わざわざ海外から監督を呼んで来る事もなかったろうに。

→ジョゼ・パジーリャ→ジョエル・キナマン→アメリカ/2014→新宿ミラノ3→★★★

ホビット 竜に奪われた王国(IMAX 3D)

監督:ピーター・ジャクソン
出演:マーティン・フリーマン、イアン・マッケラン、リチャード・アーミティッジ、オーランド・ブルーム、エヴァンジェリン・リリー、ルーク・エヴァンズ、リー・ペイス、スティーヴン・フライ、グレアム・マクタヴィッシュ、ケン・ストット、エイダン・ターナー、ディーン・オゴーマン、マーク・ハドロウ、ジェド・ブロフィー、アダム・ブラウン、ジョン・カレン、ピーター・ハンブルトン、ウィリアム・キルシャー、ジェームズ・ネスビット、ケイト・ブランシェット
原題:The Hobbit:The Desolation of Smaug
制作:アメリカ/2013
URL:http://wwws.warnerbros.co.jp/thehobbitdesolationofsmaug/
場所:ユナイテッドシネマとしまえん

3部作中の2作目になる『ホビット 竜に奪われた王国』は、ドワーフの王子トーリン・オーケンシールドたちが自分たちの王国エレボールにて邪悪な竜スマウグと対決するパートと、中つ国に忍び寄る邪悪な気配を調査するべくドル・グルドゥアに向かうガンダルフのパートに別れてしまって、それが二つとも3作目に向かうための下地作りでしかないので見終わったあとの中途半端さは否めない。でも、いつも云っていることではあるのだけれども、ピーター・ジャクソンが作り出すトールキンの世界が大好きなので、161分と云う長尺のこの映画がまったく厭きない。3作目の『ホビット ゆきて帰りし物語』が公開されてDVDにでもなったら、『ホビット』シリーズと『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズを一気に、1日で見てもいいくらいだ。

スマウグとも、ネクロマンサー(死人占い師)とも、その決着がお預けとなったこの映画の最大のハイライトは、もしかすると、アゾグらオークたちに追われたドワーフ+ビルボ・バギンスたちの樽による川下りだったんじゃないのかなあ。最近のCG映画に飽きているとは云え、このシーンのカメラの視点移動はダイナミックで素晴らしかった。ピーター・ジャクソンの良さは、動的イメージの豊富さにあるんだとおもう。

ケイト・ブランシェットが演じるガラドリエル様のファンとしては、今回の映画ではガンダルフとのテレパシー(?)のイメージ・シーンでしか登場がなかったのは残念だったが、ガンダルフとラダガストとの会話から次作の『ホビット ゆきて帰りし物語』では大活躍が予想出来て、早く、その大団円で感動したい!

→ピーター・ジャクソン→マーティン・フリーマン→アメリカ/2013→ユナイテッドシネマとしまえん→★★★★

ダラス・バイヤーズ・クラブ

監督:ジャン=マルク・ヴァレ
出演:マシュー・マコノヒー、ジェニファー・ガーナー、ジャレッド・レト、スティーヴ・ザーン、ダラス・ロバーツ、マイケル・オニール、デニス・オヘア、グリフィン・ダン
原題:Dallas Buyers Club
制作:アメリカ/2013
URL:http://www.finefilms.co.jp/dallas/
場所:新宿シネマカリテ

映画館での予告編を観たかぎりでは、エイズになってしまったマシュー・マコノヒーが余命30日を宣告されながらも残りの人生を謳歌させて死ぬ、のようなイメージしか受け取れなかったのだけれど、まあ、ある意味、それはそうなんだろうけど、この映画の大切な要素としての「医者の処方するいい加減な薬」と云う部分がまったく抜け落ちていた。病院から渡される薬に何の疑いもなく全幅の信頼を寄せることに常日ごろから疑問を感じているので、マシュー・マコノヒーがその事に対して真っ向から対決する部分は見ていて楽しかった。結局のところ、経済性ばかりを優先させた今の時代では、病院やFDA(アメリカ食品医薬品局)も経済的な利潤を追い求める仕組みの中で動かざるを得なくて、患者の治癒なんてものは二の次になるのはあたりまえなわけで、その薬を疑いもなくほいほい飲んでしまうのは危険このうえないことをこの映画は見せてくれる。

医者が処方する薬のでたらめさに加えて、何年もかかる新薬の認可制度も問題視する。もうすでに死のうとしている人に対して有効とおもわれる薬に対する臨床試験の用意周到さはまったく患者の気持ちを度外視している。不治の病になった時点で大きなリスクを負ってしまっているわけだから、それに対抗するにはリスク以外に何もないのに、リスクを冒すのは危険すぎると云うのはいったい何なんだろう。もうすでに危険なんだ!

