監督:クリストファー・マッカリー
出演:トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、ヴィング・レイムス、サイモン・ペッグ、イーサイ・モラレス、ポム・クレメンティエフ、ヘンリー・ツェニー、シェー・ウィガム、アンジェラ・バセット
原題:Mission: Impossible – The Final Reckoning
制作:アメリカ/2025
URL:https://missionimpossible.jp
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

1996年にはじまった映画版「スパイ大作戦」である「ミッション:インポッシブルシリーズ」も、今回の8作目『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』で最終作だそうだ。窮地に立たされたの主人公がどのようにして危機を脱出するのか、活動写真の原点とも云えるハラハラ・ドキドキ感を前面に押し出したシリーズとして、そしてトム・クルーズのケレン味たっぷりの体当たりな演技を楽しむ映画としても貴重なシリーズだった。

ラストくらいはIMAXで観ようと、普段なら高い料金を払おうとはおもわないんだけれど、今回はユナイテッド・シネマのポイントがあったので700円で観ることができた。さすがIMAXの大画面。自分がトム・クルーズになっているようなグイグイ来る感覚が素晴らしかった。やっぱり「ミッション:インポッシブルシリーズ」のようなアクション映画はIMAXで観るべきだとは痛感した。でもなあ、もうちょっと安いと良いんだけれど。

この「ミッション:インポッシブルシリーズ」は、トム君が体力的な限界を迎えて無理だとしても、007のように誰かが引き継いで続けて行くべきじゃないのかなあ。これだけお金をかけた(制作費は推定4億ドル!)豪華な映画をお祭り騒ぎのようにIMAXで観ることが、こじんまりとサブスクなどで映画を見ることとの差別化が図れる唯一の希望だとおもう。

→クリストファー・マッカリー→トム・クルーズ→アメリカ/2025→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆

監督:コラリー・ファルジャ
出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド、エドワード・ハミルトン=クラーク、ヤン・ビーン(声の出演)
原題:The Substance
制作:フランス、イギリス、アメリカ/2024
URL:https://gaga.ne.jp/substance/
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

今年のアカデミー賞で話題になった作品の大トリとして、やっとコラリー・ファルジャ監督の『サブスタンス』を観る。

これだけ時間が経ってしまうと、どんな映画なのかポロポロと情報が入って来てしまうので、女性の老いに対する恐怖や美への執着を扱っているストーリーと云うことはもうわかってしまった。それにどうやらジョン・カーペンター『遊星からの物体X』(1982)でのロブ・ボッティンが作ったような特殊メイクのようなものも出てきて相当にエグイらしい、と云うこともわかってしまった。そのような情報を遮断して何も知らずにこの映画を観ていれば、その驚きだけでぶっ飛んだような気もする。

なので、映画のスジが予想した通りに展開してしまって、驚きも相当に半減してしまった。とは云っても、ラストに向かっての展開は凄かった。いや、これはしつこすぎる。ジェームズ・キャメロンのラストの畳み掛けも相当しつこいが、コラリー・ファルジャはやりすぎだ。自分の席から少し前で見ていた老夫婦は、このグチョグチョ、ゲロゲロのオンパレードを観て卒倒しなかったのだろうか。大きなお世話だけど。

デミ・ムーアが演じる往年の大女優エリザベス・スパークル(およびそのコピーであるマーガレット・クアリー演じるスー)が「サブスタンス」を繰り返した結果、スーの肉体に無数の臓器やエリザベスの顔などが貼り付いた見るに耐えかねない怪物「モンストロ・エリサスー」が誕生してしまう。その怪物の顔の位置にエリザベスのポスターから切り取った紙ペラの顔を申し訳程度に貼った「モンストロ・エリサスー」が、スーを待ち構えていた大勢のファンの人々の中を練り歩くシーンは、これはビリー・ワイルダー『サンセット大通り』(1950)のグロリア・スワンソンだな、とすかさず連想してしまった。いつまでも過去の栄光にすがりつくサイレント映画時代の大女優グロリア・スワンソンとデミ・ムーアが演じる過去の女優エリザベス・スパークル(残酷に云えばデミ・ムーア自身とも)重なるシーンで、おそらくコラリー・ファルジャ監督もそれを絶対に意識していたとおもう。

