今年、映画館で観た映画は31本。夏に体調を崩したこともあり、だいぶ減ってしまった。と同時に、シネコンで観られる外国映画が減ったような気がする。ますます若い人向けのラブロマンスやラブコメディやアニメだらけになってしまった。

その31本の中で良かった映画を6本に絞ると以下の通り。

どうすればよかったか?(藤野知明)
セプテンバー5(ティム・フェールバウム)
名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN(ジェームズ・マンゴールド)
教皇選挙(エドワード・ベルガー)
キムズビデオ(アシュレイ・セイビン、デイヴィッド・レッドモン)
ワン・バトル・アフター・アナザー(ポール・トーマス・アンダーソン)

以上、観た順。
10本選びたかったけれど、観た合計本数が少なかったので6本。
配信ではNetflixの『ハウス・オブ・ダイナマイト』(キャスリン・ビグロー)が面白かった。

監督:山田洋次
出演:倍賞千恵子、木村拓哉、蒼井優、迫田孝也、優香、中島瑠菜、神野三鈴、イ・ジュニョン、マキタスポーツ、北山雅康、木村優来、小林稔侍、笹野高史
制作:映画「TOKYOタクシー」製作委員会/2025
URL:https://movies.shochiku.co.jp/tokyotaxi-movie/
場所:MOVIXさいたま

山田洋次も94歳になって、まだ映画を撮ることが出来るのか! の驚きをもって『TOKYOタクシー』を観に行った。そこには倍賞千恵子もいたし、北山雅康もいたし、柴又帝釈天も登場した。これが最後の映画になるなんじゃないかとのつもりで最後まで観た。

『TOKYOタクシー』は2022年のフランス映画『パリタクシー』(クリスチャン・カリオン監督)の舞台を日本に置き換えてリメイクした映画だった。個人タクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉)は、高野すみれ(倍賞千恵子)という85歳の女性を東京の柴又から神奈川の葉山にある高齢者施設まで送ることになった。すみれにとって思い出となる都内の様々な場所に寄り道しつつ、二人は会話を重ねながら次第に打ち解けて行く。心を許したすみれは浩二に自分の壮絶な過去を話し始める。

山田洋次の映画が奇をてらったものになることはないだろうとゆるりと観た。そしておもった通りに、オーソドックスにストーリーが進んだので、まったりと映画を楽しむことができた。ただ、回想シーンでの若い頃の倍賞千恵子を蒼井優が演じていたのには違和感を持ってしまった。『男はつらいよ』でさくらを演じた若い頃の倍賞千恵子が頭の中で再生されつつ、蒼井優を見るのはあまりにもギャップが大きかった。若い倍賞千恵子をCGで出せとは云わないけれど、もうちょっと似た女優が欲しかった。それから、ギリギリで余裕のない生活を送っている個人タクシー運転手を木村拓哉が演るってのも、あまりにもイメージに合わない。だったらそこは吉岡秀隆でしょう。吉岡秀隆が貧乏くさいと云ってるわけではないけれど。いや、云ってるか。

ラストのオチは、おそらくそうなるんじゃないかと予想がついた。でも、そう云うオチにするにはあまりにも出来過ぎの感が否めないともおもった。なのに、やっぱりそうなったので、やっぱりそこも驚きのない映画だった。

新藤兼人は98歳で『一枚のハガキ』を撮った。マノエル・ド・オリヴェイラは105歳で『レステルの老人』を撮った。山田洋次もまだ行けるでしょう。

→山田洋次→倍賞千恵子→映画「TOKYOタクシー」製作委員会/2025→テMOVIXさいたま→★★★

監督:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラー、ルーク・グライムス、ディードル・オコンネル、マイケル・ウォード、アメリ・ホーファーレ、クリフトン・コリンズ・Jr.、ウィリアム・ベルー
原題:Eddington
制作:アメリカ/2025
URL:https://a24jp.com/films/eddington/
場所:MOVIXさいたま

『エディントンへようこそ』の予告編を観たとき、コロナ禍でのマスクを付ける付けないで巻き起こる住民同士のトラブルを面白おかしく描いている映画に見えた。えっ、アリ・アスターがコメディを撮ったの? そうだよなあ、彼も新境地を切り開かないと、と変に納得してしまった。

