監督:ロマン・ポランスキー
出演:エマニュエル・セニエ、エヴァ・グリーン、ヴァンサン・ペレーズ、ドミニク・ピノン、カミール・シャムー
原題:D’après une histoire vraie
制作:フランス、ベルギー、ポーランド/2017
URL:https://kokuhaku-shosetsu.jp
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町

(ホン・サンス『夜の浜辺でひとり』からの流れで)その点、ロマン・ポランスキーとエマニュエル・セニエのコンビの映画は落ち着いて観ることができる。それは、ロマン・ポランスキーがたどって来た数奇な人生をエマニュエル・セニエがしっかりと許容しているんじゃないかとの勝手な推測に寄るところが大きのだけれど。

ロマン・ポランスキーの新作『告白小説、その結末』は、エマニュエル・セニエが演じている小説家デルフィーヌにエヴァ・グリーンが演じている「エル(彼女)」と云う彼女の熱烈なファンが次第に取り憑いていくストーリー。

映画を観ると云う行為はストーリーの先読みをして行く行為でもあって、今までに数多くの映画を見てきたのだから『告白小説、その結末』での「仕掛け」に早く気が付いても良かった。ところが、なぜか今回は普通に観てしまったので、その「仕掛け」に気が付くのに遅れてしまった。ああ、あの、最初にデルフィーヌと「エル」がカフェで出会うシーンで気が付くべきだった。どうして「エル」はデルフィーヌの電話番号を知っていたのか、どうして行きつけのカフェまで知っていたのか。そこで「エル」と云うものの実体にいち早く不審をいだくべきだった。その後、なぜパソコンにログインするためのパスワードをすんなりと会ったばかりの人間に教えられるのか、どうしてメールを勝手に整理する行為に寛容なのか、と、おかしな行動があまりにも目に余って、「エル」が第三者と絡むシーンが皆無なことからやっと気が付いたのだった。

でも、「エル」が忙しいデルフィーヌの代わりに、彼女に扮して高校の講演会へ行った(とされる)時の学校の司書にガソリンスタンドでばったりと会くわして、よくもすっぽかしたな! と問い詰められるシーンは、「エル」の意味に気が付くのが遅かったからこそめちゃくちゃ怖かったんだとおもう。だから、純粋に騙されて映画を観ていくのも悪くはないんだけどね。

→ロマン・ポランスキー→エマニュエル・セニエ→フランス、ベルギー、ポーランド/2017→ヒューマントラストシネマ有楽町→★★★★

監督:ホン・サンス
出演:キム・ミニ、ソ・ヨンファ、クォン・ヘヒョ、チョン・ジェヨン、ソン・ソンミ、ムン・ソングン、アン・ジェホン、パク・イェジュ、カール・フェダー、マーク・ペランソン、ベッティナ・スタインブリュッゲ
原題:On the Beach at Night Alone
制作:韓国/2017
URL:http://crest-inter.co.jp/yorunohamabe/
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町

今回のヒューマントラストシネマ有楽町でのホン・サンス連続上映の2本目『夜の浜辺でひとり』。

この映画の主演によってキム・ミニが第67回ベルリン国際映画祭で韓国人俳優初となる主演女優賞を獲得した。確かにこの映画はホン・サンスによるキム・ミニの映画であって、キム・ミニの魅力だらけの映画になっていた。が、先週観たホン・サンスの『それから』でもちょっと感じてしまったのだけれど、実生活でもパートナーとなる監督と女優がそのままコンビで撮る映画の危うさってものも感じてしまって、大きなお世話なんだけど、ああ、この二人はそんなに長続きしないんだろうなあ、ともおもってしまったり。

ホン・サンスとキム・ミニの映画はとても魅力的な映画だけれど、私小説のような映画が見せる生々しさに若干引いてしまって、二人の関係のことなど知らずに素に観たかったなあとおもう次第でありました。

→ホン・サンス→キム・ミニ→韓国/2017→ヒューマントラストシネマ有楽町→★★★☆

監督:ホン・サンス
出演:クォン・ヘヒョ、キム・ミニ、キム・セビョク、チョ・ユニ、キ・ジュボン、パク・イェジュ、カン・テウ
原題:The Day After
制作:韓国/2017
URL:http://crest-inter.co.jp/sorekara/
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町