自分の医者嫌い、薬嫌いを決定させたのは、もしかするとミロシュ・フォアマンの『カッコーの巣の上で』を見たあたりなのかもしれない、と気付いた。この映画を見てますますそれが増長してしまう。映画は、商業映画もドキュメンタリー映画も、それが真実かどうかは見極めが難しいけれど不正を衝く映画が多いので、嫌いなものがどんどん増えてしまう。

→ジャン=マルク・ヴァレ→マシュー・マコノヒー→アメリカ/2013→新宿シネマカリテ→★★★☆

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅

監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ、ステイシー・キーチ、ボブ・オデンカーク、マリー・ルイーズ・ウィルソン、ミッシー・ドーティ、アンジェラ・マキューアン
原題:Nebraska
制作:アメリカ/2013
URL:http://nebraska-movie.jp
場所:新宿武蔵野館

ネブラスカには娯楽がカレッジ・フットボール観戦しかない、と聞いたことがある。アメリカのちょうどど真ん中に位置するネブラスカ州には何にもなく、人々の楽しみと云えばネブラスカ大学リンカーン校の活躍くらいだと云うのだ。そのネブラスカ大学リンカーン校も最近は精彩がなく、1997年に全米チャンピオンに輝いたっきり、APのTOP25にはランキングされるものの、リンカーンの街が全米の注目を集めることはなくなってしまった。ネブラスカのイメージと云えば、たったそれしかない。リンカーンの街自体のイメージも、リンカーン校のキャンバス内にある8万人収容のメモリアム・スタジアムくらいしかない。

『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』は、100万ドル当たったと信じ込む年老いた父親と、そんなものは詐欺だと云いつつも付き合ってしまう人の良い息子の、その当選金を受け取るべくモンタナ州のビリングスからサウスダゴタ州のラシュモア山を経由してネブラスカ州リンカーンへと向かうロード・ムービーだった。自分にとってあまりイメージのなかったネブラスカ州の街並みを存分に見せてくれる。でもその街並みは、スティーヴン・スピルバーグの『未知との遭遇』のワイオミング州とも、デイヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』のワシントン州とも、フレデリック・ワイズマンの『州議会』のアイダホ州ともあまり変わらないと云うか、よくあるアメリカの田舎の風景だった。

そしてやはり、ネブラスカに住む人たちの週末の楽しみはフットボールだった。ただ、ネブラスカ大学リンカーン校の停滞が象徴するように、親戚の老夫婦とまるまると太った従兄弟たちがアメリカン・フットボール観戦のためにテレビを囲むシーンは、まるで底に溜まった沈殿物のような、もうすでに終わってしまった残滓でしかない人々の集いでしかなかった。そんな中で唯一、活動的に行動しているのが100万ドル当たったと信じ込む老人だけで、その思い込みがきっかけで色めき立って活性化する街の人々や、溝が出来ていた家族が再び結びついて行くシーンには、まやかしであってさえも前向きな行動がもたらす静かな希望が見えて来て、それがアメリカ中西部のだだっ広いスペースと色彩の無いモノクロ映像によって増幅し、不思議な爽快感が全体を支配しているのは面白かった。

ラストの、今まで乗ってきた日本車のスバル・レガシィをフォードのピックアップトラックに買い替えて、それを父親へプレゼントするシーンは、ネブラスカ州出身のアレクサンダー・ペインによる古き良きアメリカの郷愁も込められていて、それがこの映画のテーマの一つでもあった。

→アレクサンダー・ペイン→ブルース・ダーン→アメリカ/2013→新宿武蔵野館→★★★☆

MUD -マッド-

監督:ジェフ・ニコルズ
出演:マシュー・マコノヒー、リース・ウィザースプーン、タイ・シェリダン、ジェイコブ・ロフランド、レイ・マッキノン、サラ・ポールソン、マイケル・シャノン、ジョー・ドン・ベイカー 、サディー・アントニオ、サム・シェパード
原題:Mud
制作:アメリカ/2012
URL:http://mudmovie.net
場所:吉祥寺バウスシアター