実際に映画を観てみると、な、わけがなかった。何なんだ、あの予告編。ミスリードと云うか、サムネ詐欺すぎる。やっぱり今までのアリ・アスターの映画らしく狂った映画だった。

映画の舞台はコロナ禍真っ最中の2020年、アメリカ・ニューメキシコ州の小さな町エディントン。町の保安官ジョー(ホアキン・フェニックス)は喘息持ちだから息苦しくなるマスクを付けたくない。マスク着用を強いる市長テッド(ペドロ・パスカル)と対立し、突如としてジョーは市長選に立候補する。精神的に弱いジョーの妻ルイーズ(エマ・ストーン)、陰謀論者のその母ドーン(ディードル・オコンネル)、カルト集団の教祖ヴァーノン(オースティン・バトラー)などを巻き込んで、事態はとんでもない状況へと展開して行く。

今から振り返って見れば、コロナウィルスによるパンデミックが起こったことによって、我々の生活を取り巻く環境が大きく変化してしまった。それは病気に関する衛生面のことだけではなくて、社会的な側面も大きく変容してしまった。陰謀論も含むさまざまな情報の氾濫が人々の生活を大きく左右し、差別やハラスメントに対して極端に敏感になることによって暮らし向きは窮屈となり、単純な正義なんてもうこの世にはなく、もちろん単純な悪もない。誰もが混沌としたまだら模様の中で生きて行かざるを得なくなってしまった。

アリ・アスターの『エディントンへようこそ』はまさにそのことを映像化しようとしていた。そしてホアキン・フェニックスは『ジョーカー』(2019)のアーサー・フレック(ジョーカー)と同じように、まさに現代のトリックスターである保安官ジョーを演じていた。だから、予告編からイメージしたようなコメディ映画ではなかったけれど、この住みづらい世の中を風刺したブラックなコメディ映画ではあった。で、面白かったか? と聞かれたとしたら、うーん、面白くはない、と答えるけれど。

→アリ・アスター→ホアキン・フェニックス→アメリカ/2025→MOVIXさいたま→★★★

監督:細田守
声:芦田愛菜、市村正親、斉藤由貴、岡田将生、山路和弘、柄本時生、吉田鋼太郎、松重豊、青木崇高、染谷将太、白山乃愛、白石加代子、宮野真守、津田健次郎、役所広司
制作:スタジオ地図、日本テレビ、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/2025
URL:https://scarlet-movie.jp
場所:MOVIXさいたま

細田守の新作が突然やってきた。映画館で予告編を観ることもなかったし、テレビやネットでパブリシティを目にすることもなかったので、それはまったくの突然だった。しかもシネコンの上映回数が多い! こんなに細田守の映画を観る人がいるのか?

細田守の新作をそれなりに期待して観始めると、暗い色調ではじまるのにはびっくり。前々作『未来のミライ』や前作『竜とそばかすの姫』の流れから、もっと日本のアニメーションっぽい明るい色調を期待していたのに、地獄のような世界の描写からはじまるとはおもいもよらなかった。そしていきなり中世のデンマークへ飛ばされる。主人公のスカーレットはデンマーク王国の王女で、父アムレットを殺した叔父クローディアスへの復讐を果たせずに毒殺される。

なにやらシェークスピアの「ハムレット」のようなキャラクター設定で、テーマも「To be, or not to be, that is the question.」をベースにしているような復讐への苦悩が描かれている。まあ、本質的には今までの細田守の映画にあったような主人公の苦悩や葛藤を描いていることに変わりはないのだけれど、それをあまりにもストレートに突きつけてくるので、ここまでベタな作品を作る意味をはどこにあるんだろうと最初のうちはわからなかった。ただ、その中でもひとつ面白いとおもったのは、王女スカーレットも叔父クローディアスも現世ではすでに亡くなっていて(いるように見える)、そこから「虚無」になるまでの中間地点での世界(これがオープニングの地獄のような世界だった)が舞台であることだった。

その「現世」と「虚無」の中間地点であるような異次元世界は、過去や未来の区別もなく、また場所も特定されない。だからスカーレットは日本の救命救急センターの看護師である聖(ひじり)と知り合うこととなって、二人して復讐を果たすべく叔父クローディアスが居るであろう「見果てぬ場所」へと旅して行く。

