監督:ジェリー・ロスウェル
出演:
原題:The Reason I Jump
制作:イギリス/2020
URL:https://movies.kadokawa.co.jp/bokutobi/
場所:Movixさいたま

重度の自閉症である東田直樹は、人と会話をすることはできないけれども、文字盤を使えば豊かな表現力を発揮することができる。彼が書いた「自閉症の僕が跳びはねる理由」は、自閉症の人のこころの中があきらかになったはじめての本として全世界に衝撃をあたえたらしい。らしい、と云うのは、そんな素晴らしい本があることをまったく知らなかった。絶対に読んでみたいとおもう。

東田直樹の「自閉症の僕が跳びはねる理由」を英語訳をしたデイヴィッド・ミッチェルは、自分も自閉症の息子を育てていて、息子の不可解な行動の理由を東田直樹の著書の中に見つけて衝撃を受けた人のひとりだった。その英語訳を受けて、ドキュメンタリー化したのがジェリー・ロスウェル監督の『僕が跳びはねる理由』だった。

東田直樹のような自閉症の人が観ている世界、感じている世界をうまく映像化できたのだろうか、と云う視点でこの映画を観てしまうと、それは難しい作業だった、と云わざるを得なかった。そのような視点から語ろうとする映像に少し無理があったような、、、まずは、本を読まないとなあ。それからこのドキュメンタリーを見れば、また違った印象を持つのかもしれないのだけれど。

→ジェリー・ロスウェル→→イギリス/2020→★★★

監督:クロエ・ジャオ
出演:フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイ、シャーリーン・スワンキー、ボブ・ウェルズ
原題:Nomadland
制作:アメリカ/2021
URL:https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland.html
場所:Movixさいたま

いまの経済至上主義の世の中で、そこからあぶれた人たちが絶対的な敗者なのかと云えば、どこに価値観を見出すかで様相がまっく変わってしまうので、世間のお金にまつわる煽りに便乗する気もない人たちにとっては、そんなことでマウンティングしてくる人たちこそ、何かに魂を奪われてしまった敗者に見えるに違いないとおもう。

クロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』に出てくるフランシス・マクドーマンドが演じるファーンは、2008年に起きたリーマンショックによる経済危機によって、キャンピングカーによるノマド(放浪暮らし)を余儀なくされてしまう。夫に先立たれた彼女は、まるで季節労働者のようにAmazonの倉庫などでパートとして働きながら生計を立てて、同じようなノマド生活をする先人たちの考えや哲学に耳を傾けながら、自分なりのノマド生活を実践して行く。

そんなファーンを心配した姉が自分の家に招いて、一緒に暮らさないか、と話しを持ち出すシーンがあった。ちょうど姉の夫の友人たちが遊びに来ていて、食事のときの株式や投資ファンドの話題が気に食わないファーンは、その座をしらけさせてしまう。そこで彼女は、多くの人たちが「常識」とするものを「常識」として受け入れることのできない自分がいることに気づいたのだとおもう。

自分が以前に住んでいたネバダ州の企業町エンパイアの雄大な砂漠を見るファーンの姿で映画は締めくくられる。ノマドの人たちがめぐり逢う雄大な自然に価値観を見出すのか、株価やファンドで儲けたお金でモノを買うことに価値観を見出すのか、自分はどっちだろうと考えたときに、前者である、と云いたいところだけれど、後者にも足を踏み込んでしまっているのは間違いないし、宙ぶらりんの状態にいる自分がいつももどかしい。

→クロエ・ジャオ→フランシス・マクドーマンド→アメリカ/2021→★★★★

監督:庵野秀明(総監督)、鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏
声:緒方恵美、神木隆之介、林原めぐみ、宮村優子、坂本真綾、三石琴乃、 山口由里子、石田彰、立木文彦、清川元夢、山寺宏一
制作:スタジオカラー/2021
URL:https://www.evangelion.co.jp/final.html
場所:109シネマズ木場

庵野のエヴァンゲリオンがついに完結した。

最初の「新世紀エヴァンゲリオン」の第弐拾伍話、最終話を見て、えっ? 人類補完計画ってなんだったの? になってから何年になるんだろう? おそらくは、庵野自身の中にあったエヴァンゲリオンの構想を一つのTVシリーズとしてうまくまとめ切れずに、落とし所を失った結果があの最終回だったんだろうとおもう。