今年のアカデミー主演男優賞は『ダラス・バイヤーズクラブ』のマシュー・マコノヒーが獲った。つい最近までマシュー・マコノヒーと云う俳優のイメージに確たるものが何もなく、主演女優の脇にいる優男くらいのイメージしかなかった。ところが突然、2012年のリー・ダニエルズ監督『ペーパーボーイ 真夏の引力』で、マゾヒストの黒人好きゲイ役でとても強烈な印象を残した。もしかするとこの映画で、俳優としての何かを開眼したのもしれない。何かが憑いたとも云えるのかもしれない。そしてジェフ・ニコルズの『MUD -マッド-』を経て、ジャン=マルク・ヴァレの『ダラス・バイヤーズクラブ』へと続く流れは、彼が演技派の俳優として化けて行く過程を順を追って目撃できたのかもしれない。

『MUD -マッド-』でマシュー・マコノヒーが見せる穏やかな演技は、殺人を犯してまで一途に一人の女性を愛し続けるような情熱の持ち主にはまったく見えない。しかし、他の登場人物たちが見せる不安定な感情に、その落ち着いた演技を対照させることによって静かな情熱が浮かび上がってきて、人を愛すると云う事の本来の意味をこの映画の主人公の少年のみならず映画を観ている我々にも優しく問いかけて来るような映画の構造が出来上がる。マシュー・マコノヒーのその微妙な演技の匙加減がとても巧かった。ある意味、『ペーパーボーイ 真夏の引力』のような個性のある人物は演じ易く、この『MUD -マッド-』のような曖昧な人物こそ演じ難い。『ペーパーボーイ 真夏の引力』からすぐに『ダラス・バイヤーズクラブ』へ向かうのではなく、この『MUD -マッド-』を挟んだ事によって、マシュー・マコノヒーの演技の幅が広がったんじゃないかと勝手に想像してしまう。まだ『ダラス・バイヤーズクラブ』を観てないのに。

それから、この映画の興味深いところは、Deep Southと云う言葉があるのかどうか知らないけれど、アメリカ南部、アーカンソー州の奥深いホワイト・リバー流域に住む船上生活者たちを描いているところだった。ホワイト・リバーからミシシッピ川に合流するシーンが解放感いっぱいだ。

→ジェフ・ニコルズ→マシュー・マコノヒー→アメリカ/2012→吉祥寺バウスシアター→★★★☆

エヴァの告白

監督:ジェームズ・グレイ
出演:マリオン・コティヤール、ホアキン・フェニックス、ジェレミー・レナー、エレーナ・ソロヴェイ、ダグマーラ・ドミンスク、マヤ・ワンパブスキー、アンジェラ・サラフィアン、イリア・ヴォロック、アントニ・コローネ、ディラン・ハーティガン、ディーディー・ルキシー
原題:The Immigrant
制作:アメリカ/2013
URL:http://ewa.gaga.ne.jp
場所:新宿武蔵野館

ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ザ・マスター』は、単純な愛情表現だけで成り立つ人間のドラマとは一線を画していて、人と人とのあいだに生まれる直接的な感情と、それと一緒に付随する、あやふやで、あいまいで、はっきりとしない感情のゆらぎをとても丁寧に映像化させていた。その微妙な機微を演技する俳優たち中で、教祖のフィリップ・シーモア・ホフマンに心酔する男を演じていたのがホアキン・フェニックスだった。狂気や才気、従順や奔放などがないまぜになった複雑な人物を見事に演じていて、とても強烈な印象を残した。特に以下のシーンなどは、その後にフィリップ・シーモア・ホフマンが亡くなったこともあって、今見ても泣ける。

『エヴァの告白』に登場したホアキン・フェニックスは、まるで『ザ・マスター』の人物の延長線上にも見えた。思いやりがありながらも非情で、策士でありながらもずさんなところを見せる複雑な男の悲哀が『ザ・マスター』のホアキン・フェニックスが演じるフレディ・クエルに通じているようにおもえたのだ。「愛」と「憎」だけでは割り切ることのできないマリオン・コティヤールとの関係も、フィリップ・シーモア・ホフマンとホアキン・フェニックスの関係と同じだった。