この異次元世界の描写がまるで中東のようなイメージで、子供の亡くならない世界を望んだりもするので、それはどうしたってパレスチナのガザのことと結びつけてしまう。ああ、なるほど、このあまりにも遊びを排除した窮屈な映画は、憎しみの連鎖の止むことのないユダヤとパレスチナの状況を描こうとしているからなのかとおもい当たってしまう。その意義はわかるけれど、細田守の今までの映画のようにもうちょっと硬軟織り交ぜたものに、例えばローゼンクランツとギルデンスターンあたりでもっと遊べれば良かったのに。

それから、デンマークの王女スカーレットの感情の表し方が、細田守の今までの映画に出てきた日本の女子高校生のそれとまったく同じなことにどうしたって違和感を持ってしまう。別に日本のアニメーション的な感情描写でも悪くはない。日本のアニメーションなんだから。でも、このテーマにはそぐわない気がしてならなかった。

いま、自分のよく行く映画館の『果てしなきスカーレット』のスケジュールを見ると、すっかり上映回数が減ってしまった。ネットニュースでは、大コケ、の言葉が踊る。細田守の映画を見てきたようなファンに向けた映画ではないことは容易に想像がつくので、もうちょっとそれ以外の、『国宝』を観に行くような世代にでもパブリシティを展開させたら良かったのに。

→細田守→(声)芦田愛菜→スタジオ地図、日本テレビ、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/2025→MOVIXさいたま→★★★

監督:三宅唱
出演:シム・ウンギョン、河合優実、髙田万作、斉藤陽一郎、松浦慎一郎、足立智充、梅舟惟永、佐野史郎、堤真一
制作:映画『旅と日々』製作委員会/2025
URL:https://www.bitters.co.jp/tabitohibi/
場所:テアトル新宿

つげ義春の漫画は、アンソロジーが組まれた本などでしか読んだことがなくて、そこで受けた印象からもっと読みたいとおもうものの、漫画を読む習慣が失われて久しく、なかなか手が出ずにそのまま時間が過ぎてしまっている。つげ義春の作品を原作としている竹中直人の『無能の人』(1991)や山下敦弘の『リアリズムの宿』(2003)を観たときにも感じた、日本の原風景に見える叙情的な雰囲気は、合理性が支配する情報化社会の対極にも位置しているように感じられて、いまでこそ読んでみるべき漫画ではないかとおもってはいるもののまだ読み込んでないのがとても残念。

三宅唱監督の『旅と日々』は、韓国人の脚本家である李(シム・ウンギョン)が書いた脚本が映画化されるエピソードが前半で、李がふらりと訪れた雪深い山奥の宿「べんぞうや」でのやる気のない宿主べん造(堤真一)との交流が後半となっている。それぞれつげ義春の漫画「海辺の叙景」と「ほんやら洞のべんさん」の2作品を原作としている。

ホテルの予約もせずにおもいつくまま旅をするのは楽しそうに見えるものの、もし野宿でもせざるを得ない状況に追い込まれたことを考えたら、とてもじゃないけれどそこまでの勇気は出ない。のに、韓国人の李(シム・ウンギョン)が、不馴れな土地である日本の冬の山村でそれをトライして、普通のパック旅行では得られない想像もつかないような体験が得られるのは、やっぱり、あこがれてしまう。でも、もし自分がホテルの予約もせずに韓国の田舎を旅することを考えたら、いやいや、たとえ日本の田舎だとしても、とてもそれを行う勇気がまったく見えない。

脚本家の李を演じたシム・ウンギョンは、中学校の頃に観た岩井俊二監督の『リリィ・シュシュのすべて』(2001)や是枝裕和監督の『誰も知らない』(2004)で日本の映画に興味を持つようになって、「いつか日本で仕事ができたらいいな」と云う夢を持ったと云う。

https://www.cinra.net/article/interview-201905-shimbunkisha

まるでポツンと日本の田舎に放り込まれた脚本家の李のように、日本の芸能界に飛び込んだシム・ウンギョン。『新聞記者』(2019)を観たときは、そこまで日本での活動を増やすとはおもいもしなかった。その勇気に脱帽するとともに、日本での活動を応援したいと『旅と日々』を観ておもいはじめた。

