監督:ニア・ダコスタ
出演:ブリー・ラーソン、テヨナ・パリス、イマン・ヴェラーニ、ザウイ・アシュトン、ゲイリー・ルイス、パク・ソジュン、ゼノビア・シュロフ、モハン・カプール、サーガル・シェイク、サミュエル・L・ジャクソン
原題:The Marvels
制作:アメリカ/2023
URL:https://marvel.disney.co.jp/movie/marvels
場所:109シネマズ菖蒲

「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」もフェーズ5に入って、Disney+と契約していない身にとっては、映画公開だけを追いかけてもどこか中途半端な感じがしてならない。かと云って、Disney+に入って配信のシリーズまで追いかけたら、体がいくつあっても足りない。だから何となくMCU映画だけを追いかけている状態になってしまっている。

今回の『マーベルズ』を観るにあたって、前作の『キャプテン・マーベル』(2019)を見直してみた。『キャプテン・マーベル』がそれなりに楽しめたのは、キャロル・ダンヴァースがキャプテン・マーベルになる過程が描かれていて、そこにインフィニティ・ストーンのひとつ、空間を司る”スペース・ストーン”が関係していることが明らかななって、おお、こんな感じでインフィニティ・ストーンが様々なスーパーヒーローに関わっているんだな、と今までのMCU映画と関連していることが情報として得られた部分だったとおもう。

ところが『マーベルズ』では、今までのMCU映画を観てきただけの知識ではわからない部分、たとえばキャプテン・マーベルに憧れる女子高校生カマラ・カーンがスーパーパワーを手にすることになるのはDisney+で配信している「ミズ・マーベル」を見ていなければわからないし、マリア・ランボーの娘であるモニカ・ランボーが特殊な能力を得ることになるのはDisney+の「ワンダヴィジョン」を見ていなければわからない。チラッと登場する2代目ホークアイになっていくケイト・ビショップについてもDisney+の「ホークアイ」を見ていなければまったく馴染みがない。

てな感じで、Disney+と契約しろ!と云っているような映画になってしまっていた。この流れで行くと「ヤング・アベンジャーズ」が登場しそうな雰囲気がありありだし、さあ、どうするべきか。

→ニア・ダコスタ→ブリー・ラーソン→アメリカ/2023→109シネマズ菖蒲→★★★

監督:山崎貴
出演:神木隆之介、浜辺美波、永谷咲笑、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介
制作:TOHOスタジオ、ROBOT/2023
URL:https://godzilla-movie2023.toho.co.jp
場所:109シネマズ菖蒲

2016年に庵野秀明による『シン・ゴジラ』が作られて、そこで新しい「ゴジラ」の頂点とも云える作品を見せられてしまったので、しばらくは「ゴジラ」映画は作られないんじゃないかと勝手に推測していた。でも考えてみたら庵野版は、どちらかと云えば庵野秀明の色が濃く出たエヴァンゲリオン風「ゴジラ」映画であって、もっと原点に立ち帰った「ゴジラ」映画が作られても不思議ではなかった。

次に「ゴジラ」映画を作ったのは山崎貴だった。山崎貴の映画は『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)しか観たことがなくて、それは西岸良平の漫画の世界を映像化したビジュアルはとても良かったのだけれど、役者の演技があまりにもオーバーアクション気味なところが自分には合わなくて、その後の彼の映画を続けて見ようと云う気にはまったくはならなかった。

ところが「ゴジラ」と云うブランドは、その新しいものを見させようとするパワーが絶大で、山崎貴版でも、ちょっと観てみようかな、とおもわせるには充分だった。

で、観たのだけれど、ああ、やっぱりダメだった。例えば浜辺美波で云えば、彼女の魅力を引き出すのはツンデレ演技が一番であることを庵野の『シン・仮面ライダー』で知ってしまった。だから、この『ゴジラ-1.0』でのオーバーに感情を表現する彼女の演技にはまったく魅力を感じることができなかった。安藤サクラにしても、登場シーンからの感情をむき出しにさせる演出が、その後の神木隆之介との関わりを考えればまったく理解できなかった。