おそらく、妹と一緒に船でエリス島を後にするマリオン・コティヤールをスクリーンの左側に、二人を送った後にエリス島の中をさまようホアキン・フェニックスをスクリーンの右側に捉えたシーンは、今年度の映画の中で最高のラストシーンじゃないかとおもう。

→ジェームズ・グレイ→マリオン・コティヤール→アメリカ/2013→新宿武蔵野館→★★★★

ラッシュ/プライドと友情

監督:ロン・ハワード
出演:クリス・ヘムズワース、ダニエル・ブリュール、オリヴィア・ワイルド、アレクサンドラ・マリア・ララ、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、デヴィッド・コールダー、ナタリー・ドーマー、スティーヴン・マンガン、クリスチャン・マッケイ、アリスター・ペトリ、ジュリアン・リンド=タット、コリン・スティントン
原題:Rush
制作:アメリカ/2013
URL:http://rush.gaga.ne.jp/index.html
場所:109シネマズ木場

子供のころにテレビで見たF1ドライバーのニキ・ラウダの火傷を負った顔はとてもインパクトがあった。と同時に、大事故に遭いながらもなおかつF1に挑戦し続ける姿に狂気さえも感じていた、とおもう。でも当時はまだF1がそんなに人気があったわけではないので、その事故のあった1976年のF1世界選手権がどんなシーズンだったのかは今までよく知らずに、とりたてて詳しく調べようともせずに現在にまで至っていた。それが突然、ニキ・ラウダとジェームス・ハントのライバル関係を軸に映画化された事によって、しっかりと理解することができた。

この1976年のシーズンをリアルタイムで追いかけることが出来た人は何と幸せなんだろう。もし日本の富士スピードウェイでの最終戦を実際に見た人がいたとしたら、もだえ苦しむくらいの羨望の的だ。それくらいに人間臭くて、ドラマティックで、感動的なシーズンだった。そのシーズンをロン・ハワードがテンポよく、かっこいいシーンのカットバックをモンタージュさせながら再現させている。それにF1と云えば、音、だ。音響効果も抜群だった。エンジンの重低音のうなりが気分を高揚させ、映画を見ているだけでアドレナリンが噴出して来る。ロン・ハワードが良い時は、めちゃくちゃ良い。

映画を観終わって映画館を後にした時のF1ドライバーになったような気分は、ヤクザ映画を観た後に自分が高倉健になったような気分になるのと同じで、帰りの自転車では頭の中にT-SQUAREのF1テーマ曲がループして思わずスピードアップさせてしまう。それが映画を観ると云う行為の醍醐味の一つだ。

→ロン・ハワード→クリス・ヘムズワース→アメリカ/2013→109シネマズ木場→★★★★

ウルフ・オブ・ウォールストリート

監督:マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ジョナ・ヒル、ジャン・デュジャルダン、ロブ・ライナー、カイル・チャンドラー、マーゴット・ロビー、ジョン・ファヴロー、マシュー・マコノヒー
原題:The Wolf of Wall Street
制作:アメリカ/2013
URL:http://www.wolfofwallstreet.jp
場所:T・ジョイ 大泉

今年のアカデミー主演男優賞は、下馬評どおり『ダラス・バイヤーズクラブ』のマシュー・マコノヒーが獲った。もしかすると今回はレオナルド・ディカプリオが行けるんじゃないかと一縷の望みもあったような気もするけど、やっぱりアカデミー会員は彼に冷たかった。と云うわけで、別にレオナルド・ディカプリオのファンと云うわけでもないのだけれど、「この演技でオスカーが獲れないのならいったい何で獲れるんだ」記念で『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を観に行った。

レオナルド・ディカプリオは素晴らしかった。彼が演じたジョーダン・ベルフォートと云う人物には寸分たりとも共感できなかったけれど、今回こそはこれで絶対にアカデミー主演男優賞を獲るんだとの鬼気迫る演技で、セックス&ドラッグに溺れる拝金主義者の狂乱状態を見事に演じきっていた。ディカプリオが演技をする上でのモチベーションこそが、まるで演じているジョーダン・ベルフォートから感化されたかのごとくに見えて来るのも面白い。生き馬の目を抜くハリウッドの世界でモチベーションを維持させているディカプリオも、おそらくモチベーショナルスピーカーになれるはずだ。

