彼は秘密の女ともだち

監督:フランソワ・オゾン
出演:アナイス・ドゥムースティエ、ロマン・デュリス、ラファエル・ペルソナス、イジルド・ル・ベスコ、オーロール・クレマン、ジャン=クロード・ボル=レダ、ブルーノ・ペラール
原題:Une nouvelle amie
制作:フランス/2014
URL:http://girlfriend-cinema.com
場所:新宿武蔵野館

自分のことをゲイであると意識している場合でも、自分を別の性であると意識した状態(女装や男装する可能性が高い)で異性のことを好きになるパターンと、自分のことをその性の状態のまま同性を好きになるパターンとの二種類があって、自分をストレートであると認識している場合でも、まるっきりのストレートと、潜在的意識下に異性の感情を多く持っているために、まるで同性への親近感のような意識でもって異性を好きになるパターンの二種類があるような気がする。さらに潜在的意識下に異性の感情を多く持っている場合には、まるで潜在的ストレートのような感覚で同性を好きになるようなパターンがあって、これは同性に対する友情やあこがれ程度にとどまるものじゃないかとおもう。

『彼は秘密の女ともだち』の中に出てくるクレールは、このパターンから云うと、潜在的意識下に男性の感情を多く持っているためにローラのことが好きだったのではないかと考えることができて、自分の夫に恋愛的感情を抱くのは潜在的ゲイだったのではないかと勝手に想像してしまう。だから、自分の夫がローラの夫とシャワーの中で行為に及んでいる妄想が意識下に芽生えたりする。

ローラの夫が女装するのは、潜在的意識下に女性の感情を多く持っているための行為であり、彼がストレートな感情でローラのことを好きになったと感じるのは、実際には男性としてではなく女性としてであり、もしかすると潜在的レズビアンだったのではないかと解釈してしまう。となると、この映画のラストシーンは、ゲイ(またはレズビアン)のカップルが誕生を予感させる終わり方だったと勝手に納得できた。

と、このように複雑なピースが最後にはぴったりと収まった気持ちのいい映画だったかと云うと、うーん、そうでもなかった。『8人の女たち』以降は、フランソワ・オゾンはいつも微妙。

→フランソワ・オゾン→アナイス・ドゥムースティエ→フランス/2014→新宿武蔵野館→★★★

共犯

監督:チャン・ロンジー
出演:ウー・チエンホー、チェン・カイユアン、トン・ユィカイ、ヤオ・アイニン、ウェン・チェンリン、サニー・ホン、リー・リエ、アリス・クー
原題:共犯/Partners in Crime
制作:台湾/2014
URL:http://www.u-picc.com/kyouhan/
場所:新宿武蔵野館

オープニングクレジットのバックに映し出されるイメージを見た途端に、中島哲也か! と叫んでしまって、もちろん声には出さないけど、そこから最後までその感覚から逃れることができなくなってしまった。まあ、中島哲也ほど、画面に映し出されるミュージッククリップのような人工的に作られたハッピー感とは裏腹に展開する人間の醜悪さとのギャップ幅が狭いので、そこから受ける精神的なダメージは少なかったけど、でもだからこそ、何だか中途半端な感じを受けてしまって、ラストの少女が飛び降りるシーンが生きてないなあ、とおもってしまった。

日本のflumpoolの曲が使われているところなども中島哲也臭を醸し出す一因なんだけど、その使い方があんまりうまくない。歌曲の使い方がもう少し画面とマッチしていたらもっと中島哲也なんだけど。いや別に、中島哲也に近づいて欲しいわけじゃないんだけど。

→チャン・ロンジー→ウー・チエンホー→台湾/2014→新宿武蔵野館→★★★

ベルファスト71

監督:ヤン・ドマジュ
出演:ジャック・オコンネル、ポール・アンダーソン、リチャード・ドーマー、ショーン・ハリス、バリー・キーガン、マーティン・マッキャン、チャーリー・マーフィ、サム・リード、キリアン・スコット、デビッド・ウィルモット
原題:’71
制作:イギリス/2014
URL:http://www.71.ayapro.ne.jp
場所:新宿武蔵野館

北アイルランド紛争を描いた映画ならば何でも見たいので、知っている俳優がまったく出ていないにもかかわらずおもわず観に行ってしまった。そうしたらこれが拾いモノだった。拾いモノどころか、素晴らしい映画だった。

60年代から70年代に起きた北アイルランド紛争を描いた映画やドキュメンタリーは、そのほとんどがカトリック系から見たもので、イギリス側の軍隊などは個々の顔のまったく見えない冷酷無比な集団でしかなかった。ところがこの映画はイギリス軍側から描いた映画だった。それがまずは斬新だった。

