ブラック・クランズマン

監督:スパイク・リー
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、コーリー・ホーキンズ、ヤスペル・ペーコネン、ポール・ウォルター・ハウザー、ライアン・エッゴールド、アシュリー・アトキンソン、ロバート・ジョン・バーク、アレック・ボールドウィン
原題:BlacKkKlansman
制作:アメリカ/2018
URL:https://bkm-movie.jp
場所:Movixさいたま

やっとスパイク・リーがアカデミー賞を獲った。脚色賞ではあったのだけれど。それでもその授賞式の喜びようから、やっぱりアカデミー賞が欲しかったんだなあ。

その脚色賞を受賞したスパイク・リーの『ブラック・クランズマン』は、タランティーノの『ジャッキー・ブラウン』と同様に70年代のブラックスプロイテーションの映画に対してオマージュを捧げているところや、最近流行の多様性尊重を訴える映画でありながらその主張をうまくエンターテインメントにくるんで笑える映画にしているところなどが、さすがスパイク・リー! と唸るほどの、とても好感の持てる映画に仕上がっていた。ただ、この映画の最後に、2017年8月にバージニア州シャーロッツビルで起きた、白人至上主義に反対する人々の群れに車が突っ込む実際の映像を入れてきた。うーん、この部分はいらなかったんじゃないのかなあ。映画の中に巧く織り込んだ主張が、映画を観た人々の気持へとじわ〜と徐々に浸透して行くところが気持ち良いのに、そこにダメ押しのように、強烈な映像をぶち込む必要はなかったと個人的にはおもう。

それからやっぱり悪役は大切だ。やたらと鋭い洞察力を示す白人至上主義のフェリックス・ケンドリックソン役を演じたヤスペル・ペーコネンが素晴らしかった。その奥さん役のアシュリー・アトキンソンも!

→スパイク・リー→ジョン・デヴィッド・ワシントン→アメリカ/2018→Movixさいたま→★★★☆

監督:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
声:小野賢章、宮野真守、悠木碧、大塚明夫、高橋李依、吉野裕行、中村悠一、玄田哲章、稲田徹
原題:Spider-Man: Into the Spider-Verse
制作:アメリカ/2018
URL:http://www.spider-verse.jp/site/
場所:109シネマズ菖蒲

今年のアカデミー賞の長編アニメ映画賞に細田守監督の『未来のミライ』がノミネートされて、外国語映画賞にノミネートされた『万引き家族』とともに日本でも大きなニュースになった。で、日本では誰もが『未来のミライ』の受賞を願っているような雰囲気につつまれていたのだけれど、その映画の出来に「?」だった自分にとっては、まあ、日本のアニメが評価されるのは嬉しいが、ほかの候補の、例えば『インクレディブル・ファミリー』とか『シュガー・ラッシュ:オンライン』のほうが面白かったよな、なんてことをおもったりして、ちょっと複雑な気分で授賞式を見守っていた。

受賞したのは、5本のノミネーション作品のうちで唯一まだ観ていなかった『スパイダーマン: スパイダーバース』だった。おー、どんな映画なんだろう? って観てみたら、主人公が黒人の高校生に設定されていて、そしてパラレルワールドのそれぞれの世界に存在するスパイダーマンたちのキャラクターも多様性に富んでいて、ああ、これなら最近の風潮に敏感なアカデミー会員にも受ける内容だなあ、ってことが第一印象の映画だった。もちろん、映画の出来もとても素晴らしくて、まあ、我々日本人にとっては特に、日本の萌系アニメーションを意識しているとおもわれるペニー・パーカーのキャラクターが日本のセルアニメ的二次元表現で、全体の3D表現のなかでぺたりと動いているところがとても共感できる部分だった。

とても申し訳ないんだけど『未来のミライ』よりもこちらが受賞できたのは、まあ、当然のことだった。

→ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン→(声)小野賢章→アメリカ/2018→109シネマズ菖蒲→★★★☆