一つだけ良かったのは、明子(永谷咲笑)の演技だった。演技に無駄な感情はまったくいらない。

→山崎貴→神木隆之介→TOHOスタジオ、ROBOT/2023→109シネマズ菖蒲→★★★

監督:マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロ、リリー・グラッドストーン、ジェシー・プレモンス、ブレンダン・フレイザー、タントゥー・カーディナル、ルイス・キャンセルミ、ジェイソン・イズベル、カーラ・ジェイド・メイヤーズ、ジャネー・コリンズ、ジョン・リスゴー、マーティン・スコセッシ
原題:Killers of the Flower Moon
制作:アメリカ/2023
URL:https://kotfm-movie.jp
場所:MOVIXさいたま

先日の「被爆者の声をうけつぐ映画祭」で武蔵大学の学生が「いま花岡事件を考える〜映像・朗読による発表〜」と云う発表を行った。その発表を聞くことはできなかったけれど「花岡事件」って何だろうとWikipediaを見てみた。「花岡事件」とは1945年6月30日に中国から秋田県北秋田郡花岡町(現・大館市)へ強制連行され鹿島組 (現鹿島建設) の花岡出張所に収容されていた 986人の中国人労働者が、過酷な労働や虐待による死者の続出に耐えかね、一斉蜂起、逃亡した事件だった。中国人や朝鮮人が日本へ強制連行されたことは知っていたけれど、終戦間際にそんな事件が起きていたとは、まあ、日本としてはあまり大っぴらにしたくもない事件だろうから、まったく知らなかった。

日本の70年ほど前の事件でさえ知らないのに、アメリカのオクラホマ州オーセージ郡で1920年代に起きたオセージ族の連続殺人事件についてはもちろん知るわけがなかった。マーティン・スコセッシの『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』はその連続殺人事件を追った映画だった。

どんな事件でもその時代を反映しているので興味深いものになるのなのだけれど、そこに自分が持っていた勝手な認識を覆す発見があるとさらに面白いものになる。アメリカの先住民については西部劇のイメージが強いので、白人から住んでいた土地を追われて、最終的には一定の居住地に押し込められてしまったと云う歴史認識だった。でも、この映画ではじめて、自身の土地で発見された石油の利権を裁判で勝ち取ったオセージ族を知った。その利権によって白人よりも豪勢な暮らしをしていたインディアンがいたなんて驚きだった。

この映画の原作はデヴィッド・グランによる「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」。丹念に記録を調べて、膨大な証言をもとに書かれた小説らしい。最終的にオセージ族は、石油の利権を略奪しようとする白人によって悲惨な運命を辿ってしまう。これもひとつのアメリカの黒歴史になるんだとおもう。

スコセッシはその長い小説(日本語訳で528ページ)をうまく3時間26分にまとめていた。あまり頭の良くないアーネスト・バークハートを演じるレオナルド・ディカプリオは素晴らしいし、彼と結婚するオセージ族のモーリー・バークハートを演じるリリー・グラッドストーンも素晴らしかった。グラッドストーンは先住民のブラックフィートとニミプーの血を引いているらしい。

これはデヴィッド・グランの「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」を読まないと。

→マーティン・スコセッシ→レオナルド・ディカプリオ→アメリカ/2023→MOVIXさいたま→★★★★

監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:マイケル・ファスベンダー、チャールズ・パーネル、アーリス・ハワード、ソフィー・シャーロット、ガブリエル・ポランコ、ケリー・オマリー、エミリアーノ・ペニルア、サラ・ベイカー、ティルダ・スウィントン
原題:The Killer
制作:アメリカ/2023
URL:https://www.netflix.com/jp/title/80234448
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町

デヴィッド・フィンチャーの新作は『Mank/マンク』(2020)に続いてまたNetflixでの制作。最近、U-NEXTと契約するためにNetflixを切ってしまったので、Netflix配信前に必ず行う劇場公開に足を運んだ。

むかし、フレッド・ジンネマン監督の『ジャッカルの日』(1973)を見て、エドワード・フォックスが演じているイギリス人の殺し屋「ジャッカル」の、目的達成のために入念な準備をする仕事ぶりにとても興味津々となった。殺人と云う非人道的な行為のために、手当たり次第に銃を撃ちまくるようなおおざっぱな仕事ではなくて、標的の人物をとことんまで調べ上げた上での緻密な計画立案をする姿に、殺し屋になりたい! とまでおもわせるようなスマートな人物像をそこに見出してしまった。そこからさらにフレデリック・フォーサイスの原作まで読んでしまって、映像化されなかった微に入り細に入りの計画全貌を知るにいたっては、ますます「ジャッカル」に憧れるようになってしまった。

