ザ・マスター

監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、アンビル・チルダーズ、ローラ・ダーン、ジェシー・プレモンス、デヴィッド・ウォーショフスキー、レナ・エンドレ、ラミ・マレック、マディセン・ビーティ、フィオナ・ドゥーリフ、ジョシュア・クローズ、パティ・マコーマック、ケヴィン・J・オコナー
原題:The Master
制作:アメリカ/2012
URL:http://themastermovie.jp/
場所:TOHOシネマズ・シャンテ

ポール・トーマス・アンダーソンの人間に対する視点がとても変わっていて、どの映画もいつも感心させられてしまう。でもそれは、ごく普通の一般的なドラマを期待している人にとっては物凄く取っ付きにくくて、訳が分からない映画としてしか映っていないんじゃないかと勝手に心配しつつ映画館を去るのがポール・トーマス・アンダーソン映画を観たあとの習慣になってしまった。この『ザ・マスター』も今までの映画以上にさらに凄かった。精神的に疾患があるとおもわれる男とカルトの指導者との愛憎物語は、単純なホモセクシャルな愛情ではなく、親子のような愛情でもなくて、そのような一般的な愛情だけでは計ることの出来ない奇異な二人の愛憎劇がそこには映し出されていた。さらにその二人に加えて、指導者の妻と子供たちを加えた人間模様は、例えば麻原彰晃と上祐史浩とか、千石イエスと取り巻きの女たちとか、常人には理解し難い愛情関係が存在しうると云うことを見せつけてくれる。

細かい部分を確認するためにも、この映画はもう一度観たい気がする。特に、カルトの指導者(フィリップ・シーモア・ホフマン)の息子(ジェシー・プレモンス)と疑似的な息子(ホアキン・フェニックス)との関係が、後から考えるととても面白い。その実際の息子が父親の行っている“プロセシング”を「あんなのインチキだよ」とホアキン・フェニックスに語るシーンは、この映画の中でもとても重要なシーンにおもえてきた。そこだけを確認するためにも、おそらくもう一度映画館に足を運ぶとおもう。

→ポール・トーマス・アンダーソン→ホアキン・フェニックス→アメリカ/2012→TOHOシネマズ・シャンテ→★★★★

ザ・ブルード/怒りのメタファー

監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:オリヴァー・リード、サマンサ・エッガー、アート・ヒンドル、シンディ・ハインズ、ナーラ・フィッツジェラルド、ヘンリー・ベックマン、スーザン・ホーガン、ニコラス・キャンベル
原題:The Brood
制作:カナダ/1979
URL:
場所:新宿武蔵野館

レーザーディスクで『スキャナーズ』を見て衝撃を受けて以来、クローネンバーグの映画を欠かさず追いかけて来たのだけれど、それ以前の作品はDVDなどで見ようとおもえば見れたのにすっかり見逃していた。クローネンバーグの新作『コスモポリタン』の公開に合わせてレイトショーで『ザ・ブルード/怒りのメタファー』が公開されたので、これは良い機会と念願の『ザ・ブルード/怒りのメタファー』を観に行った。

人間の内面にある精神性を具現化する際に、『ヴィデオドローム』や『ザ・フライ』にも共通する受胎のイメージでもってそれが生まれてくるシーンを見て、やはりクローネンバーグの映画は、これでなくっちゃ、と痛切に感じてしまった。最近の彼の映画は、基本的なモチーフはあまり変わっていないのかもしれないけど、その表現方法が巨匠となってしまったと云うか、お高くとまっていると云うか、製作費があまりなかった頃のアイデアで勝負する実験的な姿勢が欠如してしまっているのが悲しい。新作の『コスモポリタン』はどうなんだろう? おそらくもうこの『ザ・ブルード/怒りのメタファー』で得た背中がゾクゾクするような感覚を新作で味わうことは今後一切ないんだろうなあ。もちろん観には行くけど。

ザ・ブルード/怒りのメタファー

初期のクローネンバーグの映画に見られたカナダの色のない風景も好きだ。そこにくっきりと浮かび上がる子供たちの原色の衣装が不気味で怖い!

→デヴィッド・クローネンバーグ→オリヴァー・リード→カナダ/1979→新宿武蔵野館→★★★★

テッド

監督:セス・マクファーレン
出演:マーク・ウォールバーグ、ミラ・キュニス、ジョエル・マクヘイル、ジョヴァンニ・リビシ、エイディン・ミンクス、パトリック・ウォーバートン、マット・ウォルシュ、ジェシカ・バース、ビル・スミトロヴィッチ、ラルフ・ガーマン、アレックス・ボースタイン、ローラ・ヴァンダーヴォート、サム・J・ジョーンズ、ノラ・ジョーンズ、トム・スケリット、(声)セス・マクファーレン
原題:Ted
制作:アメリカ/2012
URL:http://ted-movie.jp/
場所:新宿ミラノ2