→三宅唱→シム・ウンギョン→映画『旅と日々』製作委員会/2025→テアトル新宿→★★★☆

監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ、レジーナ・ホール、テヤナ・テイラー、チェイス・インフィニティ、アラナ・ハイム、ウッド・ハリス、シェイナ・マクヘイル、ポール・グリムスタッド、トニー・ゴールドウィン、ジョン・フーゲナッカー、エリック・シュヴァイク
原題:One Battle After Another
制作:アメリカ/2025
URL:https://wwws.warnerbros.co.jp/onebattlemovie/index.html
場所:MOVIXさいたま

ポール・トーマス・アンダーソンの新作がやってきた。邦題は『ワン・バトル・アフター・アナザー』。なんだ、このひどいタイトル。どんな映画なのかまったく想像がつかない。なるべく事前情報を入れたくないのでそれは大歓迎なんだけれど、原題の英語センテンスをそのままカタカナ表記するのはどう考えても安易すぎる。

映画がはじまると、カリフォルニアの移民収容所から移民を救出する極左革命グループ「フレンチ75」の活動が描かれる。ポール・トーマス・アンダーソンにしては珍しい時事ネタなんだ、とおもっていらすぐに、「フレンチ75」のメンバーであるパーフィディア・ビバリーヒルズ(テヤナ・テイラー)と「フレンチ75」を追う軍人スティーブン・ロックジョー大佐(ショーン・ペン)の性的に倒錯した関係を見せつけられる。そうそう、これこそがポール・トーマス・アンダーソンの映画なんだなとはおもうものの、今までとは違ってとても多くの人に開いたわかりやすい映画になっているのはどうしてなんだろう? 

映画の後半はまるで70年代の映画のような逃走劇だ。とてもエキサイティングで、ワクワクするアクション映画になっていて、ポール・トーマス・アンダーソンの名前を知らない人がシネコンでこの映画を選んだとしても誰しもが楽しめる映画になっていた。とは云っても、ポール・トーマス・アンダーソンが作り出す偏執的なキャラクターは存在していて、それがこの映画にアクセントを加えているのが楽しかった。

偏執的なキャラクターの中でも面白かったのは、いちおうこの映画の主人公であるボブ・ファーガソン(レオナルド・ディカプリオ)だった。彼はいったい何者だったんだろう? とても頼りなくて、いつもラリっていて、極左翼のグループ「フレンチ75」に属していながら考え方はいたって保守的。メキシコ人やLGBTへの差別的な発言も見せる。今の時代、頼りになるのは女性ばかりで、娘のウィラ・ファーガソン(チェイス・インフィニティ)のかっこよさに比べたら、男はダメダメだ。70年代の映画とは逆転している。

いつも同じような映画ばかりを撮っていてもつまらないので、ポール・トーマス・アンダーソンがこのようなアクション映画を撮ることは大歓迎だ。ただ、お客が入るのかなあ。邦題が『ワン・バトル・アフター・アナザー』では、少なくとも日本では無理だろうなあ。

→ポール・トーマス・アンダーソン→レオナルド・ディカプリオ→アメリカ/2025→MOVIXさいたま→★★★★

監督:李相日
出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、越山敬達、永瀬正敏、嶋田久作、芹澤興人、宮澤エマ、中村鴈治郎、瀧内公美、田中泯、渡辺謙
制作:映画「国宝」製作委員会/2025
URL:https://kokuhou-movie.com
場所:MOVIXさいたま

やっと李相日の『国宝』を観た。これだけ話題になっていて、しかも観た人からも「面白かった!」との絶賛報告を受けると、見る目がどんどんと鋭くなって評価も厳しくなってしまうのはいつものこと。今回も、たしかに面白かったのだけれど、長編小説を映画化する時のエピソードの整理の仕方が気になってしまった。

映画のラストで人間国宝となった花井東一郎(吉沢亮)が「鷺娘」を演じると云うことは、花井半二郎(渡辺謙)の弟子となって最初に観た演目である小野川万菊(田中泯)の「鷺娘」との繋がりを持たせているわけで、となると、原作小説では花井東一郎と小野川万菊との関係性がもっときめ細やかに描かれているんじゃないかと想像する。失踪した花井半弥(横浜流星)を救うのも小野川万菊であるし、花井半二郎が亡くなってからの三代目花井東一郎の凋落から手を差し伸べるのも小野川万菊であることから、この映画の一つのキーとなるのが小野川万菊であることは間違いない。なのに、あまりにも中途半端な小野川万菊の描き方に、これでは重要なものが抜け落ちているのではないか? とのおもいに駆られてしまった。