この映画に出てくるマイケル・ファスベンダーが演じている「ザ・キラー」も「ジャッカル」タイプの殺し屋だった。彼の口ぐせが「Stick to your plan(計画をしっかり守れ)」であることから、やはり目的遂行のためには計画がすべてであるような考え方を持っている人物だっただからその計画に至るまでの思考過程がもっと知りたかった。「ザ・キラー」の最初の計画が失敗して、自分の命が狙われるようになって、そこから反転攻勢になるストーリーの流れでは、映画の尺として計画まで描くことは時間的に無理なのが惜しい。Netflixでドラマ化してくれないかなあ。そうしたらもう一度Netflixと契約します。

あ、それから、デヴィッド・フィンチャーと云えば、オープニングタイトルのデザイン。今回もかっこよかった。でも、誰が担当したのか調べてもわからなかった。

→デヴィッド・フィンチャー→マイケル・ファスベンダー→アメリカ/2023→ヒューマントラストシネマ有楽町→★★★☆

監督:岩井俊二
出演:アイナ・ジ・エンド、松村北斗(SixTONES)、黒木華、広瀬すず、村上虹郎、松浦祐也、笠原秀幸、粗品(霜降り明星)、矢山花、七尾旅人、ロバート・キャンベル、大塚愛、安藤裕子、鈴木慶一、水越けいこ、江口洋介、吉瀬美智子、樋口真嗣、奥菜恵、浅田美代子、石井竜也、豊原功補、松本まりか、北村有起哉
制作:Kyrie Film Band/2023
URL:https://kyrie-movie.com
場所:109シネマズ菖蒲

岩井俊二の新作は元BiSHのアイナ・ジ・エンドを主役にした音楽映画(と云うことを前面に押し出している)。

BiSHの名前は聞いたことがあったけれど、そのメンバーの名前まではまったく知らなかった。だからはじめてこの映画でアイナ・ジ・エンドの歌を聞いた。その歌声はまるで泣きじゃくっているような強烈さがあって、たしかに、なかなかいい感じ。

でもストーリーは、まるで『花とアリス』のような女ふたりの不思議な友情の話しのようでもあるし、『リップヴァンウィンクルの花嫁』のような女性の彷徨の話しのようでもあるし、今までの岩井俊二ワールドの域から出ることは寸分もなかった。男が女の妊娠させてしまって、その扱いに苦慮するあたりは、あまりにも使い古されたシチュエーションすぎるので、そこに東日本大震災を絡めたりするあざとさも相まって、ちょっと鼻白んでしまった。まあ、だから、アイナ・ジ・エンドの歌声を聞く音楽映画であることを前面に出すことは正解だった。

あざとさで云えば、我々の世代にとってのオフコースの「さよなら」と久保田早紀の「異邦人」は、魂の曲と云えばいいのか、郷愁を感じさせる曲と云えばいいのか、曲が流れてくればおもわず口ずさんでしまうし、云いようもないおもいにもかられるし、それをアイナ・ジ・エンドの吐き出すような歌声で聞かされるとちょっと心揺さぶられてしまった。音楽のちからは偉大だ。

→岩井俊二→アイナ・ジ・エンド→Kyrie Film Band/2023→109シネマズ菖蒲→★★★☆

監督:リチャード・リンクレイター
出演:ケイト・ブランシェット、ビリー・クラダップ、エマ・ネルソン、クリステン・ウィグ、ジュディ・グリア、ローレンス・フィッシュバーン
原題:Where’d You Go, Bernadette
制作:アメリカ/2019
URL:https://longride.jp/bernadette/
場所:MOVIXさいたま

2019年にリチャード・リンクレイターが撮った映画がやっと日本で公開された。邦題は『バーナデット ママは行方不明』。なにやらドタバタコメディを連想させるタイトルだけれど、コメディの要素はちょっとだけ、中心となるのは創造的な面で特異な才能を持つ人物が平凡な生活を余儀なくされたときに見せる苦悩の姿だった。

