今年、映画館で観た映画は、非常事態宣言があったりして、そして新作の公開が少なかったりもして、43本と少なめ。
その中で良かった映画は以下の通り。

フォードvsフェラーリ(ジェームズ・マンゴールド)
1917 命をかけた伝令(サム・メンデス)
ミッドサマー(アリ・アスター)
その手に触れるまで(ジャン=ピエール・ダルデンヌ、 リュック・ダルデンヌ)
三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実(豊島圭介)
レイニーデイ・イン・ニューヨーク(ウディ・アレン)
なぜ君は総理大臣になれないのか(大島新)
私をくいとめて(大九明子)

で、Netflix製作の映画も増えてしまったので、やはりそこも触れていかなければならなくなってしまった。Netflixが初見の映画で良かったのは以下の通り。

もう終わりにしよう(チャーリー・カウフマン)
Mank/マンク(デヴィッド・フィンチャー)

Netflixが幅を利かせてきて、映画館で観る機会がどんどん減るんじゃないかと危惧していた昨年から、あらぬ方向からの後押しで、ますますその方向が加速しているのは、つまり、そういう世の中なのだ。

監督:大九明子
出演:のん、林遣都、臼田あさ美、若林拓也、片桐はいり、橋本愛、前野朋哉、山田真歩、吉住、岡野陽一、中村倫也(声の出演)
制作:『私をくいとめて』製作委員会/2020
URL:https://kuitomete.jp
場所:MOVIXさいたま

大九明子が綿矢りさの小説を映画化した『勝手にふるえてろ』は、相手とのコミュニケーションを図ろうとするときに、自分の内側でばかり思考を展開させてしまって、一向に外側に気持を向けることの出来ない内向型人間の葛藤を描いた面白い映画だった。

そして大九明子がまた綿矢りさの小説を映画化した今回の『私をくいとめて』も、基本的には『勝手にふるえてろ』と同じパターンの映画ではあったけれども(綿矢りさの小説ってそんなのばかりなのか?)、のんが主役を演じることによって、松岡茉優には無いたどたどしさや柔らかさが、映画のファンタジー要素を強める結果となって、ちょっと違った方向に展開して行く点でも面白い映画だった。

まあ、のん(能年玲奈)もいろいろとあったので、そんなところも大九明子監督が汲み取って、NHKの朝ドラ「あまちゃん」で共演した橋本愛を登場させたりして、のんの魅力を最大限に引き出そうと努力した結果が133分もの長い映画になってしまった。そこは、のんのファン以外には過剰だったような気もするけれど。

→大九明子→のん→『私をくいとめて』製作委員会/2020→MOVIXさいたま→★★★★

監督:ロネ・シェルフィグ
出演:ゾーイ・カザン、アンドレア・ライズボロー、タハール・ラヒム、ビル・ナイ、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジェイ・バルチェル、ジャック・フルトン、フィンレイ・ヴォイタク・ヒソン
ジェイ・バルチェル
原題:The Kindness of Strangers
制作:カナダ・スウェーデン・デンマーク・ドイツ・フランス/2019
URL:http://www.cetera.co.jp/NY/
場所:MOVIXさいたま

『ニューヨーク 親切なロシア料理店』と云う邦題を見て、このあいだ観た『ホモ・サピエンスの涙』に引きずられて、北欧系のオフビートなノンビリコメディ映画を想像してしまった。『17歳の肖像』を撮ったロネ・シェルフィグ監督の映画なんだから、そんな映画のわけがなかった。いまの時代に生きる人たちの息苦しさを語りながらも、それでいてラストにはほんのりと爽快感を出していて、深刻さにブレ過ぎないように努めている良い映画だった。『ニューヨーク 親切なロシア料理店』なんて邦題は、なにひとつこの映画の本質を表していない酷い邦題だった。

たぶん日本でも、夫のDVから逃げ出した人、ADHDから来る注意欠如から仕事が長続きしない人、薬物依存の身内を救えなかった人、他人を救うことばかりで自分を省みることが出来ない人、なんて人たちがそれないりにいて、日々、自分を責めながらも生きているのが現代社会なんだとおもう。

この映画は、そんな人たちがニューヨークにあるロシア料理店を通じて知り合うこととなって、それぞれがガッツリと干渉し合うわけでもないのに、なんとなく影響しあって、少しずつ事態が好転していく過程を捉えている巧い脚本の映画だった。

ビル・ナイ以外はあまり知らない俳優ばかりだったけれど、それぞれの役者が役柄にぴったりとハマっているのも、観たあとに尾を引く条件を満たしている映画だった。

→ロネ・シェルフィグ→ゾーイ・カザン→カナダ・スウェーデン・デンマーク・ドイツ・フランス/2019→MOVIXさいたま→★★★☆

監督:セルゲイ・ロズニツァ
出演:ヨシフ・スターリン、ゲオルギー・マレンコフ、ラヴレンチー・ベリヤ、ニキータ・フルシチョフ
原題:State Funeral
制作:オランダ、リトアニア/2019
URL:http://www.imageforum.co.jp/theatre/movies/3816/
場所:シアター・イメージフォーラム

セルゲイ・ロズニツァと云う監督の名前はまったく知らなかった。これまでに21作のドキュメンタリー映画と4作の⻑編劇映画を発表していて、カンヌ国際映画祭では2012年に『In the Fog』で国際映画批評家連盟賞を受賞、2018年に『Donbass』で「ある視点部⾨」最優秀監督賞を受賞しているらしい。でも、これまでに日本では公開されることはなかった。

今回、そのセルゲイ・ロズニツァ監督の『国葬』『粛清裁判』『アウステルリッツ』の3作品がシアター・イメージフォーラムで公開されることになったので、なんとなく面白そうだなあとおもって、まずは『国葬』を観てみた。

リトアニアで発見されたスターリンの国葬を捉えた大量のアーカイヴ・フィルムを編集して作られたこの映画は、おそらくはソ連のプロパガンダとして撮られたものなので、そこに写っている人たちがみんなカメラを意識していて、悲しみの演技をしているように見える、いや、おそらくはそのとおりの映画だった。だからといって、つまらないわけではなくて、そこに写っている時代の雰囲気や、共産圏の人々の生活、中央アジアやシベリア方面の民族の姿などが見えて、あっと云う間の2時間15分だった。

フルシチョフが司会を努めて、マレンコフが弔事を読むシーンは、ああ、のちに二人のあいだに権力闘争があるんだなあ、とおもいを巡らせることができる唯一の、素の、生の人間が透けて見えるシーンで、そこがこの映画のクライマックスだった。

→セルゲイ・ロズニツァ→ヨシフ・スターリン→オランダ、リトアニア/2019→シアター・イメージフォーラム→★★★☆