ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密

監督:ライアン・ジョンソン
出演:ダニエル・クレイグ、クリス・エヴァンス、アナ・デ・アルマス、ジェイミー・リー・カーティス、マイケル・シャノン、ドン・ジョンソン、トニ・コレット、ラキース・スタンフィールド、キャサリン・ラングフォード、ジェイデン・マーテル、クリストファー・プラマー
原題:Knives Out
制作:アメリカ/2019
URL:https://longride.jp/knivesout-movie/
場所:109シネマズ菖蒲

殺人事件の容疑者たちを一つの部屋に集めて、名探偵が犯行の手順を解明して行って、最後に「犯人はお前だ!」と云うアガサ・クリスティのミステリー小説のようなパターンは、あまりにも古臭くて、もう誰もやらないのかと悲しんでいたら、久しぶりにそんな映画、『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』がやって来た。でももう、単純なプロットでは誰もが納得をしないので、ちょっと複雑になってしまっているのが残念。あまりにも複雑すぎると、犯人がわかっても「あいつだったのか!」の爽快感が乏しく、「お、おう・・・」になってしまう。

それでもところどころの設定が面白くて、その中でも「嘘をつくと吐いてしまう看護師」ってのは笑えた。この嘘をつけない人間を中心に、ストーリーが進んでいく脚本は素晴らしかった。

ライアン・ジョンソン監督はこの映画を作るに当たって、アガサ・クリスティが原作の映画ばかりでなく、『名探偵登場』や『デストラップ・死の罠』(https://twitter.com/rianjohnson/status/1090747370772393984?s=20)も参考にしたそうだ。そうそう、この二つの映画は、『名探偵登場』はパロディではあるのだけれど、自分にとってベスト・オブ・ミステリー映画だ。

→ライアン・ジョンソン→ダニエル・クレイグ→アメリカ/2019→109シネマズ菖蒲→★★★☆

ラストレーター

監督:岩井俊二
出演:松たか子、広瀬すず、庵野秀明、森七菜、小室等、水越けいこ、木内みどり、鈴木慶一、豊川悦司、中山美穂、神木隆之介、福山雅治
制作:「ラストレター」製作委員会/2019
URL:https://last-letter-movie.jp
場所:109シネマズ木場

岩井俊二が作る映画のプロットが好きなので、たとえノスタルジックでセンチメンタルなストーリーが甘ったるく感じられても、まあ、いつも映画としては満足してしまう。それに、岩井俊二が作る画作りも大好きなので、その美しさにいつも惚れ惚れしてしまう。だから今回の『ラストレーター』も、『Love Letter』(1995)のプロットをそのまま持ち込んだような映画ではあるのだけれど、やはり映画としては楽しかった。ただ、今回は「自殺」や「DV(ドメスティック・バイオレンス)」のようなダークな要素が出てくるので、そこがセンチメンタルだけの『Love Letter』とはちょっと傾向が違った映画になっていた。美しいだけでは済ますことのできなくなった岩井俊二の意識の変化が、この25年のあいだにあったのかなあ。でも、岩井俊二自身を反映しているようなる福山雅治が、メフィスト的な役割を演じる豊川悦司を殴らないのは、やはりそこは優しい(見かたによっては柔い?)岩井俊二の映画だった。

→岩井俊二→松たか子→「ラストレター」製作委員会/2019→109シネマズ木場→★★★☆

テリー・ギリアムのドン・キホーテ

監督:テリー・ギリアム
出演:アダム・ドライバー、ジョナサン・プライス、オルガ・キュリレンコ、ステラン・スカルスガルド、ジョアナ・リベイロ、オスカル・ハエナーダ
原題:The Man Who Killed Don Quixote
制作:イギリス、フランス、スペイン、ポルトガル、ベルギー/2018
URL:http://donquixote-movie.jp
場所:新宿シネマカリテ

テリー・ギリアムが『ドン・キホーテを殺した男』と云う新しい映画を作っているとのニュースをネットで読んだ記憶があるのだけれど、いつになっても日本では公開されないので、ああ、これはビデオスルーになってしまったのだと勝手に解釈していた。ところが、一昨年あたりに、ポルトガルのプロデューサーであるパウロ・ブランコが「映画の権利は自分にある」と主張して裁判を起こしたニュースが伝わってきて、おお、まだ完成していなかったんだと驚いた。