ケイト・ブランシェットが演じるバーナデット・フォックスはかつて、半径20マイル以内で調達した材料だけを使って建てた「20マイルの家」や使い捨ての遠近両用メガネを数多く使って建てた「メガネ邸(Beeber Bifocal House)」など、創造性のある個性的な建築家として注目を集めていたが、彼女が建てた「20マイルの家」に関してイギリスのテレビ番組ホスト、ナイジェル・ミルズ・マリーとの間に起こったトラブルを機に建築設計の仕事を辞めてしまう。そして、夫の仕事の都合でロサンゼルスからシアトルに移り住んで娘一人を育てる専業主婦になっている。

でも、クリエイティブな才能を持つ人物が平凡な人たちとの近所付き合いなどが出来るはずもなく、隣に住む主婦(“毒女”と呼んでいる!)と騒動を起こしてばかりいる。もちろんママ友の輪に加わることもなく、唯一のよりどころは娘のビー(エマ・ネルソン)だけだった。その娘が親元から離れて寄宿学校へ行くことになって、その前に家族三人で南極旅行へ行きたいと云い出す。広場恐怖症(アゴラフォビア)を持つバーナデットは、娘と旅行へ行きたい気持ちもあるのだけれど、揺れる狭い船に長時間乗せられる恐怖もあって、行くべきか、理由をつけて断るべきか葛藤する。

トッド・フィールド監督の『TAR/ター』(2022)で天才指揮者「TAR」を演じたケイト・ブランシェットは、その前にもまた違った角度からこの天才を演じていた。こちらの天才は精神症から来る不安を解消するために薬に依存してしまっているのだけれど、その不安定さが哀れには見えなくて、どちらかと云えばちょっと滑稽に見えるところがとても愛すべき人間になっていた。芸術家肌を持つ人間が、その創造性を発揮する場を失ってしまったらどうなるのか? ケイト・ブランシェットはそんな難しいキャラクターを巧く演じている。

ただ、ラストに向かっての南極行きは、バーナデットが自分を取り戻して行く過程を描く重要な部分なのに、あまりにも時間が足りなくてドタバタしてしまっているところは惜しかった。最近の映画は、長い! と文句ばかり云ってるけれど、いやここはもっと長くて良いでしょう。

エンドクレジットの背景に映る、バーナデットが設計したとおもわせる南極基地は、AECOMと云うところが設計、建築したイギリスのハレー VI 研究ステーションらしい。あまりにもカッコイイので、バーナデット作と見せるのはうってつけの建造物だ。

→リチャード・リンクレイター→ケイト・ブランシェット→アメリカ/2019→MOVIXさいたま→★★★☆

監督:川瀬美香
出演:イザベル・タウンゼンド、谷口稜曄、ピーター・タウンゼンド
原題:The Postman from Nagasaki
制作:The Postman from Nagasaki Film Partners/2021
URL:https://longride.jp/nagasaki-postman/
場所:武蔵大学50周年記念ホール

「被爆者の声をうけつぐ映画祭」も17回目になって、今回は川瀬美香監督の『長崎の郵便配達』を観に行った。

いつものごとく、なんの予備知識も入れずに、タイトルに「長崎」が付いているという手がかりだけで映画を観はじめた。だから、イギリス人女性イザベル・タウンゼンドのモノローグによって映画がはじまったことに不思議な感覚を覚えた。でもすぐに、彼女の父親ピーター・タウンゼンドが長崎で被ばくした男性・谷口稜曄(すみてる)さんを取材して書いたノンフィクション小説「THE POSTMAN OF NAGASAKI」について話しはじめたことで、この映画が「被爆者の声をうけつぐ映画祭」で上映されることに納得した。

谷口稜曄さんの名前は、彼が亡くなったときのニュースではじめて知った。原爆によって背中に大火傷を負い、その患部の写真を見せながら核兵器廃絶のための活動を続けた人物だった。

日本人でさえその程度の知識しかないわけなのに、イギリスの空軍大佐であったピーター・タウンゼンドがわざわざ長崎にまで出向いて、谷口稜曄さんの原爆体験を取材して本にしていることにびっくりした。そしてその本が日本では何の話題にもならずに、ましてや翻訳などもされずに(後からの注記:ナガサキの郵便配達制作プロジェクトと云うところから2018年に日本語版が出てた!)、ひそかに存在しているだけの書物であることにますます驚いた。ピーター・タウンゼンド空軍大佐はマーガレット王女と浮き名を流し、映画『ローマの休日』のモデルにもなったとも云われる(どうやらそれは眉唾ものらしい)人物で、彼が被爆者のことについて本を書いたのならそれなりの話題性もあっただろうに。