3月21日にNHKで放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル」の中で、面白さを追い求めるあまり、他人を追い込み、自身をも追い込む庵野の姿勢を見て、ああ、こんな制作姿勢じゃ、週イチのアニメーション放送でうまくストーリーをまとめ切れるはずがなかったなあ、とあらためておもってしまった。

そして、エヴァンゲリオンを完結させるべくして走り出した新劇場版が、序、破、Qと来て、ついにラストの「シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇」にたどり着いた。さあ、うまくまとめきれたのか、と姿勢を正して観に行ったら、ああ、うん、まとまってた。そして終わってた。でも、「プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル」の中で庵野が追求していた「今までにないもの」「面白いもの」だったのか、と云われれば、うーん、面白いような気がする、レベルの映画だった。どちらかと云えば「終わらせなければいけない」「ここで一区切りつけなければならない」のほうがまさっていたような気がしてならない。

「プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル」のラストで、庵野がスタッフに「終わりました」と報告したときに、みんなから拍手で迎えられたシーンを見て、TVシリーズ「新世紀エヴァンゲリオン」の最終話とダブってしまった。「シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇」が面白かったかどうかなんてもう関係なかった。ありがとう、庵野秀明、と拍手を送るのが正しい終わり方だった。

→庵野秀明(総監督)、鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏→(声)緒方恵美→「スタジオカラー/2021→109シネマズ木場→★★★☆

監督:ジョシュ・トランク
出演:トム・ハーディ、リンダ・カーデリーニ、ジャック・ロウデン、マット・ディロン、ノエル・フィッシャー、カイル・マクラクラン
原題:Capone
制作:アメリカ/2020
URL:https://capone-movie.com
場所:新宿シネマカリテ

アル・カポネと云えば、学校の授業の世界史で習わなくとも、日本人でさえもなんとなく知ることになるアメリカ近代史の中の有名人のひとりで、さらにアメリカ映画をたくさん観ている人ならば、ブライアン・デ・パルマ監督の『アンタッチャブル』でのロバート・デ・ニーロのアル・カポネをおもい浮かべる人もいるかもしれない。

でも、そのアル・カポネの晩年となると、さすがにそこまでの情報は持ってなくて、たしか脱税で捕まった、くらいの知識しかなかった。

ジョシュ・トランク監督の『カポネ』は、そのアル・カポネの晩年を描いていて、フロリダ州パーム・アイランドの豪華な屋敷で余生を送るカポネをトム・ハーディが演じていた。

梅毒を患っていたアル・カポネは、もう完全に心身ともにおかしくなっていて、うんちを漏らすは、幻覚を見るは、人として体をなしていない状態で、そんなぶざまな人間を延々と映画として見せられて、トム・ハーディはすごいな、よくこんな役を引き受けたな、の感想くらいしか持てなかった。アル・カポネの相棒ジョニー・トーリオをマット・ディロンが演じていて、そこがこの映画のポイントのようにもおもえるけれど、二人のシーンがこの映画に与えている影響がよくわからなかった。この相棒ジョニーや、隠し子トニーとの関係も含めて、もっとアル・カポネの内面をえぐり出すような映画であれば良かったのに。

→ジョシュ・トランク→トム・ハーディ→アメリカ/2020→★★★

監督:アントワーヌ・ランボー
出演:マリナ・フォイス、オリヴィエ・グルメ、ローラン・リュカ、フィリップ・ウシャン、インディア・ヘア
原題:Une intime conviction
制作:フランス・ベルギー/2018
URL:http://www.cetera.co.jp/kakushin/
場所:新宿武蔵野館

2000年にフランスで実際に起こった未解決事件の「ヴィギエ事件」を題材にした裁判サスペンス。

大学教授は本当に妻を殺したのか? そこが焦点となるこの映画は、容疑者である大学教授の娘に家庭教師をしてもらっているシングルマザーのノラが、娘が全面的に父を信用していることに加えて、マスコミ主導で大学教授を犯人に仕立てあげようとする風潮に対抗する点からも、自分の仕事をほっぽり投げてまでも裁判にのめり込む行動が主となっていた。

このノラの人物像がフィクションであることにちょっとがっかりもして、さらに、夫が犯人なのか? それとも妻の愛人が犯人か? のサスペンス部分が平坦で、終始、どうやら大学教授は冤罪のようだ、のままにストーリーが進んで行くのがちょっと退屈だった。

実話だから、その事実を変えることはもちろん出来ないのだけれど、どうやら大学教授は冤罪のようだ、に進んでいきながらも、実は……、になることを最後まで期待してしまった映画だった。