そのレオナルド・ディカプリオの演技に加えて、この映画の中で面白かったのは、学歴などに関係なくトップセールスマンになれる営業トークの方法をジョーダン・ベルフォートが編み出していて、それをみんなに伝授させながら会社を大きくして行っているところだった。相手をその気にさせる営業トークと云うのは、頭の良さなどとはあまり関係なくて、ある程度、マニュアル化されたテクニックだけで出来てしまうのところが怖い。もしかすると「オレオレ詐欺」をやっている奴らもモチベーショナルスピーカーの講演を聞きに行ってるんじゃないだろうか、などと、ふとおもってしまった。

→マーティン・スコセッシ→レオナルド・ディカプリオ→アメリカ/2013→T・ジョイ 大泉→★★★☆

鑑定士と顔のない依頼人

監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、シルヴィア・フークス、ドナルド・サザーランド、フィリップ・ジャクソン、ダーモット・クロウリー、リヤ・ケベデ、キルナ・スタメル
原題:The Best Offer
制作:イタリア/2013
URL:http://kanteishi.gaga.ne.jp
場所:新宿武蔵野館

公開から時間が経つと、積極的にその映画の情報を得ようとしなくとも、ぽろぽろと断片情報が漏れ聞こえてきてしまう。たとえそれがそのものズバリの情報でなくても、その映画がどう云った類いのものであるのかがおぼろげに見えてきてしまう。この『鑑定士と顔のない依頼人』の場合は、どんでん返し、とか、驚きの展開、などのキーワードをTwitterでチョロッと拾ってきてしまったので、ジェフリー・ラッシュへ謎の女から電話がかかって来た時点で、しっかりと裏読みの体制を整えてしまっていた。そうしたら、なんと、その裏読みした通りのままストーリーが進んでしまった。しっかりとしたシナリオだし、女性の肖像画で埋め尽くされた部屋などのビジュアルにも目が瞠るものがあってとても楽しめる映画ではあるのだけれど、でも単純に、フェイク映画の常道を突き進んでいるだけの映画だった。だとしたら、ヒッチコックのように途中からネタバレさせて、その上でストーリーを構築させてしまったほうが良かったような気もするけど、それはいろんなパターンの映画を見尽くしてしまった映画オタクのごたくで、まったくの素直な気持ちでこの映画を見れば充分に楽しめる映画ではあるのだけれど。『ニュー・シネマ・パラダイス』と同じで、トルナトーレの映画を楽しむにはピュアな心持ちが必要だ。

→ジュゼッペ・トルナトーレ→ジェフリー・ラッシュ→イタリア/2013→新宿武蔵野館→★★★☆

ドラッグ・ウォー 毒戦

監督:ジョニー・トー
出演:ルイス・クー、スン・ホンレイ、クリスタル・ホアン、ウォレス・チョン、ラム・シュー、ラム・ガートン、ミシェル・イェ、ロー・ホイパン、チョン・シウファイ、バーグ・ウー、フィリップ・キョン
原題:毒戦 Drug War
制作:香港、中国/2013
URL:http://www.alcine-terran.com/drugwar/
場所:新宿シネマカリテ

多作家のジョニー・トーの映画をすべて追いかけるのは大変だ。新作の『名探偵ゴッド・アイ』も見逃してしまったし、2011年の『奪命金』とこの『ドラッグ・ウォー 毒戦』のあいだにも『高海抜の恋』と云う映画を撮っているらしい。むかしのスタジオ・システムが機能していた時代ならいざ知らず、いまの時代にこんなに映画が制作できるジョニー・トーは、ある意味、奇跡の映画作家ではないかとおもうと同時に、どこかのネジがすっ飛んでしまって制御が効かなくなった映画マシーンのようにも見えて狂気さえ感じてしまう。こんなに映画を乱発できる情熱はいったいどこから来るんだろう。

『ドラッグ・ウォー 毒戦』は、キッチリとした構成されていた『奪命金』に比べると、とても直線的な映画だった。登場人物の背景などの説明はすべて省き、情感的なものまでもすべて排除して、ただ突っ走る暴走機関車のような映画だった。無表情で拳銃をぶっ放す破滅的な人間の祝宴は北野武へのオマージュのようにも見えるけど、でも、もう少しひねりがあっても良かったような気がする。

→ジョニー・トー→ルイス・クー→香港、中国/2013→新宿シネマカリテ→★★★