●七里圭、Suzuki Ryoji『DUBHOUSE:物質試行52』(日本/2012)
●七里圭『アナザサイド サロメの娘 remix』(日本/2017)
実験的な映画を観たときに、ハッとするようなイメージに出会えることがあるのは確かだけど、それが積み重なった作品としての評価をするとなると、どうしても映像作家の「押し付けがましさ」しか感じられなくて、そこに身を委ねることがいつもできない。七里圭監督の作品もそうだった。その負のパワーが通じたのか、あと30分ぐらいで突然シャットダウンした。これ幸いとして、劇場から逃げ出した。

ということで、今年の山形国際ドキュメンタリー映画祭は短編を含めれば全部で12本を観た。で、結果は次の通り。

●インターナショナル・コンペティション
ロバート&フランシス・フラハティ賞:『オラとニコデムの家』
山形市長賞:『カーキ色の記憶』
優秀賞:『孤独な存在』『私はあなたのニグロではない』
特別賞:『激情の時』

●アジア千波万波
小川紳介賞:『乱世備忘ー僕らの雨傘運動』
奨励賞:『人として暮らす』『あまねき調べ』
特別賞:『パムソム海賊団、ソウルインフェルノ』『翡翠之城』

日本映画監督協会賞:『あまねき調べ』

市民賞:『ニッポン国VS泉南石綿村』

ワイズマンの『エクス・リブリス ― ニューヨーク公共図書館』に何の賞も与えないのは何故なんだろう? もう殿堂入りでも良いよね。

●チコ・ペレイラ『ドンキー・ホーテ』(スペイン、ドイツ、イギリス/2017)
南スペインの小さな村でロバと犬とともに暮らしていた73歳のマヌエルが、アメリカのチェロキーインディアンが辿った「涙の旅路」をロバと犬で歩きたいと言い出して、その夢を実現しようと奔走(ゆっくりと!)するロード・ドキュメンタリー・ムービー。セビーリャあたりの村からカディスの港の方へとロバと犬と一緒に歩いていく過程の景色が素晴らしい。自転車で走りたい!

●エスター・グールド『自我との奇妙な恋』(オランダ/2015)
亡くなってしまった自分の姉の足跡を描くのに、姉と似た性格を持っている人物を世界中から探して演技をさせる方法が斬新だった。それを理解するのにちょっと時間を要したけど。

●ラウル・ペック『私はあなたのニグロではない』(アメリカ、フランス、ベルギー、スイス/2016)
アフリカ系アメリカ人の作家、ジェームズ・ボールドウィンの未完の原稿「Remember This House」をもとに、暗殺された3人の活動家――メドガー・エヴェース、マルコムX、マーティン・ルーサー・キング――の軌跡を通して、アフリカ系アメリカ人の現代史を紡ぎだす。最近のニュースを見ても、黒人への差別の問題は、まだまだ表面的に解決しつつあるように見えるだけ。それを痛烈に批判しているドキュメンタリー。

●ミシェル・K・ゾンゴ『ファソ・ファニのサイレン』(ブルキナファソ、フランス、カタール/2014)
ブルキナファソで育ちつつあった国の指導による繊維産業が世界銀行やIMFの介入によって崩壊に追い込まれてしまう。まあ、政府の経営方針にも問題があったのだろうけど、アフリカの国でも自国だけで経済を回せる貴重な機会を逃した残念さ!

●我妻和樹『願いと揺らぎ』(日本/2017)
東日本大震災による津波に襲われた宮城県南三陸町の波伝谷での伝統行事「お獅子さま」を復活させようとする地元の人たちの姿を追いかける。字幕やテロップの使い方など全体的にとっ散らかっている印象があるんだけど、我妻和樹監督が波伝谷の人たちの中にすっかりと溶け込んでるからこそ作れる画が恥ずかしいぐらいに清々しくて、、

●フレディ・M・ムーラー『われら山人たち ―われわれ山国の人間が山間に住むのは、われわれのせいではない―』(スイス/1974)
フレディ・M・ムーラー監督の映画を初めて観た。淡々とテーマを扱う描き方に民族映像研究所の姫田忠義さんを思い出してしまった。もちろん、そっくりとは云わないよ。