面白い映画だったけれど、ちょっとしつこくて胃がもたれてしまった。

→コラリー・ファルジャ→デミ・ムーア→フランス、イギリス、アメリカ/2024→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆

監督:ジャレッド・ヘス
出演:ジェイソン・モモア(安元洋貴)、ジャック・ブラック(山寺宏一)、ダニエル・ブルックス(斉藤貴美子)、エマ・マイヤーズ(生見愛瑠)、セバスチャン・ハンセン(村瀬歩)、ジェニファー・クーリッジ(安達忍)
原題:A Minecraft Movie
制作:アメリカ/2025
URL:https://wwws.warnerbros.co.jp/minecraft-movie/
場所:MOVIXさいたま

Mojang Studiosのゲーム「Minecraft」の面白さは、序盤ではやはり鉄やダイヤモンドを掘り当てたときの快感だった。とくに鉄の鉱脈に行き当たったときのザクザク掘り当てる爽快感は格別で、アメジストの部屋に行き当たったときの目もくらむような美しさも忘れることができない。ところが、そのような成功体験を得るためには代償も必要で、ゾンビ(特に子どものゾンビ)やスケルトンやクリーパーに殺られる恐怖に打ち勝たなくてはならない。ちょっと気を抜いた隙にスケルトンの矢に滅多打ちにされたり、思わず空洞を掘り当てて墜落死してしまったりと、貴重な装備をすべてパアにしたときの絶望感は計り知れない。

ゲームを映画化するんだったら、そう云ったゲームの面白さ、辛さの核心部分を再現できていないとまったく意味がない。クリエティブなものを作ることへのリスペクトは、もちろんゲームの根底には存在しているけれど、それがメインとなるものではなくて、どちらかと云えば補助的な役回りに過ぎない。都市や装置やトラップを作る楽しさもあるけれど、ゲームの本筋は、序盤は地下深く掘ること、中盤は村人の交流と司書ガチャ、そしてネザーやトライアルチャンバーへと挑戦して進んでいくのがゲーム「Minecraft」だ。

ジャレッド・ヘス監督の『マインクラフト/ザ・ムービー』は、そのようなゲームの楽しさをまったく反映していない。「ロード・オブ・ザ・リング」の亜流のようなものが出来上がっているだけだった。そうだよなあ、露天掘りで鉄やダイヤモンドを見つけるだけのストーリーが面白いわけがない。ゲームの映画化は難しい。

→ジャレッド・ヘス→ジェイソン・モモア→アメリカ/2025→ MOVIXさいたま→★★

監督:ベリコ・ビダク
出演:アキ・カウリスマキ、ミカ・ラッティ、ミッコ・ミュッリラハティ、ペペ・トイッカ、スヴィ・ヴェサライネン、ミンナ・ノルドルンド、オウティ・オヤ、ユホ・ウーシヴィルタ、ユハニ・ウーシヴィルタ、サイモン・フセイン・アルバズーン、ジョヴァナ・ストヤノフスキ、トミ・トイヴォネン、スヴィ・カルカス、トミ・レイノ、ラウノ・マキネン、篠原敏武、ペルッティ・サルメンヨキ、ユッカ・サルミ、ヘッラ・ウルッポ
原題:Cinema Laika
制作:フランス、フィンランド/2023
URL:http://eurospace.co.jp/KinoLaika/
場所:OttO

2025年4月29日、さいたま市の大宮にもミニシアターが誕生した。「OttO」と云う名前の複合建物で、1階がカフェ、2階が映画館、3~5階がシェアハウスになっている。

さっそく行ってみようとおもってオープニング上映情報を見てみると、その中に『キノ・ライカ 小さな町の映画館』があった。フィンランドの映画監督のアキ・カウリスマキが、自分の故郷のカルッキラに映画館を建てるドキュメンタリーで、まさに今回観るにぴったりの映画だった。

実際に映画館に入ってみると、入口にカフェと映画館の共通のレジがあって、そこで観る映画を選ぶことができる。行った当日はまだアルバイトに手順を教えている段階で、指定席でありながら座席にバツ印を記入していくアナログな段取りは慣れないと大変そうだった。