と云っても、小野川万菊との関わりのシーンを増やせば、完全に3時間超えの映画になることは間違いない。映画興行のことを考えれば3時間超えになることは避けたかったに違いない。そのあたりが難しい判断だった。

吉田修一の「国宝」を読まなければ。そこには花井東一郎と小野川万菊との関係についての記述が多くあるとおもう。その補完をすることによってもっと映画『国宝』を楽しめるはずだ。

→李相日→吉沢亮→映画「国宝」製作委員会→MOVIXさいたま→★★★☆

監督:ウェス・アンダーソン
出演:ベニチオ・デル・トロ、ミア・スレアプレトン、マイケル・セラ、トム・ハンクス、マチュー・アマルリック、ジェフリー・ライト、スカーレット・ヨハンソン、ウィレム・デフォー、ビル・マーレイ、シャルロット・ゲンズブール、ベネディクト・カンバーバッチ
原題:The Phoenician Scheme
制作:アメリカ、ドイツ/2025
URL:https://zsazsakorda-film.jp
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

ウェス・アンダーソンのスタイリッシュな作風に対して、一つの映画のあり方として眺めればどうしても鼻について嫌いなんだけれど、実際のところ細かいパーツ、パーツが好きだったりするので、その愛憎半ばする気持ちにいつも身を捩りながら観ている。最新作の『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』も同様だった。映画って、絵画のような構図のシーンをスライドショー的なシークエンスで見せられるよりも、トム・クルーズの「ミッション: インポッシブル」のように大げさにモノを動かす映画のほうが、活動写真としての原点だからなあ。このスタイルをこのまま続けるのはちょっと無理があるとはおもう。もう飽きが来ているので、初心に帰って『ダージリン急行』のような普通の映画を一本撮っても良い気がする。

とおもいながら映画を観終わって、ダラダラとエンドクレジットを観ていたら、ああ、なるほど、ルノワールやマグリットなどの絵画は本物を用意しているし、大富豪ザ・ザ・コルダ(ベニチオ・デル・トロ)が娘リーズル(ミア・スレアプレトン)に贈る“世俗的なロザリオ”はカルティエで、宝石で飾られたコーンパイプはダンヒルだったりと、めちゃくちゃ凝っていることをさり気なく主張している。相変わらず配役は豪華だし、細かいところにウンチクを散りばめて知的好奇心を刺激するし、まあ、こんなスタイルの映画を続けられてもまた観に行くんだろうなあ。

みんなが大絶賛した『グランド・ブダペスト・ホテル』を大嫌いだと公言してからもずっとウェス・アンダーソンを観続けている。

→ウェス・アンダーソン→ベニチオ・デル・トロ→アメリカ、ドイツ/2025→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆

監督:アシュレイ・セイビン、デイヴィッド・レッドモン
出演:キム・ヨンマン、ショーン・プライス・ウィリアムズ、アレックス・ロス・ペリー、ディエゴ・ムラーカ、エンリコ・ティロッタ、ヴィットリオ・ズカルビ、ジュゼッペ・ジャンマリナーロ
原題:Kim’s Video
制作:アメリカ/2023
URL:https://kims-video.com
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町

一昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で話題となったアシュレイ・セイビン&デイヴィッド・レッドモン監督の『キムズビデオ』がやっと一般公開された。韓国系移民のキム・ヨンマンが1987年にニューヨークで開業した「キムズビデオ」の5万5000本もの貴重なビデオコレクションの数奇な運命を追ったドキュメンタリー。

VHSやDVDの膨大な映画のコレクションを見ると心ときめいてしまう。日本では新宿や渋谷のTSUTAYAの品揃えが有名だった。すでにDVDの時代だったのに、VHSにしかないタイトルを新宿TSUTAYAで借りたものだった。その日本のTSUTAYAよりもさらに膨大な品揃えの「キムズビデオ」はどんなに素晴らしい場所はだったんだろう。映画ファンにとって空前絶後の聖地だった。

