監督:ジョエル・コーエン
出演:デンゼル・ワシントン、フランシス・マクドーマンド、コーリー・ホーキンズ、ブレンダン・グリーソン、ハリー・メリング、バーティ・カーヴェル、キャスリン・ハンター
原題:The Tragedy of Macbeth
制作:アメリカ/2021
URL:
場所:シネ・リーブル池袋

シェークスピアの「マクベス」を映画化した作品と云えばロマン・ポランスキーの『マクベス』(1971)が大好きで、それはロマン・ポランスキーの妻シャロン・テートが惨殺されたあとすぐの映画として、序盤に登場する3人の魔女の予言に必要以上に悪魔的なものを感じてしまった結果の面白さだったのかもしれない。まあでも、とにかく、この魔女の登場シーンからダンカン王と家臣が登場するまでの冒頭のシーンは、不気味で、幻想的で、その後のマクベスの運命を予兆させるシーンとして素晴らしかった。

AppleとA24が制作したジョエル・コーエンの『マクベス』は、その3人の魔女のイメージがさらに悪魔的だった。野田秀樹の舞台にも出演している舞台俳優のキャスリン・ハンターが3人の魔女をひとりで演じていて、彼女の体の柔らかさから来るのだろう腕と足が不自然に絡まっているように見える魔女のイメージは、ポランスキー版『マクベス』と同じように不気味で、幻想的で、この映画の全体的なトーンを決定づける素晴らしい演技だった。

魔女の登場するシーンが方向づけたこの映画の視覚的な基調は最後まで貫かれていて、狭い空間で繰り広げられながらも人の顔のアップを多用した撮影は、演劇的な空間を重んじながらも映画的な空間も損なわない作りになっていた。どこにあって、どのような場所なのかわからない空間は閉塞感を漂わせ、恐怖さえも感じさせるのだけれど、俳優の表情に現れる人間の業の深さは普遍的なものも感じさせて、どちらかと云えば安心感も持ってしまった。

ポランスキー版『マクベス』が公開されたときに話題になった残酷的な描写や、原作では脇役であるロスを重用しているシナリオは、このコーエン版『マクベス』にも引き継がれていた。それだけポランスキー版『マクベス』が与えた影響は大きかったんだとおもう。でも、そのイメージの斬新さからコーエン版『マクベス』も素晴らしい映画だった。

→ジョエル・コーエン→デンゼル・ワシントン→アメリカ/2021→★★★★

監督:大島新
出演:小川淳也、平井卓也
制作:ネツゲン/2021
URL:https://www.kagawa1ku.com
場所:シネ・リーブル池袋

大島新監督のドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』を観て、小川淳也と云う衆議院議員がいることを知った。とても真っ直ぐで、あるべき政治を熱心に模索していて、誰に対しても聞く耳を持っている政治家に見えた。へー、こんな政治家がいるんだ、と云う感想を持つと同時に、そんなにピュアだったら政治家としてヤバイんじゃないの、と云う感想も同時に持ってしまった。タイトルの『なぜ君は総理大臣になれないのか』は、そのピュアな部分に対するダメ出しを意味しているようにも見えてしまった。

『なぜ君は総理大臣になれないのか』の続編の『香川1区』は、昨年の10月31日に投開票が行われた衆議院議員選挙における小川淳也の戦いを描いていた。香川1区には地盤も看板(地位)も鞄(カネ)も持っている自民党の平井卓也がいて、そんな絶大なる敵に対抗する無力な勇者の奮闘を見るのはとても楽しかった。ラストには、クッパ大王にならぬワニ大臣を倒してしまうんだから、まるでゲームのボスキャラを倒したときのような爽快感があった。