●邢菲(ケイヒ)『選挙に出たい』(中国/2016)
中国から帰化した李小牧が新宿区区議会選挙に立候補するドキュメンタリー。これはすこぶる面白かった。まあ、原一男監督の云うところの「とんがった人にカメラを向けただけ」なのかもしれないけれど。

●趙德胤(チャオ・ダーイン/ミディ・ジー)『翡翠之城』(台湾、ミャンマー/2016)
ミャンマー北部、政府軍とカチン独立軍(KIA)が内戦をする中で一攫千金を狙って翡翠を採掘する自分の兄を描く。貧しさが人をギャンブルへ向かわせる方向もあれば、一生懸命に勉強して奨学金を取って台湾へ渡る方向もあって、その二つが融合して映画を撮っている状態が面白かった。

今年も2年に1回の山形国際ドキュメンタリー映画祭に来た。1日目はどちらも3時間半の映画なので2本で打ち止め。

●原一男『ニッポン国VS泉南石綿村』(日本/2017)
映画が終わった後の原一男監督のトークで「今まではとんがった人をフレームに収めるだけで映画になったけど、今回は泉南アスベスト訴訟の原告団の、気持ちの優しい人ばかりをフレームに収めなければならなかったので面白い映画になったのかが心配で」って云っていたけど、原告団の中の「柚岡一禎」と云うキャラクターを得て面白い映画になっていた。でも、柚岡一禎さんがいなかったら果たして面白い映画になっていたかどうか。

●フレデリック・ワイズマン『エクス・リブリス ― ニューヨーク公共図書館』(アメリカ/2016)
いつものフレデリック・ワイズマン節。図書館が図書の貸し出しだけではなくて、就職相談を受ける場だったり、子供の教育の場としたり、ネット環境のない人へのWifiルーターの貸し出しをしたりと、市民を繋ぐハブになろうとしている姿が羨ましかった。今の自分の仕事とリンクするところもあってとても刺激的だった。

監督:ゲイブ・クリンガー
出演:アントン・イェルチン、ルシー・ルーカス、パウロ・カラトレ、フランソワーズ・ルブラン、レオノール・ブルナー、レオノール・コルデス
原題:Porto
制作:ポルトガル、フランス、アメリカ、ポーランド/2016
URL:http://mermaidfilms.co.jp/porto/
場所:新宿武蔵野館

J・J・エイブラムス監督の『スター・トレック』シリーズやジム・ジャームッシュ監督の『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』に出演していたアントン・イェルチンが2016年6月19日に不思議な死にかたをした。自分の車と自宅の門に取り付けてあった郵便受けの間に挟まれて死亡しているのを発見されたのだった。何らかの理由で車のエンジンを切らずに自分の家の方へ向かったところ、坂を自然に下ってきた車に押し潰されてしまったと考えられているそうだ。27歳の若さだった。

映画を観る前にはなるべく事前情報を入れないようにして映画館に向かうのだけれど、ロビーで待っている間にペラペラと喋られてしまう情報に対しては耳をふさぐことができなかった。亡くなったアントン・イェルチンは結局は完成した映画を見ることができなかったのよねえ、との情報を小耳に挟んでしまったのだ。Twitterか何かでそのニュースを聞いた記憶があるけれど、その時まで彼が死んだことをすっかりと忘れていたのに。

となると、アントン・イェルチンに向ける視線がちょっと変わってしまった。ルシー・ルカースに翻弄されてしまうアントン・イェルチンの痩せこけた生気のない顔と、実際の彼の不思議な自動車事故による「死」とを結びつけてしまって、まるで映画のストーリーの延長線上に「死」があるように感じてしまったのだ。引越しの荷物運び(どうしてあんなに遠いところに車を止める!)に使いたかっただけのルシー・ルカースに彼は殺されたのだ! とまでは、いかないけれども。

昔は、どちらかと云うと適当な男が女をもてあそぶものだったけど、時代は変わりました。

→ゲイブ・クリンガー→アントン・イェルチン→ポルトガル、フランス、アメリカ、ポーランド/2016→新宿武蔵野館→★★★☆