運び屋

監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ、ダイアン・ウィースト、アンディ・ガルシア、アリソン・イーストウッド、タイッサ・ファーミガ
原題:The Mule
制作:アメリカ/2018
URL:http://wwws.warnerbros.co.jp/hakobiyamovie/
場所:109シネマズ菖蒲

クリント・イーストウッドも88歳になって、いったいどんな映画を撮るんだろう? って期待していたら、とてもこじんまりとした映画を用意してきた。いや、もちろん、これはこれで素晴らしいのだけれど、その内容がクリント・イーストウッドの生きてきた人生を彷彿とさせるストーリーなので、どんなに才能のある人間と云えども、人生も最晩年に来たら家族に対する贖罪の念が湧き上がるものなのかと、その「人並み」なことに嬉しくもあり、がっかりでもあり、複雑なおもいの入り交じる映画になってしまった。

109シネマズ菖蒲でこの映画を観ていたとき、クリント・イーストウッドが余命いくばくもない妻役のダイアン・ウィーストを見舞ったシーンで、ぷっつりとシャットダウンしてしまった。停電だった。クリント・イーストウッドにとってこの映画の中で一番大切なシーンだったような気もするけど、それを拒否するかのように切れてしまったのは、もしかするとこちらのおもいが電波したんじゃないのかと鳥肌が立ってしまった。

→クリント・イーストウッド→クリント・イーストウッド→アメリカ/2018→109シネマズ菖蒲→★★★☆

グリーンブック

監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ、ディメター・マリノフ、マイク・ハットン、イクバル・セバ、セバスティアン・マニスカルコ、ファン・ルイス、P・J・バーン
原題:Green Book
制作:アメリカ/2018
URL:https://gaga.ne.jp/greenbook/
場所:109シネマズ木場

ピーター・ファレリー監督の『グリーンブック』を観終わってすぐに、岩波現代文庫から出ている藤本和子著「塩を食う女たち――聞書・北米の黒人女性」を読み始めた。その本の最初の「生き残ることの意味 はじめに」に以下のように書いてあった。

わたしは黒人が「生きのびる」という言葉を使うときには、肉体の維持のことだけをいっているのではないと感じていた。「生きのびる」とは、人間らしさを、人間としての尊厳を手放さずに生き続けることを意味している。敗北の最終地点は人間らしさを捨てさるところにあると。

『グリーンブック』の中でマハーシャラ・アリが演じているピアニストのドン・シャーリーはまさに「人間としての尊厳」を手放さずに生きている黒人だった。実際のドン・シャーリーの育った環境は、奴隷としてアメリカに連れてこられた黒人の子孫とは違うのかもしれないけれど、黒人のDNAにある「人類の進化形」としての肉体的、そして精神的なたくましさからくるのであろう「人間としての尊厳」をどんなときにも維持し続けて生きている人物だった。

ドン・シャーリー役のマハーシャラ・アリの演技は、彼が画面に現れるだけでピンと背筋の立つオーラを発散させていて、品性の欠けるイタリアンを演じているヴィゴ・モーテンセンとのアンバランスさが緊張感を高めていると同時に、両極端の人間のあいだに起こりつつある化学変化に興味が引きつけられてしまう巧い映画だった。その巧さがちょっと鼻につくような気もするけど、まあ、それは贅沢な話だ。

→ピーター・ファレリー→ヴィゴ・モーテンセン→アメリカ/2018→109シネマズ木場→★★★★

ファースト・マン

監督:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、クレア・フォイ、ジェイソン・クラーク、カイル・チャンドラー、コリー・ストール、クリストファー・アボット、キーラン・ハインズ
原題:First Man
制作:アメリカ/2018
URL:https://firstman.jp
場所:池袋HUMAXシネマズ