その入口から半階くらいに降りたところにカフェがあって、半階ぐらい上がったところに映画館がある。映画館の座席数は47席(うち、車椅子スペース:1席分/ふたり掛けソファクッション席:4組(8名))で、親子観賞室も3席(大人と子ども2人1組で計6名ほど)ある。多い座席数ではないけれど、椅子はゆったりとしていて、とても居心地の良い空間になっている。スクリーンも大きくて、座席は階段状に配置されているのでとても観やすい。おもっていたよりも良い映画館になっていたのはとても嬉しい。

そんなこじんまりとした素敵なスペースで観る『キノ・ライカ 小さな町の映画館』は、この「OttO」を作った人たちの苦労ともシンクロしてしまって、普通に観るよりも倍以上、映画を楽しめたような気がした。アキ・カウリスマキの映画『ラヴィ・ド・ボエーム』のエンディングに流れる日本の曲「雪の降るまちを」を歌っている篠原敏武も出てきて、フィンランド人と日本人との似通った民族気質などもさりげなく垣間見られて、そんなところも映画に感情移入できる要素だった。

「OttO」の建物の前にはピックアップトラックのようなアメ車(クルマ好きに聞いたら初代シボレー・エルカミーノらしい)も展示されていて、アキ・カウリスマキがキャデラック好きなことから、それに合わせた映画館の装飾なのかな、とおもったら、上映後のOttO代表・今井さんの話によると偶然の一致だそうだ。

日曜の昼間の時間で、お客さんの入りは4割り程度だった。でも、もう一度来たいとおもわせるような素敵な映画館なので、口コミで広がればきっとリピーターは増えるとおもう。

→ベリコ・ビダク→アキ・カウリスマキ→フランス、フィンランド/2023→ OttO→★★★☆

監督:グレッグ・クウェダー
出演:コールマン・ドミンゴ、クラレンス・マクリン、ショーン・サン・ホセ、ポール・レイシー、デビッド・“ダップ”・ジローディ、モーシ・イーグル、ショーン・“ディノ”・ジョンソン、コーネル・ネイト・オルストン、ミゲル・バランタン、ジョン=エイドリアン・“JJ”・ベラスケス
原題:Sing Sing
制作:アメリカ/2023
URL:https://gaga.ne.jp/singsing/
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

アメリカのニューヨーク州オシニングにあるシンシン刑務所には、舞台演劇を通して収監者の更生を目指すプログラム 「RTA」と云うものがある。グレッグ・クウェダー監督の『シンシン SING SING』は、実際に「RTA」プログラムによって更生した元収監者を使って、その「RTA」がどんなものかを描いた映画だった。

主人公ディヴァインGを演じたコールマン・ドミンゴはさすがに本当の役者だった。でも驚いたのは、刑務所内で札つきの悪党として煙たがられていた通称ディヴァイン・アイを演じているクラレンス・マクリンが、実際の「RTA」プログラムの卒業生として本人を演じていたことだった。おそらくは実体験をそのまま演じていて、それは演じやすいことなんだろうけれど、それにしても巧い演技だった。他にも「RTA」の卒業生が多数本人役を演じていて、エンドクレジットで紹介される役者が次々と「himself」となっていることに驚きの連続だった。

ディヴァイン・アイ役のクラレンス・マクリンは、英語版Wikipediaには、29歳のときに強盗の罪で17年間シンシン刑務所に服役した、と書いてある。ニューヨークにあるマーシー大学で行動心理学の準学士号を取ったとも書かれてあるけれども、その教育が生かされずに犯罪に手を染めてしまった経緯については詳しく書かれてはなかった。おそらく彼の生活していた環境が、少しばかりの教育だけでは大きな変化をもたらすことが出来なかったのかもしれない。としたら、自分とはまったく違った環境にある人物を演じてみることは、自分を変える何かしらの手がかりを得るきっかけになったのかもしれない。「RTA」プログラムが成功している理由はそこにあるとおもう。

アメリカと日本では犯罪が起こる背景がまったく異なるので、一概に簡単なことを云うことはできないけれども、日本の刑務所もこの「RTA」のような更生を手助けするプログラムを多く取り入れるべきではないかとはおもう。