→アントワーヌ・ランボー→マリナ・フォイス→フランス・ベルギー/2018→★★★

監督:柴田昌平
出演:熊谷幸治、宮尾亨、横石臥牛、谷川菁山、加藤宏幸、小泉龍人、任星航、ティエリー・ヴォワザン、山花京子、のん(ナレーション)
制作:プロダクション・エイシア、NHKエデュケーショナル、Tencent Penguin Pictures/2021
URL:http://asia-documentary.kir.jp/ceramics/
場所:ポレポレ東中野

何かの「物」の成り立ちを聞くと、必ず、へぇ~っ、になる。新旧を問わず、すべての「物」に対してそうなる。

最近でも、新型コロナウイルス感染症の重症化の目安となる血液中の酸素飽和度を測定できるパルスオキシメータは、日本人の青柳卓雄と言う人が今から50年近くも前に原理を開発したと聞いて、へぇ~っ、になった。その青柳卓雄の開発信念は「患者モニタリングの究極の姿は治療の自動化であり、その理想に近づくためには、無侵襲連続測定の開発が重要である」と云うことだったらしい。ITや電子デバイスが進化した現在なら誰でもおもい付くことだけれども、それを50年近くも前に考えていたとは驚きだった。

青柳卓雄氏とパルスオキシメータ(日本光電ホームページ、https://www.nihonkohden.co.jp/information/aoyagi/

そのような電子機器でさえも、へぇ~っ、になるのに、もっと一般的な、誰もが昔から使っている普遍的な道具の成り立ちを聞くと、へぇ~っ度がますますアップする。

柴田昌平監督の『陶王子 2万年の旅』は、我々のもっとも身近な道具の一つである「器」の成り立ちを追っているドキュメンタリーだった。縄文土器、景徳鎮、マイセンと、それぞれの名前を聞いたことがあっても、それが線で結ぶことは自分の中であまりなかった。時系列に、流れるように「器」の変遷を追って行けば、同時に人間の文明の歴史に直結していることが、へぇ~っ、だった。

映画が終わったあとに、ZOOMによる柴田昌平監督による質疑応答が行われて、監督はとくに、映画の中に差し込まれる陶器の人形劇の評判を気にしていた。たしかに、それ、いるのかな? とは多少はおもうけれど、のんのナレーションといっしょに映画のイメージを決定づけけていて、それはそれで良かったような気もする。

→柴田昌平→のん(ナレーション)→プロダクション・エイシア、NHKエデュケーショナル、Tencent Penguin Pictures/2021→ポレポレ東中野→★★★★

監督:ヤン・コマサ
出演:バルトシュ・ビィエレニア、アレクサンドラ・コニェチュナ、エリーザ・リチェムブル、レゼック・リコタ、ウカシュ・シムラト、トマシュ・ジェンテク、バーバラ・クルザイ、ズジスワフ・ワルディン
原題:Boże Ciało
制作:ポーランド、フランス/2019
URL:http://hark3.com/seinaru-hanzaisha/
場所:新宿武蔵野館

少年院にいる若い男が、少年院に来る司祭の教えに影響を受けて、神学校に入ろうと願うが犯罪者は受け入れられず、その神父の世話で退院後に向かった製材所の仕事をすっぽかして、近くの教会でニセ司教として活動してしまうはなし。

司祭の教えに共感しながらも、身に染み付いてしまった自堕落な行動を正そうともしない主人公の、倫理に沿った行いへの理解と動物的本能から来る行動の共存は、ある特殊な人間の行いと見るのではなくて、まるで自分たち平凡な人間の本質をついているように見えてきて、映画を観ているうちにどんどんと主人公に感情移入できてしまうところが面白かった。

そして、主人公がニセ司教としておさまってしまった教区で起きた過去の交通事故が、人間の正しさと愚かさがとても曖昧なところにあることをさらに際立たせていて、ニセ司教の男が特殊な存在ではないことを目のあたりにさせるエピソードとして中心に据えている構造が巧かった。

酒好きの男が乗った車に責任があったのか、対向車に乗り込んでいた若い男女が6人に責任があったのか、そのどちらであるのか判断がつかないのに、酒好きの男の未亡人を村八分にしてしまう人間の愚かさに割って入るのがニセ司教と云う、誰にでも小さな正義があるし、聖人に見える人間にだって小さな悪が潜んでいることを明確に見せているエピソードだった。

