鑑定士と顔のない依頼人

監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、シルヴィア・フークス、ドナルド・サザーランド、フィリップ・ジャクソン、ダーモット・クロウリー、リヤ・ケベデ、キルナ・スタメル
原題:The Best Offer
制作:イタリア/2013
URL:http://kanteishi.gaga.ne.jp
場所:新宿武蔵野館

公開から時間が経つと、積極的にその映画の情報を得ようとしなくとも、ぽろぽろと断片情報が漏れ聞こえてきてしまう。たとえそれがそのものズバリの情報でなくても、その映画がどう云った類いのものであるのかがおぼろげに見えてきてしまう。この『鑑定士と顔のない依頼人』の場合は、どんでん返し、とか、驚きの展開、などのキーワードをTwitterでチョロッと拾ってきてしまったので、ジェフリー・ラッシュへ謎の女から電話がかかって来た時点で、しっかりと裏読みの体制を整えてしまっていた。そうしたら、なんと、その裏読みした通りのままストーリーが進んでしまった。しっかりとしたシナリオだし、女性の肖像画で埋め尽くされた部屋などのビジュアルにも目が瞠るものがあってとても楽しめる映画ではあるのだけれど、でも単純に、フェイク映画の常道を突き進んでいるだけの映画だった。だとしたら、ヒッチコックのように途中からネタバレさせて、その上でストーリーを構築させてしまったほうが良かったような気もするけど、それはいろんなパターンの映画を見尽くしてしまった映画オタクのごたくで、まったくの素直な気持ちでこの映画を見れば充分に楽しめる映画ではあるのだけれど。『ニュー・シネマ・パラダイス』と同じで、トルナトーレの映画を楽しむにはピュアな心持ちが必要だ。

→ジュゼッペ・トルナトーレ→ジェフリー・ラッシュ→イタリア/2013→新宿武蔵野館→★★★☆

ドラッグ・ウォー 毒戦

監督:ジョニー・トー
出演:ルイス・クー、スン・ホンレイ、クリスタル・ホアン、ウォレス・チョン、ラム・シュー、ラム・ガートン、ミシェル・イェ、ロー・ホイパン、チョン・シウファイ、バーグ・ウー、フィリップ・キョン
原題:毒戦 Drug War
制作:香港、中国/2013
URL:http://www.alcine-terran.com/drugwar/
場所:新宿シネマカリテ

多作家のジョニー・トーの映画をすべて追いかけるのは大変だ。新作の『名探偵ゴッド・アイ』も見逃してしまったし、2011年の『奪命金』とこの『ドラッグ・ウォー 毒戦』のあいだにも『高海抜の恋』と云う映画を撮っているらしい。むかしのスタジオ・システムが機能していた時代ならいざ知らず、いまの時代にこんなに映画が制作できるジョニー・トーは、ある意味、奇跡の映画作家ではないかとおもうと同時に、どこかのネジがすっ飛んでしまって制御が効かなくなった映画マシーンのようにも見えて狂気さえ感じてしまう。こんなに映画を乱発できる情熱はいったいどこから来るんだろう。

『ドラッグ・ウォー 毒戦』は、キッチリとした構成されていた『奪命金』に比べると、とても直線的な映画だった。登場人物の背景などの説明はすべて省き、情感的なものまでもすべて排除して、ただ突っ走る暴走機関車のような映画だった。無表情で拳銃をぶっ放す破滅的な人間の祝宴は北野武へのオマージュのようにも見えるけど、でも、もう少しひねりがあっても良かったような気がする。

→ジョニー・トー→ルイス・クー→香港、中国/2013→新宿シネマカリテ→★★★

アメリカン・ハッスル

監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:クリスチャン・ベール、ブラッドレイ・クーパー、エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、ジェニファー・ローレンス、ルイス・C・K、マイケル・ペーニャ、ジャック・ヒューストン、エリザベス・ローム、エリカ・マクダーモット、ロバート・デ・ニーロ
原題:American Hustle
制作:アメリカ/2013
URL:http://american-hustle.jp
場所:新宿武蔵野館

演技に対してストイックな役者バカとも云える俳優たちが寄り集まって演技合戦をする映画が好きなので、この映画のクリスチャン・ベール、ブラッドレイ・クーパー、エイミー・アダムス、ジェニファー・ローレンスの演技のせめぎ合いは見ていて楽しかった。いつものように身体的特徴から入って来るクリスチャン・ベール、『世界にひとつのプレイブック』に続いて多動性障害とも見えるテンションの高いブラッドレイ・クーパー、『ザ・マスター』と同じようにタフでしたたかな演技を見せるエイミー・アダムス、そして『世界にひとつのプレイブック』でアカデミー主演女優賞を獲ったジェニファー・ローレンス。さらに、ロバート・デ・ニーロだ! 勝敗を付けるものでもないけど、女同士の口喧嘩でボルテージが高まって行って、怒りが暴発するのかとおもいきや喧嘩相手のエイミー・アダムスに突然接吻するジェニファー・ローレンスがそのシーンだけでかっさらってしまったような気がする。出番は少ないけど、ジェニファー・ローレンスの勝ち。

