監督:クリストファー・ノーラン
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ディンプル・カパディア、マイケル・ケイン、ケネス・ブラナー
原題:Tenet
制作:アメリカ、イギリス/2020
URL:https://wwws.warnerbros.co.jp/tenetmovie/index.html
場所:109シネマズ木場

クリストファー・ノーランの『ダークナイト』が大絶賛されていたときに、それはどうなの? と全面的に異議を唱えるものの、次回作の『インセプション』があんがい自分のツボにはまったものだから、クリストファー・ノーランはそんなに悪くないのかもしれない、と『ダークナイト』を評価してしまう気持ちさえ芽生えてしまった。

でも、そのあとの映画群を観るにつけて、うーん、この監督はハッタリが巧いだけなのかもしれない、とだんだんとおもうようになってきた。『インターステラー』なんて次元と時空の映像化で目を眩ませて、なんだ結局はペーソスで泣かせるのか、だったし、『ダンケルク』は実際の軍艦や戦闘機を使うリアリズムにかまけてドラマの部分は薄っぺらだったし。

そしてこの『テネット』。クリストファー・ノーランが「時間の挟み撃ち」を映像化するにあたって、この手法で良しと判断して、映画を観に来るお客さんにこれを提供したとするならば、あまりにも自分勝手で尊大な気がしてしまった。なにやら新しいことをやろうとしていることはわかるのだけれど、映画を観ているだけでは、いまどんな状況なのかさっぱりわからない。どんどんと映画から置き去れにされる人が続出! だった。もちろんいままでにも、語ろうといている思考が複雑で難解な映画というものはたくさんあった。でも、アクション部分が難解! だなんて聞いたこともない。それを読み解く面白さはあるのだろうが、自分はダメだった。ひどい映画だった。

→クリストファー・ノーラン→ジョン・デヴィッド・ワシントン→アメリカ、イギリス/2020→109シネマズ木場→★★

監督:ビン・リュー
出演:ザック・マリガン、キアー・ジョンソン、ニナ・ボーグレン、ビン・リュー
原題:Minding the Gap
制作:アメリカ/2018
URL:http://www.bitters.co.jp/ikidomari/
場所:新宿シネマカリテ

ウィスコンシン州のケノーシャで8月23日、警官が黒人男性を背後から複数回銃撃する事件が発生して、それに端を発した黒人差別の抗議デモは日本でもニュースに取り上げられた。それを見た感想としては、またか! しかなかった。だから、そこには差別意識や銃規制以外の、なにかもっと根源的な問題があるんじゃないかとおもわざるを得なかった。

そのケノーシャから南西に100kmくらい行ったところにあるのがイリノイ州ロックフォードで、ビン・リュー監督の撮ったドキュメンタリー映画『行き止まりの世界に生まれて』の舞台だった。中国系のビン・リュー監督は、シングルマザーの母親とともに8歳になるまで、中国、アラバマ州、カリフォルニア州、イリノイ州ロックフォードを転々として、やっと腰を落ち着けたロックフォードで、黒人のキアー、白人のザックと友だちとなる。そしてスケートボードを一緒に楽しむうちに、そのスケーティングをビデオに撮るようになり、撮り溜めた12年間の軌跡がこの映画だった。

この映画にはもちろんかっこいいスケートボードのスケーティングが最初から登場するのだけれど、そんな自由なスケートシーンとは裏腹に、監督のビン・リューも含めたキアー、ザックの3人の複雑な家庭の事情も明らかになっていく。そこには、うまく行かなくなった父母や、家庭内暴力、先々の希望の見えない雇用状況のことなど、この映画のタイトルの「行き止まりの世界」が見えてくる。

中国系と黒人と白人が仲良くスケートボードを楽しむシーンを見れば、このあたりの地域に人種差別があるようにはとても見えない。とはいえ、もちろん根深い差別意識はいろんな人の心に巣食っていて、黒人やアジア系はその対象になりやすいのだろうとはおもう。その差別意識が芽生える土壌は必ずこの「行き止まりの世界」にはあって、子どもたちの育った家庭環境が大きく影響していることは確かなような気がする。日本の状況以上に、とくにこのイリノイ州ロックフォードあたりの経済状況の落ち込んだ地域では、ビン、キアー、ザックの家庭状況と似たような人たちが数多くいることが簡単に想像できてしまった。

彼らの鬱屈を晴らす場としてのスケートボードが救いのこのドキュメンタリー映画は、次第に大人になるにしたがって、スケートボードもやらなくなってしまって、三者三様の新たな環境で生まれる鬱屈を晴らす場は何になるんだろうかと考えてしまった。とくに白人のザックは、自身の子供が生まれて、それでいて妻のニナに暴力を振るうという、遺伝子ともおもえる親からの負の連鎖に巻き込まれてしまって、それを断ち切れないところにアメリカの問題があるんだろうなあ、と考えてしまった。

ビン・リュー監督は、おそらくまだ彼らを撮り続けているのだろうから、それをまとめた続編を必ず発表してほしい。アメリカ中西部の、このような環境の人々を撮り続ければ、おのずとアメリカに巣食う問題が見えてくるような気がする。フレデリック・ワイズマンが精力的に撮っていたアメリカの実情を、同じようにビン・リュー監督も撮って行ってほしいなあ。

→ビン・リュー→ザック・マリガン→アメリカ/2018→新宿シネマカリテ→★★★★

監督:ダン・スキャンロン
声:志尊淳、城田優、近藤春菜(ハリセンボン)、浦嶋りんこ、村治学、宗矢樹頼
原題:Onward
制作:アメリカ/2020
URL:https://www.disney.co.jp/movie/onehalf-magic.html
場所:109シネマズ木場

ピクサーのアニメーションには家族愛や友情、成長や変化をテーマにしたものが多いんだけれども、それがうまくエンターテインメントしていて、工夫のないストレートな表現はなるべく避けて、説教臭くなったりもせずに、期待と失望、愛情と憎しみが交錯しながら、スピード感あふれるアクションを盛り込んで、最後には、ああ成長したんだなあ、になるところがとても良い。

ダン・スキャンロン監督の『2分の1の魔法』は、幼い頃に亡くなった父親に会いたがために中途半端な魔法を使ってしまって、下半身だけ復活してしまった父親とともに、そして隣人には変人と見られている兄と一緒に、完全な魔法を探し求める冒険ストーリーだった。

嫌われ者の兄と引っ込み思案の弟が協力して、そして母親とライオンの体にコウモリの羽を持つマンティコアのサポートを得て、この4人のパーティが多くの謎を解きながら最終的には完全な魔法を復活させるための「不死鳥の石」を探し求める旅はロールプレイングゲームでもあって、ゲーム好きにとっても楽しい映画だった。

日本の劇場用アニメーションも、もっとゲームの要素をうまく盛り込んだこの『2分の1の魔法』のような映画を作れないものなのかなあ。あれだけコンシューマゲームで素晴らしいものが作られるのなら、ピクサーのアニメーションのようなものが作られても良いのに。ああ、これはいつも云ってることか。

→ダン・スキャンロン→(声)志尊淳→アメリカ/2020→109シネマズ木場→★★★☆