監督:パブロ・ラライン
出演:クリステン・スチュワート、ティモシー・スポール、ジャック・ファーシング、ショーン・ハリス、ジャック・ニーレン、フレディ・スプライ、サリー・ホーキンス
原題:Spencer
制作:イギリス、アメリカ、ドイツ、チリ/2021
URL:https://spencer-movie.com/#modal
場所:109シネマズ菖蒲

最近の伝記映画は、描かれる人の人生にとって重要となる日を特定して、あえて短い期間にその人となりのすべてを凝縮させて見せる映画が増えてきた。パブロ・ラライン監督の『スペンサー ダイアナの決意』も、ダイアナ皇太子妃がチャールズ皇太子との離婚を決意した1991年のサンドリンガム・ハウスでのクリスマス休暇の3日間を描いていた。

ただ、映画の冒頭に「実際の悲劇に基づく寓話」とテロップを入れたように、単にダイアナのことを正確に描こうとする伝記映画にはしていなかった。それは映画の冒頭に964型ポルシェ911に乗るダイアナのシーンを持ってきたことからも明らかだった。ダイアナの愛車と云えばオークションで1億円超で落札されたフォード「エスコートRSターボ」。有名な愛車を運転させないことで、意図してダイアナであることをぼかして、事実とは異なるエピソードも果敢に加えて、虚偽入り交じることによってダイアナの実像を際立たせようとしていたところが巧かった。

脚本はスティーヴン・ナイト。過去にどんな作品を書いていたんだろうと履歴を調べてみたら、デヴィッド・クローネンバーグの『イースタン・プロミス』しか観たことがなかった。監督作品もあるみたいなので、今後は注目してみようとおもう。

→パブロ・ラライン→クリステン・スチュワート→イギリス、アメリカ、ドイツ、チリ/2021→109シネマズ菖蒲→★★★★

監督:島田陽磨
出演:
制作:日本電波ニュース社/2021
URL:
場所:被爆者の声をうけつぐ映画祭、武蔵大学江古田キャンパス武蔵大学50周年記念ホール

福島第一原発事故から10年が経って、帰宅困難区域も次第に減ってきて、福島の人々にも以前の暮らしが戻りつつあるんじゃないかと勝手におもい込んでしまう。でも、そんなことはまったくなくて、一度崩壊してしまったコミュニティが復活することはむずかしくて、精神的に傷ついた人たちはさらに追い込まれて行ってしまってる。島田陽磨監督の『原発故郷3650日』では、自死してしまった息子に責任を感じてアルコールに走ってしまう父親、東京で避難生活を送っている家族の閉塞感、そしてそのような心の病を負った人たちを助けようとする医師やNPOの奔走を描いている。

アメリカなどに比べて、日本ではメンタルヘルスケアを受けるシステムがしっかりとしていなくて、まだまだ精神的な疾患を個人の責任に追いやる昔ながらの風潮が根強く残っているような気もする。アメリカ映画で見るような、一人に必ず一人のカウンセラーが付いているような世の中になっていれば、自然災害や大規模な事故に会った人たちが、事後に精神的な疾患を負って関連死して行くようなことがちょっとは防げるんじゃないかと、この映画を観ての真っ先の感想だった。

映画を観たあとに、原発事故損害賠償群馬裁判原告代表の丹治杉江さんの講演があった。福島第一原発の現状を聞けば暗澹たる気持ちにはなるのだけれど、放射線防護学者の安斎育郎さんをリーダーとする「福島プロジェクト」が提唱する「事態を侮らず、過度に恐れず、理性的に怖がる」をしっかりと実行しなければならないことも同時に痛感してしまった。その中でも「過度に恐れず」はとても難しい。誰だって事態を悪い方向に考えてしまうのが常だから。廃炉についても、汚染水問題についても、子どもたちの甲状腺がんのことについても理性的に怖がりながらもことを分析して解決して行って欲しいとはおもう。

→島田陽磨→→日本電波ニュース社/2021→被爆者の声をうけつぐ映画祭、武蔵大学江古田キャンパス武蔵大学50周年記念ホール→★★★☆

監督:バルディミール・ヨハンソン
出演:ノオミ・ラパス、ヒナミル・スナイル・グヴズナソン、ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン、イングヴァール・E・シーグルソン
原題:Lamb
制作:アイスランド、スウェーデン、ポーランド/2021
URL:https://klockworx-v.com/lamb/
場所:MOVIXさいたま

アイスランドの田舎で牧羊をしている夫婦のもとに、育てている羊から「羊ではない何か」が生まれて、それを過去に亡くした娘の生まれ変わりであると信じて育てていくストーリー。

この3人のところへ見るからにヤクザな夫の弟が突然帰ってきて、ここで大きくストーリーが展開するんじゃないかと勝手に想像していたら、そんなことにはまったくならず、反対にその夫の弟が「羊ではない何か」を受け入れて、一緒に釣りに出かけたりするのどかなシーンが続くのには肩透かしをくってしまった。そして、ジョーダン・ピールの『NOPE/ノープ』に出てきたチンパンジーの凄惨なシーンを連想していた自分にとって、弟が兄の妻に手を出そうとする展開が来るに至っては、この映画はどこに進むんだろう? になってしまった。

安定した3人の生活のもとに入り込む夫の弟が作り出す不協和音が「羊ではない何か」の存在を揺るがす展開が一般的だとはもうのだけれど、そうしなかったところが面白いと云えば面白い。でも、じゃあ、結末に納得が行くかと云えば、そこへ行く過程や伏線が乏しくて、ちょっと消化不良だった。

→バルディミール・ヨハンソン→ノオミ・ラパス→アイスランド、スウェーデン、ポーランド/2021→MOVIXさいたま→★★★