→グレッグ・クウェダー→コールマン・ドミンゴ→アメリカ/2023→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆

監督:ジャック・オーディアール
出演:カルラ・ソフィア・ガスコン、ゾーイ・サルダナ、セレーナ・ゴメス、アドリアナ・パス、マーク・イヴァニール、エドガー・ラミレス
原題:Emilia Pérez
制作:フランス/2024
URL:https://gaga.ne.jp/emiliaperez/
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

先月から今月にかけては、アカデミー賞で話題になった作品を観る月間になっている。今回はゾーイ・サルダナが助演女優賞を獲ったジャック・オーディアールの『エミリア・ペレス』。

メキシコの麻薬カルテルのボスであるファン・「マニタス」・デル・モンテ(カルラ・ソフィア・ガスコン)は、弁護士のリタ・モラ・カストロ(ゾーイ・サルダナ)の協力で密かに性別適合手術を受けて、子供の頃から持っていた性の違和感を取り除いて女性として新たな本物の人生を始めることになる。

と云うストーリーは、今年のアカデミー賞授賞式を見たらわかってしまって、麻薬カルテルのボス「マニタス」と、女性となった「マニタス」であるエミリア・ペレスを演じている俳優が、同一人物のカルラ・ソフィア・ガスコンであることの驚きもそれでネタバレしてしまった。まあ、ネタバレ厳禁原理主義では無いので別にそれは良いんだけれども、麻薬カルテルのボスが女性になって別の人生を歩むものの過去のしがらみから逃れられない、だけではちょっと厳しい映画ではあった。

むしろこの映画は、弁護士のリタ・モラ・カストロを演じているゾーイ・サルダナの映画だった。良いように利用されていた女性弁護士が、ふとしたことから知り合った麻薬カルテルのボスの無理な注文をこなすことによって、女性としての尊厳を取り戻すストーリーの映画でもあった。彼女がアカデミー賞の、助演ではなくて、主演女優賞でも良かったのに。

→ジャック・オーディアール→カルラ・ソフィア・ガスコン→フランス/2024→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★

監督:エドワード・ベルガー
出演:レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、セルジオ・カステリット、ルシアン・ムサマティ、カルロス・ディエス、メラーブ・ニニッゼ、イザベラ・ロッセリーニ
原題:Conclave
制作:アメリカ、イギリス/2024
URL:https://cclv-movie.jp
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

新しいローマ教皇を選出する教皇選挙(コンクラーヴェ)がどんなものなのか興味がありはするけれど、ガチガチの保守的なイメージしか無いカトリックの仕来たりにのっとったやり方に何か面白い要素はあるんだろうかとも考えていた。そこに大きく切り込んだのがエドワード・ベルガー監督の『教皇選挙』だった。

いまのアメリカ合衆国を例に取らなくとも、リベラルな考え方に反発する動きは至るところで起きていて、どんな国でも保守的な考え方(の反対は本当は「革新」や「急進」なんだけれども)と二分される事態に陥っている。ロバート・ハリスの同名小説を原作としたこの映画も、リベラルな考え方を持つ教皇が亡くなったあとの、それを継承しようとする勢力と伝統的な考え方に戻そうとする勢力の争いを中心に描いていて、それだけではなくて、初のアフリカ系教皇の誕生を容認すべきか、とか、最終的に選ばれた新教皇の身体的特徴についての驚くべき事実、とか、リベラルや保守の問題だけでなく人種差別やジェンダーの問題へも切り込んだ映画が『教皇選挙』だった。

あまりにも劇的な展開に、そして宗教者でありながら権謀術数をめぐらす凡庸さに、ちょっとやりすぎじゃないのか? とはおもうけれど、いまの複雑な時代背景を凝縮させて2時間に盛り込むことを考えれば、フィクションの映画として面白いものに仕上がっていたとおもう。

この教皇選挙を取り仕切るローマ教皇庁首席枢機卿のトマス・ローレンス枢機卿(レイフ・ファインズ)が選挙を始めるにあたって述べた口上が素晴らしかった。彼は「確信」が怖いと云う。絶えず悩んで疑問を持つべきだと云う。いまの時代のインフルエンサーはすぐ確信的にものを云う。その強烈さに同調するものはさらに熱狂し、意見の合わないものはさらにディスる。そうやって意見は二極化してしまう。絶えず自分の意見に疑問を持つべきだよなあ。でもそれは絶対に「弱さ」に繋がるから軽んじられてしまう。弱くても良いとはおもうけれど、自分が上に立っていなければ気がすまない連中にとってそれは「死」だから、どうにもならない。