ニセ司教になっていることがばれて、少年院に来ていた司教が事態の収拾に乗り込んで来たときに、その本物の司教のほうがまるでヤクザのようにに見える風貌にさせていたことも、この映画のテーマを如実に物語っていて、その一貫したストーリーテリングに感心してしまった。面白かった。

→ヤン・コマサ→バルトシュ・ビィエレニア→ポーランド、フランス/2019→★★★★

監督:エリース・デュラン
出演:アレクサンドラ・ダダリオ、タイラー・ホークリン、スニータ・マニ、ラバーン・コックス、ジェイ・バルチェル
原題:Can You Keep a Secret?
制作:アメリカ/2019
URL:https://emma-movie.com
場所:新宿武蔵野館

新作がなかなか公開されず、緊急事態宣言もあって、今年に入ってからまったく映画館に足を運んでいなかったのだけれど、さすがに禁断症状が出てきたので、株主優待券のある新宿武蔵野館へ行って、適当に選んだ『エマの秘密に恋したら』なんて映画を観てしまった。

1990年代から2000年代によくあったロマンチックコメディのような映画で、こんな時期に観る映画としてはぴったりだとはおもったのだけれど、主人公のエマを演じるアレクサンドラ・ダダリオの魅力がちょっと乏しくて、脇役の同僚たちにもこれといった魅力が感じられなかった。いやいや、それ以前に、エマの「秘密」自体がそんなに大したことが無いし、上司のタイラー・ホークリンの「秘密」も「???」だったし、すべてがゆるい映画だった。

原作は「レベッカのお買いもの日記」シリーズで有名なソフィー・キンセラだそうだ。まったく知らない作家なのだけれど、日本でも人気があるんだろうか?

→エリース・デュラン→アレクサンドラ・ダダリオ→アメリカ/2019→★★☆

今年、映画館で観た映画は、非常事態宣言があったりして、そして新作の公開が少なかったりもして、43本と少なめ。
その中で良かった映画は以下の通り。

フォードvsフェラーリ(ジェームズ・マンゴールド)
1917 命をかけた伝令(サム・メンデス)
ミッドサマー(アリ・アスター)
その手に触れるまで(ジャン=ピエール・ダルデンヌ、 リュック・ダルデンヌ)
三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実(豊島圭介)
レイニーデイ・イン・ニューヨーク(ウディ・アレン)
なぜ君は総理大臣になれないのか(大島新)
私をくいとめて(大九明子)

で、Netflix製作の映画も増えてしまったので、やはりそこも触れていかなければならなくなってしまった。Netflixが初見の映画で良かったのは以下の通り。

もう終わりにしよう(チャーリー・カウフマン)
Mank/マンク(デヴィッド・フィンチャー)

Netflixが幅を利かせてきて、映画館で観る機会がどんどん減るんじゃないかと危惧していた昨年から、あらぬ方向からの後押しで、ますますその方向が加速しているのは、つまり、そういう世の中なのだ。

監督:大九明子
出演:のん、林遣都、臼田あさ美、若林拓也、片桐はいり、橋本愛、前野朋哉、山田真歩、吉住、岡野陽一、中村倫也(声の出演)
制作:『私をくいとめて』製作委員会/2020
URL:https://kuitomete.jp
場所:Movixさいたま

大九明子が綿矢りさの小説を映画化した『勝手にふるえてろ』は、相手とのコミュニケーションを図ろうとするときに、自分の内側でばかり思考を展開させてしまって、一向に外側に気持を向けることの出来ない内向型人間の葛藤を描いた面白い映画だった。

そして大九明子がまた綿矢りさの小説を映画化した今回の『私をくいとめて』も、基本的には『勝手にふるえてろ』と同じパターンの映画ではあったけれども(綿矢りさの小説ってそんなのばかりなのか?)、のんが主役を演じることによって、松岡茉優には無いたどたどしさや柔らかさが、映画のファンタジー要素を強める結果となって、ちょっと違った方向に展開して行く点でも面白い映画だった。

まあ、のん(能年玲奈)もいろいろとあったので、そんなところも大九明子監督が汲み取って、NHKの朝ドラ「あまちゃん」で共演した橋本愛を登場させたりして、のんの魅力を最大限に引き出そうと努力した結果が133分もの長い映画になってしまった。そこは、のんのファン以外には過剰だったような気もするけれど。

→大九明子→のん→『私をくいとめて』製作委員会/2020→Movixさいたま→★★★★