その『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(原題を直訳すると「ドン・キホーテを殺した男」)が、構想30年、企画頓挫9回(公式ホームページより)を乗り越えて、ようやく日本でも公開となったので観に行った。

ミゲル・デ・セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」を読んだことはないのだけれど、見聞きした情報やミュージカル作品『ラ・マンチャの男』から想像するに、ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャと云う男が現実と空想世界との区別がつかなくなり、自分をとりまくすべての状況を騎士道精神の物語設定におきかえてしまって、さまざまなトラブルを起こしてしまうと云うストーリーだと認識している。

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』も、アダム・ドライバーが演じているCM監督が「ドン・キホーテ」を題材にしたCMを撮るうちに、撮影をしている監督としての現実と作り上げている「ドン・キホーテ」のCM(さらには学生時代に撮ったドン・キホーテの映画)との区別がつかなくなって、さまざまなトラブルに巻き込まれると云うストーリーだった。これって、もちろんアダム・ドライバーの役柄がそのままテリー・ギリアム自身であるとすぐに見て取れるのだけれども、そこに『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』自体を制作して行く過程でのさまざまなトラブルを起こすテリー・ギリアム自身とが重なって、二重構造どころか三重構造に見えてしまう部分がとても面白かった。

オーソン・ウェルズも「ドン・キホーテ」の映画を作ろうとして、その「ドン・キホーテ」の物語に取り込まれてしまった。テリー・ギリアムもまたしかり。天才監督は天才の書いたストーリーにあこがれて、そこに取り込まれてしまうものなのか。

→テリー・ギリアム→アダム・ドライバー→イギリス、フランス、スペイン、ポルトガル、ベルギー/2018→新宿シネマカリテ→★★★★

リチャード・ジュエル

監督:クリント・イーストウッド
出演:ポール・ウォルター・ハウザー、サム・ロックウェル、キャシー・ベイツ、ジョン・ハム、オリヴィア・ワイルド、イアン・ゴメス、ニナ・アリアンダ
原題:Richard Jewell
制作:アメリカ/2019
URL:http://wwws.warnerbros.co.jp/richard-jewelljp/index.html
場所:109シネマズ木場

罪を犯してない人間が、国家権力やマスコミによって、あらぬ疑いをかけられて、まるで犯罪者のような扱いを受ける可能性はどれくらいあるんだろう? と考えた時に、いやいや、その確率は天文学的数字だろう、と今までは考えてはいた。でも、最近のSNS上での根拠のない憶測による犯人探しを目の当たりにすると、名もない人たちが集団となって関係のない人間を犯人扱いしてくる確率がますます増えてきていて、相手が見えないからこそ公的機関による冤罪よりもさらに怖ろしくなってきている。

そんな今の世の中だから、クリント・イーストウッド監督の『リチャード・ジュエル』で描かれる冤罪事件は身に迫るほど怖かった。1996年のアトランタで、爆発物を発見して多くの人命を救ったにもかかわらず、そのあまりにも真っ直ぐな誠実さがかえってアダとなって、FBIによって犯人に仕立てられてしまうリチャード・ジュエルと云う人物は、おそらくは誰にとっても自分と置き換えることのできる人物だろうとおもう。どんな人間だって、叩けば何かしらほこりが出てくるもので、そこを追求されたときの恐怖は、考えてみるだけでも怖ろしい。

クリント・イーストウッドの映画は、虐げられた者からの視点で描く場合が多くて、『リチャード・ジュエル』もそのパターンの映画ではあるのだけれど、いつもながら登場人物を描くのが巧くて、特に今回はリチャード・ジュエルを弁護するワトソン・ブライアントを演じたサム・ロックウェルが良かった。べらんめえ口調(なんてものはアメリカには存在しないのかもしれないけど)で権力に動じなくて、刑事事件の弁護経験の少なさにも臆することなく立ち向かって行く人物像の描き方が素晴らしかった。

→クリント・イーストウッド→ポール・ウォルター・ハウザー→アメリカ/2019→109シネマズ木場→★★★★