→エドワード・ベルガー→レイフ・ファインズ→アメリカ、イギリス/2025→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★★

監督:ポン・ジュノ
出演:ロバート・パティンソン、ナオミ・アッキー、アナマリア・ヴァルトロメイ、パッシー・フェラン、キャメロン・ブリットン、ダニエル・ヘンシャル、スティーブ・パーク、スティーヴン・ユァン、トニ・コレット、マーク・ラファロ
原題:Mickey 17
制作:アメリカ/2025
URL:https://wwws.warnerbros.co.jp/mickey17/index.html
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

ポン・ジュノの映画『ミッキー17』は、エドワード・アシュトンによる2022年の小説『ミッキー7』を原作としている。ミッキー(ロバート・パティンソン)は友人と一緒に始めた事業に失敗し、宇宙開発で危険な仕事をこなすために生み出された「エクスペンダブル」になって惑星ニヴルヘイムでのコロニー建設ミッションに参加する。「エクスペンダブル」とは、任務で死ぬたびに保存されていたデータ(これには記憶だけでなくDNAも入っている?)を使って「人間の体の素」のスープから3Dプリンターのようにリプリントされた人間のことで、この映画が始まった時点ですでにミッキーは17回も生まれ変わっていて、だからタイトルが『ミッキー17』だった。

何度も云うことだけれど、長編小説を映画化する時に、小説にある様々なエピソードをすべて盛り込んでしまうと、2時間から3時間の上映時間があっても、とても散らかった映画になってしまう。この『ミッキー17』は以下に上げる要素がすべてあって、うーん、もうちょっと絞り込んだら良かったのに、とおもってしまう。

・生まれ変われるとはいえ、何度も恐怖を体験しなければならないこと
・「エクスペンダブル」への差別
・なぜか「エクスペンダブル」のミッキーへ好意を寄せる優秀なエージェントのナーシャ(ナオミ・アッキー)
・ミッキーとナーシャの間に暗号のように存在していたセックスの体位の番号とは?
・人間に対するワクチンや薬物の意味
・間違って同じ個体が2つ存在していまうマルチプルが起きること
・マルチプル同士の性格の違いによる確執(同じデータからなのに、なぜ違いが起きるんだ?)
・ミッキーと友人ティモ(スティーヴン・ユァン)との不思議な友情
・カルトであることを隠してコロニー建設ミッションを進めようとするケネス・マーシャル(マーク・ラファロ)
・惑星ニヴルヘイムの原住民であるクリーパー(人間が名付けた名前)と移住して来た人間との関係
・クリーパーが形成する社会とは?

その他にも細かい要素として、

・料理のソースにこだわるケネス・マーシャルの妻イルファ(トニ・コレット)
・ミッキーに好意を寄せる科学班のドロシー(パッシー・フェラン)
・ミッキーとティモを追いかけて惑星ニヴルヘイムまでやってくる借金取りのギャング
・バイセクシュアルらしきカイ(アナマリア・ヴァルトロメイ)との関係

などなど。このすべてが現代社会の問題点の隠喩であることはわかるけれど、あまりにも盛り込みすぎのような気がしてしまった。だからそれぞれの踏み込みが中途半端になってしまっている。もっとエピソードを取捨選択して掘り下げて欲しかった。

この映画を見て、原作小説も読んで、それからまた映画を見返せば様々なエピソードの意味もわかって、それはそれで楽しいのかもしれない。でも、一本の映画としては、それではダメのような、、、

→ポン・ジュノ→ロバート・パティンソン→アメリカ/2025→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★

監督:バーセル・アドラー、ハムダーン・バラール、ユヴァル・アブラハーム、ラヘル・ショール
出演:バーセル・アドラー、ユヴァル・アブラハーム
原題:No Other Land
制作:パレスチナ、ノルウェー/2024
URL:https://www.transformer.co.jp/m/nootherland/
場所:シネ・リーブル池袋