ホン・サンスがキム・ミニとコンビを組んで撮った4本の映画が連続公開されることになった。まずは一番新しい作品の『それから』から。

キム・ミニを最初に観たのはパク・チャヌクの『お嬢さん』だった。若い頃の芳本美代子や松嶋菜々子にちょっと似ている風貌から日本人の役にピッタリだなあとは一瞬おもったのだけれど、やはり韓国人特有のアグレッシブな気の強さも感じてしまって「しとやかさ」を求められていた昔の日本人女性にはどうしても見えなかった。韓国芸能界の“気の強い”女性ベスト11に選ばれたこともあるキム・ミニの実像がどれほどのものなのかは計りようもないけれど、キム・ミニがホン・サンスと不倫関係にある事実が公表されてから日本の川谷絵音とベッキーの関係以上の非難が韓国の世論で巻き起こったらしい。

http://news.livedoor.com/article/detail/12710098/

今回の『それから』の中で、出版社の社長で書評家でもあるクォン・ヘヒョに対して新しく社員としてやってきた小説家を目指すキム・ミニが、食事の場で「何のために生きてるのか? 生きる目的とは?」と問答をするシーンがあった。この会話のシーンがやたらと奇異に感じたけど、なんだろうなあ、ホン・サンスはキム・ミニが情欲だけで行動する女ではなくて聡明な部分もあることをさりげねく訴えたかったのかなあ。まあ、とにかく、ホン・サンスがキム・ミニを大切にしていることがわかるとても魅力的な映画。

→ホン・サンス→クォン・ヘヒョ→韓国/2017→ヒューマントラストシネマ有楽町→★★★★

監督:グレタ・ガーウィグ
出演:シアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、トレイシー・レッツ、ルーカス・ヘッジズ、ティモシー・シャラメ
原題:Lady Bird
制作:アメリカ/2017
URL:http://ladybird-movie.jp
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

ノア・バームバック監督の『フランシス・ハ』やマイク・ミルズ監督の『20センチュリー・ウーマン』などに出演していた女優グレタ・ガーウィグの監督作品。

『20センチュリー・ウーマン』でのグレタ・ガーウィグは、70年代後半のニューヨークでカメラマンを目指していたけれども子宮頸がんを患ってこころざし半ばで故郷のサンタバーバラへ戻ってきた女性アビーを演じていた。このキャラクターはマイク・ミルズ監督の姉がモデルとなっているらしくて、グレタ・ガーウィグ自身が投影されたものではないんだろうけど、でも、自分で脚本を書いたノア・バームバック監督の『フランシス・ハ』に登場するフランシスと重ね合わせると「都会で受けた傷心を優しく癒やしてくれる故郷」と云うエピソードが両作品で共通していた。

そのグレタ・ガーウィグが脚本を書いて監督をした『レディ・バード』は彼女の自伝的要素の強いストーリーで、だからシアーシャ・ローナンが演じている主人公の“レディ・バード”がグレタ・ガーウィグ自身をそのまま反映していると考えると、ここにまた「都会で受けた傷心を優しく癒やしてくれる故郷」が見え隠れするところはとても面白かった。故郷のサクラメントから抜け出したいと考えている主人公を描いていながらも、実際にはそのサクラメントに対するラブレターを撮ってしまっているグレタ・ガーウィグにとって「癒やしの故郷」は普遍的なテーマなんじゃないかとおもう。

グレタ・ガーウィグは今回の映画を撮るにあたって350ページもの長い脚本を書いてしまって、そこから120ページにまで減らしたそうだ。だから、いろいろなエピソードの中をトップスピードで駆け抜けて行く映画になってしまっている。ちょ、待って、走っている車から落ちたのにさりげなく巻かれている右手のギプスだけ? とか、どう見ても白人ではない兄の由来は語ってくれないの? とか。なので、エピソード同士のつなぎを無視して、ただ単純にシーンを継ぎ接ぎしているようなイメージが若干あるけど、テンポが良くて、シアーシャ・ローナンのキャラクターも快活で小気味が良いので、全体的には気持ちよく観られる映画になってはいた。

→グレタ・ガーウィグ→シアーシャ・ローナン→アメリカ/2017→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆

監督:今井友樹
出演:岡田靖雄、橋本明、齋藤正彦、呉忠士、呉秀男、原田憲一、川村邦光
制作:日本精神衛生会、きょうされん/2017
URL:
場所:UPLINK

鳥の道を越えて』を撮った今井友樹監督の作品を『坂網猟 -人と自然の付き合い方を考える-』に続けて観る。今度は日本の精神医学・精神医療の草分けといわれる呉秀三のドキュメンタリー。

呉秀三は1918年に「精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的観察」のレポートを発表し、この中で「わが国十何万の精神病者はこの病を受けたるの不幸の他にこの国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」と書き、多くの精神障害者が自宅の座敷牢に幽閉されている状況を改善すべく精神病院開設に奔走した。今井友樹監督の『夜明け前 呉秀三と無名の精神障害者の100年』はその呉秀三の足跡を追ってオーストリア、ドイツにまで飛ぶ。