娘が父親の偉業を再認識して行く映像と共に、この映画を観る日本人も一緒にピーター・タウンゼンドと云うイギリス人が被爆者と交流を深めた事実を認識することが共有できてとても良かった。人知れず存在する偉業を明らかにしてくれることがドキュメンタリー映画の一つの醍醐味だとおもう。

→川瀬美香→イザベル・タウンゼンド→The Postman from Nagasaki Film Partners/2021→武蔵大学50周年記念ホール→★★★☆

監督:森達也
出演:井浦新、田中麗奈、永山瑛太、柄本明、ピエール瀧、水道橋博士、東出昌大、コムアイ、松浦祐也、木竜麻生、向里祐香、杉田雷麟、カトウシンスケ、碧木愛莉、豊原功補
制作:「福田村事件」プロジェクト/2023
URL:https://www.fukudamura1923.jp
場所:イオンシネマ春日部

1923年(大正12年)9月1日に起きた関東大震災後の混乱の中、朝鮮人が凶悪犯罪や暴動を行っているとの噂が広まり、民衆・警察・軍によって朝鮮人、またそれと間違われた中国人、日本人などの多くが殺された。その中の、日本人が朝鮮人と間違われて殺された事件の一つが福田村事件だった。

福田村事件とは、1923年(大正12年)9月6日、香川県からの薬の行商団15名が千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)で地元の福田村および田中村(現柏市)の自警団によって、おまえたちは朝鮮人じゃないか? と疑惑をかけられ、その中の9名が殺害された事件だった。

デマによって一般の人たちが疑心暗鬼になって、そこに集団心理も働いて、普段ならば考えられないおかしな行動を起こす人が多く現れてしまう現象は、関東大震災が起きた1923年でも、福島第一原子力発電所事故が起きた2011年でもまったく同じだった。それはさらに情報が無駄に拡散する現在でもますます起きやすくなっていることをおもうと、人間の心理的な面をアップデートさせるにはどうしたら良いんだろうかと考えてしまう。クローネンバーグが『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』で描いていた苦痛を感じない人類進化以外にあり得ないのかなあ。

フェイクニュースやデマが簡単にSNSで広がる世界になったいま、森達也が監督した『福田村事件』で、デマで突き動かされていまう人間のどうしようもない生態を見るのは意味のあることだとはおもうのだけれど、この映画では同時に人間の欲情の生態をも見せている。それも主に女性の欲求不満から来るとおもわれる生態を。このふたつを同時見せる意味は何だったんだろう。そこがさっぱりわからなかった。

久しぶりに福田村に戻ってくる澤田智一(井浦新)と澤田静子(田中麗奈)夫婦がこの福田村事件の目撃者であるような構成も中途半端だった。だったら、完全なドキュメンタリードラマに徹しても良かったのに。

→森達也→井浦新→「福田村事件」プロジェクト/2023→イオンシネマ春日部→★★★

監督:ウェス・アンダーソン
出演:ジェイソン・シュワルツマン、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、ジェフリー・ライト、ティルダ・スウィントン、ブライアン・クランストン、エドワード・ノートン、エイドリアン・ブロディ、リーヴ・シュレイバー、ホープ・デイヴィス、スティーヴン・パーク、ルパート・フレンド、マヤ・ホーク、スティーヴ・カレル、マット・ディロン、ホン・チャウ、ウィレム・デフォー、マーゴット・ロビー、ジェイク・ライアン、グレース・エドワーズ、ジェフ・ゴールドブラム
原題:Asteroid City
制作:アメリカ/2022
URL:https://asteroidcity-movie.com/
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

ウェス・アンダーソンの映画がやって来るとつい観に行ってしまうのに、それでもやっぱりウェス・アンダーソンの映画は訳がわからない。その訳のわからなさを面白がるために観に行くのが正解だとはおもうのだけれど、映画を観終わるといつもモヤモヤして映画館を去ることになる。