今年のアカデミー賞授賞式の司会も務めたセス・マクファーレンは、アニメーターでもあり、コメディアンでもあり、俳優でもあり、監督兼脚本家でもありと、とても多才な人物なんだけど、その芸風が、お下劣、シニカル、セレブ芸能人いじりと、ちょっと日本人にはわかりづらいコメディ作品を作っている。なのにこの『テッド』はもう3ヶ月以上もロングランしている。なぜなんだろう? そんなに面白い映画なのか? と観てみたら、いやいや、予想通りの、お下劣、シニカル、セレブ芸能人いじりの映画だった。例えば、映画『フラッシュゴードン』をいじり倒している部分なんて誰が面白がってるんだろう? トム・スケリットをいじってるのも誰が笑うんだろう? 他にもビミョーなラインの有名人を大勢いじっている。ティファニーとかケイティ・ペリーとかベリンダ・カーライルとかブランドン・ラウスとかテイラー・ロートナーとか。案の定、誰もそんなところでは笑っていなかった。なのにヒットしている。不思議だ。

町山智浩が監修している字幕もきびしかった。日本人にわかるようにと「ガチャピン」とか「星一徹」とか「くまモン」に置き換えていたリと苦労が見えるけど、それがとても不自然でまったく笑えない。それだったら、そのまま固有名詞をカタカナ表記したほうが良かった。実際には、

「くまモンの方がいい!」→「テディ・ラクスピンの方がいい」
「ガチャピンよりすごいだろ」→「『パトカー・アダム30』みたいだろ」
「誰かが星一徹にならなきゃ」→「誰かがジョーン・クロフォードにならなきゃ」

らしい。(http://patrikeiji.blog37.fc2.com/blog-entry-450.htmlより)それにしてもジョーン・クロフォードが星一徹とは!

元ネタがわかれば笑える映画だとはおもうけど、元ネタがわからなくてもヒットしているってのが面白い。もしかすると日本語吹き替え版がヒットを牽引しているんだろうか。

→セス・マクファーレン→マーク・ウォールバーグ→アメリカ/2012→新宿ミラノ2→★★★

オズ はじまりの戦い

監督:サム・ライミ
出演:ジェームズ・フランコ、ミラ・キュニス、レイチェル・ワイズ、ミシェル・ウィリアムズ、ザック・ブラフ、ジョーイ・キング、アビゲイル・スペンサー、ビル・コッブス、トニー・コックス、テッド・ライミ、ブルース・キャンベル
原題:Oz: The Great and Powerful
制作:アメリカ/2013
URL:http://www.disney.co.jp/movies/oz-hajimari/home.html
場所:新宿ミラノ1

ライマン・フランク・ボームによって書かれた「オズの魔法使い」の前日譚を脚本家のミッチェル・カプナーが新たに書いて、それをサム・ライミが映画化した作品。

1939年にヴィクター・フレミングによって映画化された『オズの魔法使い』があまりにも決定的な映画として、70年後の今をもって誰しもがDVDで楽しむ映画なので、その前日譚を第三者が勝手に映画として形作って、それが目も当てられない映画だとしたらとても残念だなあとおもいつつ映画館に足を運んだのだけれど、『オズの魔法使い』の世界観はそれなりにきちんと継承されていて悪い出来ではなかった。ただ、主人公のオズを演じているジェームズ・フランコの演技が緩くて、女にだらしないダメ男のイメージが徹底できてなくて、最後までただの人の良いにいちゃんにしか見えなかったのが残念だった。これでは、結局はダメ男のままだったのか? それとも自分のダメさ加減を反省して世界に名を成す人間として変貌できるのか? のクライマックスがまったく盛り上がらなくて、オズの内面的な紆余曲折もあまりにも中途半端のままに終わってしまった。

他の役者では、ミシェル・ウィリアムズの「南の魔女グリンダ」は派手さがなくて地味すぎた。でも、ミラ・キュニスの「西の魔女セオドラ」は素晴らしかった。『ブラック・スワン』の時と同じような二面性が彼女の魅力だ。ブルース・キャンベルがチョイ役で出ているのは嬉しかった。

この映画は3D版も用意されていて、それを意識したカットも多数あったので、IMAX3Dで観てみたかった気もする。そうすれば、30%くらいは面白さがアップしていただろうに。

→サム・ライミ→ジェームズ・フランコ→アメリカ/2013→新宿ミラノ1→★★☆

クラウド アトラス

監督:ラナ・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー、トム・ティクヴァ
出演:ジム・スタージェス、ベン・ウィショー、ハル・ベリー、ジム・ブロードベント、ペ・ドゥナ、トム・ハンクス、ヒューゴ・ウィーヴィング、ヒュー・グラント、スーザン・サランドン、ジョウ・シュン、キース・デイヴィッド、デイヴィッド・ギヤスィ
原題:Cloud Atlas
制作:アメリカ/2012
URL:http://wwws.warnerbros.co.jp/cloudatlas/index.html
場所:ワーナー・マイカル・シネマズ板橋

19世紀から文明崩壊後までの異なる六つの時代を平行して描くこの映画も群像劇に分類することができるとおもうので、すべてのストーリーラインを把握するのに苦労するのだけれども、それでも好きなタイプの映画なので3時間あまりの長尺を飽きずに楽しんでしまった。なかでも面白かったのは、同じ俳優が時代を渡って違う人物を演じている部分だった。特殊メイクやVFXを駆使して、性別や人種の垣根も越えて、なりふりかまわずにいろいろな人物になりきっているのは笑ってしまうほどだった。特に、ヒューゴ・ウィーヴィングの「ノークス看護婦」はただの女装中年だ! ペ・ドゥナの白人女性「ティルダ」は鼻が東洋人だ!