しかし時代は配信の時代へ。「キムズビデオ」は2008年に惜しまれながらも閉店する。そしてその膨大なコレクションは、芸術の都を目指そうとしたイタリアのシチリア島にある村、サレーミへと移管されていた。キムズビデオの元会員デビッド・レッドモンがコレクションの行方を捜索すると、サミーレでコレクションがホコリだらけの湿った所蔵庫に放置されていることを発見する。

と、「キムズビデオ」のコレクションが、あれよあれよとおもいもよらない方向へと展開して行く顛末がとても面白かった。監督のアシュレイ・セイビンとデイヴィッド・レッドモンはそこに、フェリーニやベルイマンの名作からマニアックなもので、いろいろな映画のシーンを織り込む手法を取っているのもやはり映画ファンとしては嬉しかった。でも、自分たちの犯罪スレスレの行為である「キムズビデオ」コレクション奪還作戦を、そのコレクションの中にあるだろう映画のシーンと重ねて、映画の亡霊たちに突き動かされた結果なので許してね、と弁解に利用しているのはちょっとズルかった。

数で云えば「キムズビデオ」には到底及ばないものの、あの新宿や渋谷TSUTAYAのコレクションもどうなったんだろう? 単純に廃棄されちゃったのかなあ。この「キムズビデオ」のようなストーリーは、無いだろうなあ。

→アシュレイ・セイビン、デイヴィッド・レッドモン→キム・ヨンマン→アメリカ/2023→ヒューマントラストシネマ有楽町→★★★★

監督:ジェームズ・ガン
出演:デヴィッド・コレンスウェット、レイチェル・ブロズナハン、ニコラス・ホルト、エディ・ガテギ、アンソニー・キャリガン、ネイサン・フィリオン、イザベラ・メルセード、ウェンデル・ピアース、スカイラー・ギソンド、サラ・サンパイオ、ミリー・オールコック
原題:Superman
制作:アメリカ/2025
URL:https://wwws.warnerbros.co.jp/superman/
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

ジェームズ・ガンが監督をしたマーベル・シネマティック・ユニバースの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』はとても楽しい映画だった。彼が作り出すリズム感のあるノリノリのアクションシーンは、そこで使われている楽曲とのコラボが抜群で、さらに彼による『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの映画が観たくなった。

ところが、ジェームズ・ガンのTwitterの投稿に不適切な内容があったとして『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズ3作目の監督から外されると云う騒動が起きた。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の出演俳優たちの反対表明によって監督復帰が決まったが、この騒動のスキを付いてワーナーがジェームズ・ガンにDCコミックスシリーズ映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』の監督、脚本を依頼してきた。結局彼は今後、マーベルとはライバル関係にあるにDCコミックスシリーズの映画の監督をして行くことになる。

そして今回ジェームズ・ガンは、DCコミックスシリーズの映画としては2作目の『スーパーマン』を撮った。なんとなくザック・スナイダーの『マン・オブ・スティール』の続編かとおもったのだけれど、『マン・オブ・スティール』(2013)は「DCエクステンデッド・ユニバース」で、それとは違うシリーズとしてワーナーはスーパーマンを主軸とするDCフランチャイズ「DCユニバース」を打ち出していた。ジェームズ・ガンの『スーパーマン』はそのシリーズの第1作となる。

ジェームズ・ガンの『スーパーマン』にも『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』にあったリズム感のあるノリノリのアクションシーンが健在していた! ジャスティス・ギャングの頭脳担当ミスター・テリフィックのアクションシーンがそれだった。使われている楽曲はノア・アンド・ザ・ウォール(Noah and the Whale)の“5 Years Time”。このようなアクションシーンや、予告編にも大きくフィーチャーされていたスーパーマンが爆風から小さな女の子を覆いかぶさるように守るシーンなど、ジェームズ・ガンが作り出すVFXのイメージ構築はびっくりするほどカッコよく、それでいてストーリーから浮き立つことなくしっかりと溶け込んでいるのがすごい。

グラント・モリソンとフランク・クワイトリーらによるコミック『オールスター:スーパーマン』(2005年 – 2008年)からインスピレーションを得たジェームズ・ガンによる脚本が、あまりにも現代社会とシンクロしているのに、まあ、ちょっと辟易したけれど、次回作も絶対に追いかけなければ。

→ジェームズ・ガン→デヴィッド・コレンスウェット→アメリカ/2025→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