トム・ウルフが「ザ・ライト・スタッフ」でアメリカにおける宇宙計画の最初の七人(アラン・シェパード、ガス・グリソム、ジョン・グレン、ゴードン・クーパー、ウォルター・シラー、スコット・カーペンター、ディーク・スレイトン)の功績を描いたあとに、そのエピローグで「つぎの九人」と表現したジェミニ計画以降の宇宙飛行士たちが受けるだろう大衆の変化(つまり熱狂が過ぎ去った後のシビアな感情の芽生え)についてさらりと触れていた。そこを読んだときに、すでに月面着陸成功の大熱狂のニュースしか知らない自分にとっては、その意味することが何なのかいまいちピンとこなかった。

デイミアン・チャゼル監督が撮った人類初の月面着陸を成功させたニール・アームストロングの映画を観て、ああ確かに、相次ぐ実験の失敗、宇宙飛行士の死、湯水のように使うお金、そしてさらにベトナム戦争の泥沼化、公民権運動の激化などの時代背景から、すでに宇宙飛行士たちが受けるだろう風が逆風に転じていることをトム・ウルフの文章から察するべきだった。

だからトム・ウルフの原作を映画化したフィリップ・カウフマンの『ライトスタッフ』がチャック・イエーガーを崇める七人の使徒のような寓話として宇宙計画を描いていたのに対して、今回の『ファースト・マン』がやたらと暗く、精神的に圧迫されていて、閉塞感が漂う映画になるのは当然のことだったのかもしれない。『ライトスタッフ』が大好きな自分にとっては、その落差を埋めるのにちょっと苦労したけれど、ああでも、これはこれでとても面白かった。

アポロ11号の成功があまりにも出来すぎていたので、本当に成功していたのか? の陰謀論が出てしまうのもうなづけてしまう。当時はそれだけアポロ計画への風当たりは強く、成功せざるを得ない状況に追い込まれていた。そんな中で月面着陸を成功させたニール・アームストロングの凄さは計り知れない。デイミアン・チャゼル監督はニール・アームストロングの孤独な戦いを彼の規格外の人間的性も含めてよく描いていた。

→デイミアン・チャゼル→ライアン・ゴズリング→アメリカ/2018→池袋HUMAXシネマズ→★★★★

監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルト、ジョー・アルウィン、マーク・ゲイティス、ジェームズ・スミス
原題:The Favourite
制作:アイルランド、イギリス、アメリカ/2018
URL:http://www.foxmovies-jp.com/Joouheika/
場所:Movixさいたま

ヨルゴス・ランティモスの映画はいつも人間の不気味さ、気持ち悪さを前面に押し出してくる。不快感を感じずにはいられない描写が多い。でも、実際の人間が綺麗なものかと云えば、よくよく考えるとそうじゃない。汚いものだ。その汚いものを直視させてくれているわけだから、感謝しこそすれ嫌悪すべきではない、とはおもう。映画を観ると云う行為は、汚い現実を逃避するために綺麗なものだけを観たいと云う側面は確かにあるのだけど、そればっかりだと飽きてしまうので、ヨルゴス・ランティモスの映画のようなものが時にはあるとすこぶる面白く感じてしまう。

『女王陛下のお気に入り』のオリヴィア・コールマンが演じたアン女王も醜かった。感情の起伏が激しく、肥満のうえに痛風持ちで一人では十分に歩けず、6回の死産、6回の流産を経験したことからか精神的にも破綻をきたしているように見える人物だった。まさに、ヨルゴス・ランティモスが題材に選ぶにふさわしい人物で、オリヴィア・コールマンにとってもアカデミー主演女優賞を獲るためにあるようなおいしい役柄だった。

なぜだか嘔吐のある映画に面白い映画が多く、誰だかTwitterで「ゲロ映画にハズレなし」と云っていたことに全面的に同意したのだけれど、この映画もそうなるかとおもいきや、ああ、やっぱりエマ・ストーンが個人的にダメだ。いや、この役柄はもっと華奢で可憐だけど野心むき出しのギャップを出せる女優のほうがが良かったんじゃないかなあ。エル・ファニングとか。

→ヨルゴス・ランティモス→オリヴィア・コールマン→アイルランド、イギリス、アメリカ/2018→Movixさいたま→★★★☆