映画の中で平行して描かれる六つの時代は、それぞれ細い糸で繋がっている。それを整理すると、

“アダム・ユーイングの太平洋航海誌”(1849)→“ゼデルゲムからの手紙”(1936)
★1936年に於て、ロバート・フロビッシャー(ベン・ウィショー)は、雇われた作曲家(ジム・ブロードベント)の本棚から「アダム・ユーイングの太平洋航海誌」を見つける。

“ゼデルゲムからの手紙”(1936)→“半減期-ルイサ・レイ 最初の事件”(1973)
★二つの時代ともにルーファス・シックススミス(ジェームズ・ダーシー)が登場。

“半減期-ルイサ・レイ 最初の事件”(1973)→“ティモシー・キャヴェンディッシュのおぞましき試練”(2012)
★1973年に於て、編集者であるティモシー・キャヴェンディッシュ(ジム・ブロードベント)は、ジャーナリストのルイサ・レイ(ハル・ベリー)が調査している原子力発電所の告発文を郵便で受け取る。

“ティモシー・キャヴェンディッシュのおぞましき試練”(2012)→“ソンミ451のオリゾン”(2144)
★2144年に於て、クローンのソンミ 451(ペ・ドゥナ)は、映画となった『ティモシー・キャヴェンディッシュのおぞましき試練』を見る。

“ソンミ451のオリゾン”(2144)→“ソルーシャの渡しとその後のすべて” (2321)
★2321年に於て、ソンミ 451(ペ・ドゥナ)は神として崇められている。

と、あまりにも無理矢理な繋げ方で、このことを持ってすべての事象が繋がっているイメージを持たせるのには無理があるのだけれども、でもまあそこまで深い映画でもないので、俳優の大仮装大会のことも含めて、笑って楽しむ映画として及第点だとおもう。

→ラナ・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー、トム・ティクヴァ→トム・ハンクス→アメリカ/2012→ワーナー・マイカル・シネマズ板橋→★★★☆

キャビン

監督:ドリュー・ゴダード
出演:クリステン・コノリー、クリス・ヘムズワース、アンナ・ハッチソン、フラン・クランツ、ジェシー・ウィリアムズ、リチャード・ジェンキンス、ブラッドリー・ウィットフォード、ブライアン・ホワイト、エイミー・アッカー、シガニー・ウィーバー
原題:The Cabin in the Woods
制作:アメリカ/2012
URL:http://cabin-movie.jp/
場所:ユナイテッド・シネマ豊洲

ありきたりな映画のプロットに飽きているとは云え、奇想天外なプロットの映画が来れば、そのほとんどが「なんじゃこりゃ」の映画ばかりでがっかりしてしまう。ドラマの構造自体を破壊してまでの奇想天外さを求めていないのに、すべてに意外性を持ち込もうとして結局は支離滅裂な映画が出来上がってしまう。奇想天外なプロットであろうとも、その世界観をキッチリと確立させて、それに合わせて一貫性を保ち、ひたむきに、妥協せず、真摯な態度が画面から伝わってこなければ、ただの幼稚なお遊び映画になってしまう。

この『キャビン』の予告編は、「あなたの想像力なんて、たかが知れている」と、とことん奇想天外なプロットであることを強調して来た。予告編で見せる映像の断片からも、これは面白いんじゃないかと期待させる内容のものだった。これほど期待させておきながら中途半端な映画だったら失望感が半端ないなあとおもっていたら、いやいや期待通りに、しっかりと世界観を構築している映画だった。『13日の金曜日』『死霊のはらわた』『ヘルレイザー』『IT』のパロディ的な要素もあって、日本のホラー映画や『CUBE』の要素もちりばめて、最後は『宇宙人ポール』の時と同じようにシガニー・ウィーバーで締めると云った豪華さ。「こいつらみんな喰い尽くせ!」のスプラッタ系カタルシスも全開で、人類が滅びるアンハッピーエンドも最高だった。ドリュー・ゴダード監督の『クローバーフィールド/HAKAISHA』はバカにして映画館では観なかったけど、これは見てみなければ。

キャビン

→ドリュー・ゴダード→クリステン・コノリー→アメリカ/2012→ユナイテッド・シネマ豊洲→★★★☆