パレスチナ領域のヨルダン川西岸地区にあるヘブロン県マサーフェル・ヤッタ地域に住むバーセル・アドラーは、親が活動家であることから自身もイスラエル軍によるパレスチナ人の強制移動に子供の頃から抵抗してきた。バーセルの家族や隣人たちはその様子を20年以上に渡ってビデオで撮影していて、それらの膨大なアーカイブを編集してまためた映画がこのドキュメンタリーだった。

この映画はバーセルたちの活動の記録であるとともに、取材のためにやって来たイスラエル人ジャーナリストのユヴァル・アブラハームとの交流の記録でもあった。イスラエル人のユヴァルがなぜパレスチナの人たちのために、イスラエル軍の威圧的な行動を全世界に向けて発信するつもりになったのか、彼自身の言葉でしっかりと語られることはなかったけれど、彼の静かな行動こそが同胞であるイスラエル軍が行っている非人道的な行為がかえって際立つ構図になっていた。

長年のあいだ虐げられてきたユダヤ民族がやっと国を持ったことは、それはそれでとても喜ぶべきことだとはおもうけれど、その方法が最初から間違っていて、パレスチナ人に対する配慮の欠けた行為はあまりにもひどすぎる。これだけ押さえつけられれば反発する行動が起きるのも無理もない。イスラエルはパレスチナ人に対して、どうしてこれほどの上から見下ろした高圧的な態度が取れるんだろう? だからシェイクスピアの「ベニスの商人」に出てくるシャイロックのようにユダヤ人は嫌われて来たんじゃないのか? とも見えてしまう。そんな短絡的な考え方はまずいとおもいながらも、イスラエル軍がガザ地区を爆撃するたびに、うずうず、している。

→バーセル・アドラー、ハムダーン・バラール、ユヴァル・アブラハーム、ラヘル・ショール→バーセル・アドラー→パレスチナ、ノルウェー/2024→シネ・リーブル池袋→★★★★

監督:ショーン・ベイカー
出演:マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン、ユーリー・ボリソフ、カレン・カラグリアン、ヴァチェ・トヴマシアン、アレクセイ・セレブリャコフ、ダリヤ・エカマソワ、ルナ・ソフィア・ミランダ、リンジー・ノーミントン
原題:Anora
制作:アメリカ/2024
URL:https://www.anora.jp
場所:MOVIX川口

今年のアカデミー賞の作品賞を獲ったショーン・ベイカー監督の『ANORA アノーラ』を観に行った。カンヌのパルム・ドールを獲った映画なので観に行こうかとはおもっていたけれど、予告編を観る限りでは興味をそそられる内容の映画ではなかった。

ニューヨークでストリップダンサーとして働くアノーラが、ロシアのオリガルヒの息子イヴァンと出会い、恋に落ちる。しかし、息子の結婚に反対するイヴァンの両親がニューヨークまで乗り込んでくる…。

と、Wikipediaにあらすじが書いてあるけど、なんと、この内容でほとんど説明のつくの映画だった。何の驚きもない、こちらの想像を超える映画でもなかった。どこが評価されてパルム・ドール、そしてアカデミー賞作品賞に選ばれたんだろう? それがまったくわからない。一つあるとすると、制作費600万ドルの低予算で作られたインディペンデント映画にしては、とてもしっかりとした映画だったくらいかなあ。

アノーラ(マイキー・マディソン)が好きになるロシアの富豪の息子イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)が、アノーラが好きになるべくほんのちょっとでも魅力的な部分があればそれで腑に落ちる映画なのに、まったくのバカ息子であることに呆れてしまった。彼の両親も「バカ息子」と連呼するんだからもう笑うしか無い。バカ息子を好きになるアノーラに何の感情も移入できない。どうしたもんかと映画を観ながら迷走してしまった。

「Fuck!」を連呼したりセックスのシーンも多くて、誰に向けた映画なのかもさっぱりわからなくて、MOVIX川口の18時15分の回もガラガラだった。アカデミー作品賞を獲った映画の興行がますます成り立たなくなる。

→ショーン・ベイカー→マイキー・マディソン→アメリカ/2024→MOVIX川口→★★★