今回の『アステロイド・シティ』は、1950年代のアンソロジーテレビ番組が伝説の劇作家のコンラッド・アープ(エドワード・ノートン)を紹介するかたちで彼の劇を映画として見せていく。まず、そこが訳がわからない。演劇と云う閉ざされた「場」で見せる劇を映画へと置き換えたときに、カメラの横移動で「場」を見せていく面白さ、なのかもしれないけれど、うーん、そこが面白いような、面白くないような。

劇の舞台はアメリカ南西部に位置する砂漠の街アステロイド・シティ。そこで開かれるジュニアスターゲイザー賞(若き優秀な科学者を発掘する賞みたいなもの?)に招待された子供と親たち。それぞれの家族の事情が交錯する面白さ。うーん、面白いような、面白くないような。いつもながらキャストが豪華なのは楽しい。

アステロイド・シティは隕石が落下してできた巨大なクレーターが最大の観光名所。それが関係してなのか、ジュニアスターゲイザー賞の授賞式真っ最中に飛来してくるエイリアンの唐突さ。エリア51を彷彿とするような、ジョーダン・ピール『NOPE/ノープ』をおもい出させるような。うーん、面白いような、面白くないような。いや、エイリアンがジェフ・ゴールドブラムなのは面白い!

全体的に1950年代のテレビ番組が劇作家を紹介する体を取っているので、アメリカの古き良き50年代テーストになっているところがとてもお洒落。うーん、いつもながらウェス・アンダーソンの映画はカッコイイ。

スタイリッシュな映像に幻惑されながら全編を通して楽しめはするけど、やっぱり自分にとって面白いとはおもえないところがいつものウェス・アンダーソンの映画。でもまた次作を観に行ってしまうのだろうなあ。

→ウェス・アンダーソン→ジェイソン・シュワルツマン→アメリカ/2022→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★

監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン、レア・セドゥ、クリステン・スチュワート、スコット・スピードマン、ドン・マッケラー、ヴェルケット・ブンゲ
原題:Crimes of the Future
制作:カナダ、ギリシャ/2022
URL:https://cotfmovie.com
場所:MOVIXさいたま

デヴィッド・クローネンバーグの映画と云えば、彼が注目され始めた『スキャナーズ』(1981)『ヴィデオドローム』(1983)や興行的に成功した『ザ・フライ』(1986)のような、アンダーグランドに蠢く得体のしれないものに支配されはじめる世界を描くことが多くて、バイオメカニズム的な、ぐちゃぐちゃっとした、尋常な人ならば生理的に受け付けることがとても難しい訳の分からない物体を登場させて、我々を不安に落とし入れることを得意とするスタイルを持っていた。それはずっと『危険なメソッド』(2011)まで続いていたとおもう。

ところが『コズモポリス』(2012)『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(2014)と、やたらと洗練された映像の映画を撮るようになってしまって、ああ、クローネンバーグも時代に合わせて変貌してしまったんだなあ、と少し残念に感じていた。

そして、ついに映画も撮らなくなって(撮れなくなって?)、終わりなのかな、とはおもっていた。

そこに突然、8年ぶりに『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』がやって来た。どんなもんだろう? と観てみると、これ、これ! これこそがクローネンバーグの映画だ! とおもわせる、ぐちゃぐちゃ、ぬるぬる、めりめり、の映画が復活していた。やっぱりこれじゃなくっちゃ、と喜ぶと同時に、これはいったい何を意味するんだろうと考えてしまった。内容も、パンデミックを経験した現実世界に呼応するようなストーリーで、宮崎駿の『君たちはどう生きるか』と同じクローネンバーグの遺書のような引退作品になるんじゃないかと勝手に想像してしまった。

と変な勘ぐりをしていたら、次回作『The Shrouds』が発表されていた。

https://eiga.com/news/20220531/15/

「妻の死に喪失感を抱える革新的な実業家カーシュ(バンサン・カッセル)が、埋葬された死体と繋がることのできるデバイスを開発するというストーリー」だそうだ。まだまだ、クローネンバーグの、ぐちゃぐちゃ、ぬるぬる、めりめり、は続く。

→デヴィッド・クローネンバーグ→ヴィゴ・モーテンセン→カナダ、ギリシャ/2022→MOVIXさいたま→★★★☆