大島新監督はこの映画で、もちろんタイトルに『香川1区』としていることからわかるように衆議院議員選挙をメインにして映画を撮っているわけだけれども、同時に小川淳也の真っ直ぐでピュアな部分の危うさにもスポットを当てていて、小川淳也自身もその性格を政治家としてどのようにコントロールすべきなのか苦悶しているところも出てくる。正直者はバカを見るのが政治の世界のようにも見えるし、いや、このままの正直者で押し通せば、まるで絵空事のようなフランク・キャプラの『スミス都へ行く』(1939)を地で行くハッピーエンドが待っているような気もするし。

それから、やはり注目すべきところは、平井卓也の地盤、看板、鞄の部分だった。なぜ地方で自民党が強いのか。前回の選挙で香川1区の中でも特に弱かった小豆島に小川淳也の娘たちが乗り込んで行ったとき、島のおっちゃんからの「小川さんのことは尊敬しているんだけどね、、、、」の言葉が、下手なことをすると村八分にされかねない、がんじがらめに縛られている日本の田舎のコミュニティを浮き彫りにしていた。地元を潤すのが与党主導のインフラ整備しかなかった時代のしがらみをどこまで続けるんだろう? こんな地方の古い体質を変えて行くのは次世代の若い人たちで、そこに対して訴える力を持っていたのが小川淳也だったのかもしれない。

この衆議院議員選挙のあと、敗北の責任を取って立憲民主党の党首、枝野幸男が辞任した。そして、小川淳也がやっとこさ20人の推薦人を確保して、立憲民主党の党首選挙に立候補した。でもそのことは『香川1区』としてはまた別の話しで、次回の映画はそこから始まるんだとおもう。ああ、早く次回作が観たい。

→大島新→小川淳也→ネツゲン/2021→シネ・リーブル池袋→★★★★

監督:マシュー・ヴォーン
出演:レイフ・ファインズ、ジェマ・アータートン、リス・エヴァンス、マシュー・グッド、トム・ホランダー、ハリス・ディキンソン、アーロン・テイラー=ジョンソン、ダニエル・ブリュール、ジャイモン・フンスー、チャールズ・ダンス
原題:The King’s Man
制作:アメリカ、イギリス/2021
URL:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/kingsman_fa
場所:Movixさいたま

ヒットしたシリーズものの常道として、前日譚を描くことが多い。マシュー・ヴォーン『キングスマン:ファースト・エージェント』もまさにそれだった。ただ、その前日譚の映画を面白いと感じることはなかなかマレで、パッとおもいつく限りではリチャード・レスターの『新・明日に向って撃て! 』(1979)が良かったくらいだった。

おそらく前日譚の映画を面白いと感じない理由は、主人公の出自やストーリーの発端などを前日譚に組み込むときに、ああ、その前日譚のエピソードが伏線となって1作目のストーリーにつながっているのね、の流れに納得感がなかなか得られないからだとおもう。どうしても、あとから取って付けたようなストーリーとおもえてしまう。

「キングスマン」シリーズの第1作『キングスマン』(原題は「Kingsman: The Secret Service」)を面白いとおもった理由は、まずはイギリス(と云うか、イングランドと云うか、UKと云うのか)の伝統とも云える「ジェントルマン」を基本としたMI6ばりの裏の秘密組織があると云うことと、「ジェントルマン」に求められる「ノブレス・オブリージュ(貴族の義務)」の考えのもとに、名も知られずに無私の行動で世界の平和を守り抜く007やサンダーバードの流れを汲んでいるところだった。

そうした観点から見れば今回の『キングスマン:ファースト・エージェント』も楽しい映画ではあった。が、まあ、なんとなく同じことの繰り返しにも見えなくはなかった。このストーリーがあったからこそ第1作が成り立っているのね、との感覚は乏しかった。ボーア戦争からはじまって、第一次世界大戦、ロシア革命、ヒットラーの台頭など、ヨーロッパ近代史の出来事を盛り込んでいるところは面白かったのだけれど。

→マシュー・ヴォーン→レイフ・ファインズ→アメリカ、イギリス/2021→★★★