詐欺師の映画と聞いたので、なんとなく『スティング』みたいなスカッとする映画を想像して観に行ってしまったのが間違えで、どちらかと云うとスティーヴン・フリアーズ監督の『グリフターズ/詐欺師たち』のような人間のイヤらしい面をじっくりと見せる映画だった。だから演技合戦ありきの映画で良かったわけだけれど、そこが楽しめなければまったく面白くない映画なのかもしれない。

→デヴィッド・O・ラッセル→クリスチャン・ベール→アメリカ/2013→新宿武蔵野館→★★★☆

スノーピアサー

監督:ポン・ジュノ
出演:クリス・エヴァンス、ソン・ガンホ、コ・アソン、ジェイミー・ベル、ジョン・ハート、ティルダ・スウィントン、オクタヴィア・スペンサー、エド・ハリス
原題:Snowpiercer
制作:韓国、フランス、アメリカ/2013
URL:http://www.snowpiercer.jp/index01.html
場所:ユナイテッドシネマとしまえん

人類滅亡からかろうじて生き残った人間たちが乗る方舟列車“スノーピアサー”号の中だけで展開するストーリーは、コンパクトなシチュエーションで展開する映画が好きな自分にとってはとても面白い映画だった。最後尾の車両から先頭車両“フロント”へ至る道のりの中で、いったいこの列車は何両連結なのかと云うほど、次から次へと車両ごとにめまぐるしく展開する人間博覧会も面白いし、随所に盛り込む小道具を使った伏線のはり方、そしてその回収の方法も面白かった。ただ、社会階層の縮図として各車両が存在するのならば、“フロント”へ向かって秩序立ってそれぞれの階層の車両が並んでいたら良かったのに。あまりにも乱雑としているので“フロント”にたどり着いた達成感がまったくなかった。外へ出る扉が2両目にだけ存在する理由も、その秩序の中から生まれてくるような設定であったのならもっと深みがあったのに。

韓国のパク・チャヌク監督が撮った『イノセント・ガーデン』を観た時に感じた、無理矢理ハリウッドの映画を撮らされた、と云うような感覚は、このポン・ジュノの『スノーピアサー』では感じられなかった。それはおそらくパク・チャヌクの会社であるモホ・フィルムズがこの映画をコントロールできていたからじゃないかとおもう。特にポン・ジュノとなじみのある韓国人のソン・ガンホ、コ・アソンを使う事が出来たことは大きかった。やはり非英語圏の外国人監督がハリウッドシステムで映画を撮るためには、制作サイドも一緒に持って行けるに越した事はないよなあ。

→ポン・ジュノ→クリス・エヴァンス→韓国、フランス、アメリカ/2013→ユナイテッドシネマとしまえん→★★★☆

マイティ・ソー/ダーク・ワールド

監督:アラン・テイラー
出演:クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン、トム・ヒドルストン、アンソニー・ホプキンス、ステラン・スカルスガルド、イドリス・エルバ、クリストファー・エクルストン、アドウェール・アキノエ=アグバエ、カット・デニングス、レイ・スティーヴンソン、ザッカリー・リーヴァイ、浅野忠信、ジェイミー・アレクサンダー、レネ・ルッソ
原題:Thor: The Dark World
制作:アメリカ/2013
URL:http://www.marvel-japan.com/movies/thor/
場所:新宿ミラノ1

昨年の『アベンジャーズ』のヒットでますます活気づくマーベル・コミック系映画なんだけど、おそらく、この『マイティ・ソー』単体だけの映画化ならば絶対に観に行かなかったとおもう。『アベンジャーズ』があったからこそ、クロスオーバーしたそれぞれの作品にも興味が湧くようになったし、さらにそこからまた違った作品にも注意が向くようになって、その映画化作品も観ようと云う気にさせられてしまう。

例えば、この映画のエンドクレジット後には、さらりとベニチオ・デル・トロが登場する。“コレクター”と云う名前のヴィラン(怪人)で、今年の8/1にアメリカで公開予定(日本では9/13予定)の『ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー』にも登場する「エルダーズ・オブ・ジ・ユニバース」(ガードナー、グランドマスター、コレクター、チャンピオン、ランナー)の一人だ。で、その「エルダーズ・オブ・ジ・ユニバース」とは何かと云うと、マーベル・コミックの「アベンジャーズ」や「シルバーサーファー」などに登場するキャラクター集団だ。

エルダーズ・オブ・ジ・ユニバース

その“コレクター”が「あと5つある」と云って集めていたものは“インフィニティ・ジェム”と呼ばれるものらしくて、「魂(ソウル、緑)」「力(パワー、赤)」「空間(スペース、紫)」「現実(リアリティ、黄色)」「時間(タイム、オレンジ)」「精神(マインド、青)」の6つの内、今回は緑(だったとおもう)を集めた事になる。これの意味する事は何なんだ! とマーベル・コミック系映画ファンのあいだでは話題になっているらしい。『アベンジャーズ』のラストに出てきたサノス(これもマーベル・コミックに出てくるヴィラン)は、この6つのジェムを嵌めたインフィニティ・ガントレットを作り出すので、それと関連するんだろうか。

インフィニティ・ガントレット

と、マーベル・コミックについてまったく知識がなかったので一生懸命にネットで調べた。うーん、どんどん興味が広がって行く。そのうちマーベルのアメコミもよみそうな勢いだ。

→アラン・テイラー→クリス・ヘムズワース→アメリカ/2013→新宿ミラノ1→★★★