この呉秀三を追いかけた丁寧な映画を見て、精神障害者の人権を守ろうと奔走した先駆者としての苦労を偲ばずにはいられないけど、でも、この映画の中で一番目を引いてしまったのは呉秀三の業績のことよりも「私宅監置」と言う強烈な文字だった。つまり、いわゆる「座敷牢」のことだった。日本での「座敷牢」の歴史がどのようなものだったのかとても興味を持ってしまった。ああ、出来ることなら、そこに突っ込んで欲しかったけど、そんなところにスポットライトを当ててしまうと相当エグい映画になってしまうだろうなあ。

大阪府寝屋川市で精神疾患の娘を15年もプレハブに監禁していた事件や今年の幼児虐待のニュースを見てもわかるとおり、日本の家族と云う枠組みの中に外部が入り込めない閉鎖性は異常だとおもう。呉秀三が明らかにした日本での「座敷牢」の暗黒史をもっと周知させるためにもそのようなドキュメンタリーが見てみたい。

→今井友樹→岡田靖雄→日本精神衛生会、きょうされん/2017→UPLINK→★★★☆

監督:ウェス・アンダーソン
声:ブライアン・クランストン、エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、渡辺謙、フランシス・マクドーマンド、ティルダ・スウィントン、F・マーリー・エイブラハム、スカーレット・ヨハンソン、コーユー・ランキン
原題:Isle of dogs
制作:アメリカ、ドイツ/2018
URL:http://www.foxmovies-jp.com/inugashima/
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

日本でのファンも多いのにどうしても好きになれない三大監督は、ティム・バートンとギレルモ・デル・トロ、そしてウェス・アンダーソンだ。いやいや、映画の出来が悪いと云っているんじゃない。肌が合わないと云うか、しっくりと来ないと云うか。なんでだろう? オタクな気質をすべて否定するわけじゃないんだけど、どうやらそのオタクな部分に引っかかってしまっているような。

今回のウェス・アンダーソンの『犬ヶ島』もすでに多くの人たちが、泣けた、とか、感動したとか云っていて、ああ、これはやばいパターンだと覚悟して観に行ったら、案の定ダメだった。でもそれはオタクな部分につまずいたわけではなくて、それ以前に、日本をダシに使っている部分で不満爆発だった。日本をテーマに扱っている西洋の映画にことごとく不満を持ってしまうのは、おそらくその扱い方に対して厳しすぎる結果なんだろうけど、でも、黒澤明の『七人の侍』とか俳句とか、あまりにも上っ面しかなぞってない。安易すぎる。逆にそこはもっとオタク気質を発揮してくれよ、と。

→ウェス・アンダーソン→(声)コーユー・ランキン→アメリカ、ドイツ/2018→ユナイテッド・シネマ浦和→★★☆

監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、ヴィッキー・クリープス、レスリー・マンヴィル、カミラ・ラザフォード、ジーナ・マッキー、ブライアン・グリーソン、ハリエット・サンサム・ハリス、ルイザ・リヒター、ジュリア・ルイス、ニコラス・マンダー、フィリップ・フランクス、フィリス・マクマホン、サイラス・カーソン、リチャード・グラハム
原題:Phantom Thread
制作:アメリカ/2017
URL:http://www.phantomthread.jp
場所:新宿武蔵野館

ポール・トーマス・アンダーソンの映画を観ていると、自分たちのありきたりな生活の奥底に隠されている人間の本性を見せつけられているようで、脳の中の使われていない部分がキリキリと刺激されているような感覚におちいって、どんどんと活性化して行って、目がランランとして来て、ちょっとした興奮状態になってしまう。

『ファントム・スレッド』でのダニエル・デイ=ルイスとヴィッキー・クリープスを見ても、一見すると尋常ならざる関係に見えながら、実際には私たちの人間関係の中に潜んでいる個々の嫌らしさをあぶりだしていて、仕事がバリバリ出来て素敵な人だけど自分にとってはそのパワーが少し弱っていたほうがちょうど良いとか、お前は仕事に役立つマネキンとしてただそこに立っていれば良いからいちいちキイキイ(効果音のレベルを上げて観ている我々の神経を逆なでさせるほど!)わめき立てないでくれとか、自分の我を押し通す人間同士が駆け引きをする関係に酔いしれてしまう。

まあ、それだけなら良くある映画なのかもしれないけれど、ポール・トーマス・アンダーソンはこの映画のラストでダニエル・デイ=ルイスがヴィッキー・クリープスの要求を(実は理解していて)受け入れるシーンを静かに見せつけてくれる。こんな夫婦関係なんてあるんだろうか? あったとしたら怖い!

→ポール・トーマス・アンダーソン→ダニエル・デイ=ルイス→アメリカ/2017→新宿武蔵野館→★★★★