イギリス軍の部隊を指揮する中尉がとても爽やかな人物で、武装する必要なんかないんだよ、俺たちはプロテスタント、カトリックにかかわらず市民の見方なんだよ、とかなんとか言って、武装せずにベレー帽だけでのこのこカトリック系地区に行ってしまう。途端に集団に囲まれて、ヤジを浴びせかけられ、唾を吐きかけられ、投石にも合い、イギリス軍側に怪我人を出してしまう。さらに子供に銃を奪われて、それを取り返しに行った二人の兵士のうち一人は顔面に銃弾を受けて即死。もう一人も必死に逃げるもカトリック系地区に取り残されてしまう。

この最初の導入部分が巧かった。平和ボケなイギリス軍中尉の軍隊への指示から始まって、カトリック系住民が徐々に怒りを募らせて行き、人の良さそうなイギリス軍の若い兵士がいきなり顔面に銃弾を受けて卒倒する場面へと続く流れは、最初は小太鼓だけから始まって、どんどんと木管楽器が加わって、最後にはフルオーケストラが奏でるラヴェルの「ボレロ」のようだった。イギリス軍がカトリック地区へ入って来たときに、そこに住んでいる女たちが自分の家の前に出てきて、周りに危険を知らせるかのようにゴミ箱のふたやフライパンなどで道路をずっとガンガン叩きつけていたけれど、それがこの連続したシーンの伴奏のように聞こえて来るほどだった。

入隊したばかりのイギリス軍兵士(ジャック・オコンネルが演じている)が、カトリック側の過激派に追われて必死に逃げ惑うシーンのカットのリズムも良くて、薄暗い画面からも緊迫感がひしひしと伝わってくる。細かい路地が入り組んでいるカトリック系地区の不気味さも半端なくて、この先が行き止まりなんじゃないかと云う恐怖が絶えずつきまとう。これではリアルなジョン・カーペンターの『ニューヨーク1997』じゃないか、とおもってしまった。

追いかけられていた兵士がやっとプロテスタント地区に逃げ込んで、その地区を仕切っているかのような口ぶりで話す大人びた子供とのやり取りが可愛らしいエピソードとして挟み込まれて、ホッと一息をついたのもつかの間、二人のいたバーで爆弾が大爆発。かろうじて命を取り留めた兵士の見たものは片腕を失ったその子供の死体だった。と、その落差に愕然となってしまう。

イギリス軍側も人の良い中尉や若い兵士だけではなくて、もちろん暗躍する工作員やそれを取り仕切っている将校(にはまったく見えないけど、中尉の上司なんだから将校なんでしょう)のうさん臭さもしっかりと描いていて、このようにそれぞれのシーンに強弱をつけて、そのコントラストを強めにしながら北アイルランド紛争の複雑さを明確にして行くところも素晴らしかった。

そして、イギリス軍を民衆が取り囲む最初のシーンから何となくカメラのフォーカスが合っていたカトリック系住民の若い男の子(妹に優しい兄)と逃げ惑う若いイギリス軍兵士(寄宿舎に預ける弟に優しい兄)との関係を徐々に結びつけて行って、ラストの辛い対決シーンへと収斂して行く部分を映画の骨格に据えている構成も良かった。

ふらりと観た映画がことのほか良かった場合にはその採点が甘くなるけど、この映画はそれを超えていたようにおもう。とても面白かった。

→ヤン・ドマジュ→ジャック・オコンネル→イギリス/2014→新宿武蔵野館→★★★★

アリスのままで

監督:リチャード・グラツァー、ウォッシュ・ウエストモアランド
出演:ジュリアン・ムーア、アレック・ボールドウィン、クリステン・スチュワート、ケイト・ボスワース、ハンター・パリッシュ、
原題:Still Alice
制作:アメリカ/2014
URL:http://alice-movie.com
場所:新宿ピカデリー

今年のアカデミー主演女優賞はジュリアン・ムーアが『アリスのままで』で獲った。その冠が無ければ観に行くような映画ではなかったけれども、でもジュリアン・ムーアがやっと念願の主演賞を獲ったわけだから観に行くことにした。

ジュリアン・ムーアの演技をしっかりと見せるための映画ではあった。が、ただそれだけの映画だった。ドラマティックな展開があればい良いと云うものでもないだろうけど、もう少し、夫との関係、娘との関係に起伏があれば良かったかなあ。娘役のクリステン・スチュワートとの確執にもうちょっと踏み込めればよかったのに。

アカデミー会員が『マップ・トゥ・ザ・スターズ』ではなくて『アリスのままで』で賞を与えたことはわからないでもないけど、でもやっぱり『マップ・トゥ・ザ・スターズ』の演技のほうが凄いよなあ。あの映画だけでもジュリアン・ムーアを認めてしまう。

→リチャード・グラツァー、ウォッシュ・ウエストモアランド→ジュリアン・ムーア→アメリカ/2014→新宿ピカデリー→★★★