監督:塚原あゆ子
出演:松たか子、松村北斗、吉岡里帆、森七菜、YOU、竹原ピストル、松田大輔、和田雅成、鈴木慶一、神野三鈴、リリー・フランキー
制作:「1ST KISS」製作委員会/2025
URL:https://1stkiss-movie.toho.co.jp
場所:MOVIXさいたま

以前にフジテレビのドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」を面白いよと人に勧められて見て、いや、これは確かに面白いや、と感心したことがあった。脚本は坂元裕二。名前はもちろん知っていたけれど、テレビドラマをあまり見ないのでそんなに注目することはなかった。そのあとに、是枝裕和監督、坂元裕二脚本の『怪物』が第76回カンヌ国際映画祭の脚本賞を獲ったことによって話題になったので期待して観に行った。ところが今度は、期待しすぎたのかあまり面白いと感じることはなかった。

そして今度は塚原あゆ子監督、坂元裕二脚本の『ファーストキス 1ST KISS』を期待しないで観てみた。ゆるりと観るぶんには、とてもおもしろい映画だった。でも、毎度のことながらタイムワープものの映画は、あまりにもやりたい放題の設定が出来てしまうので、それは無いんじゃない? と感じることが多い。

『ファーストキス 1ST KISS』は、松たか子が演じる硯(すずり)カンナが、駅のホームから落ちたベビーカーを救ったために電車に轢かれて死んでしまう松村北斗が演じる夫の硯駈(すずりかける)を助けようとして、二人が出会う時期に何度もタイムワープをして、二人が付き合わなければ駈も死ぬことは無いだろうと、失敗を繰り返しながら努力を重ねる畳み掛けが、まるでプレストン・スタージェスの『殺人幻想曲』(1948)のようなコメディ調でとてもおもしろかった。のだけれど、コメディ映画ではないので、あまりにも自由に何度もタイムワープが出来てしまう設定が、それは無いんじゃない? と見えてしまうのも確かだった。笑わせて、笑わせて、最後のオチでさらに笑わせる映画なら全然良かったんだけれど。

「大豆田とわ子と三人の元夫」や三谷幸喜の『THE 有頂天ホテル』の松たか子は、コメディエンヌ的な演技が素晴らしかった。今回の『ファーストキス 1ST KISS』も大勢の犬に絡まれて必死で抵抗するシーンなんてめちゃくちゃ笑えて最高だった。もう、この映画、コメディ映画にすれば良かったんじゃないのかなあ。

→塚原あゆ子→松たか子→「1ST KISS」製作委員会/2025→MOVIXさいたま→★★★☆

監督:ジュリアス・オナー
出演:アンソニー・マッキー、ダニー・ラミレス、シラ・ハース、カール・ランブリー、ゾシャ・ロークモア、ジャンカルロ・エスポジート、リヴ・タイラー、ティム・ブレイク・ネルソン、平岳大、ハリソン・フォード
原題:Captain America: Brave New World
制作:アメリカ/2024
URL:https://marvel.disney.co.jp/movie/captain-america-bnw
場所:イオンシネマ大宮

『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)のラストで、過去に遡って6つの石(インフィニティ・ストーン)を元の場所に戻したあとに自分の人生を時間軸通りに生きて年老いてしまったスティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)が、キャプテン・アメリカの盾をファルコンのサム・ウィルソン(アンソニー・マッキー)に託すシーンがあった。その流れから今回の『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』を観たとしても何の違和感もないのだけれど、どうやらその間のエピソードとして、Disney+で配信されている「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」を見れば、キャプテン・アメリカを受け継いだサム・ウィルソンの苦悩やバッキー・バーンズ(ウィンター・ソルジャー)との共闘のことなどを細かく知ることができて、今回の映画をより深く楽しめたのかもしれなかった。またまたここでDisney+と契約するか問題が浮上! 1年目の年会費はスタンダードプランで6,600円かあ。

それから今回の映画にハリソン・フォードが演じているアメリカ大統領のサディアス・ロスが出てくる。でも、これって何だっけ? になってしまった。映画を観終わったあとにネットを調べると、ああ、ウィリアム・ハートが演じて、主に『インクレディブル・ハルク』で重要となっていた人物だったことをおもいだした。そのあとに『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』や『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』にも出ていたのだけれど、そんなに重要な役回りではなかったのですっかり忘れていた。それにウィリアム・ハートが亡くなってハリソン・フォードが代わりに演じているのでさらに、何だっけ? になってしまった。

もう一つ、この映画では日本が重要な役割を負っている。日本の尾崎首相役は平岳大で、父は平幹二朗、母は佐久間良子。日本のドラマにも数多く出演していたのを見ていたけれど、2020年にハワイに移住して国外での活動をメインとしているらしい。

と、いろいろと付加情報をあとから調べるのもMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の魅力だとはおもう。アベンジャーズは再結成されるのかなあ。このあと『サンダーボルツ*』も公開されるし、まだまだMCUは続く。

→ジュリアス・オナー→アンソニー・マッキー→アメリカ/2024→イオンシネマ大宮→★★★☆

監督:ティム・フェールバウム
出演:ピーター・サースガード、ジョン・マガロ、ベン・チャップリン、レオニー・ベネシュ、ジヌディーヌ・スアレム、ジョージナ・リッチ、コーリイ・ジョンソン、マーカス・ラザフォード、ベンジャミン・ウォーカー、ジム・マッケイ(当時のテレビ番組司会者)
原題:September 5
制作:ドイツ、アメリカ/2024
URL:https://september5movie.jp
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

1972年に開催されたミュンヘンオリンピックについては、日本の男子バレーや体操団体、競泳の田口信教や青木まゆみが金メダルを獲ったことをよく覚えている。でも同時にテロ事件が発生してイスラエルの選手やコーチ、審判員が11人も殺されたことはまったく覚えていない。覚えていないと云うか、小学生だったので何が起きたのか理解できなかったのかもしれない。

そのミュンヘンオリンピック開催中の1972年9月5日に起きたパレスチナ武装組織「黒い九月」によるイスラエル選手団の選手村襲撃事件を、オリンピック中継を担当していたアメリカABCテレビのスポーツ担当クルーがその主導権を報道局に渡さずに、自分たちで生中継を行うことになった一連の経緯を描いた映画がティム・フェールバウム監督の『セプテンバー5』だった。

実際に起きた事件をドキュメンタリー・タッチで描く映画が面白いのは、誰もが知っている結末に進んでいく時系列の過程で、そのような結末に至らないとおもわされるような出来事が起きているのに、細かな事象の積み重ねで結局は誰もが知っている結末に帰結してしまう背景をつぶさに見ることができることだからだとおもう。あとから検証された事実も的確に映像化されて、当時のテレビ映像も交えてテンポよく見せられると、とてもノリ良く映画を観ることができてしまう。

同時に報道よりは下に見られているスポーツ番組のクルーの矜持なども描かれていて、今までスポーツ中継しか撮ったことのなかった人間たちが大きな事件を全世界に責任を持って報道しなければならない重圧もこの映画の緊迫感を盛り上げていた。

脚本は監督のティム・フェールバウムの他にモーリッツ・ビンダーとアレックス・デヴィッド。素晴らしい脚本だった。

→ティム・フェールバウム→ピーター・サースガード→ドイツ、アメリカ/2024→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★★

監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ティルダ・スウィントン、ジュリアン・ムーア、ジョン・タトゥーロ、アレックス・ホイ・アンデルセン、ヴィクトリア・ルエンゴ、フアン・ディエゴ・ボット、アレッサンドロ・ニヴォラ
原題:The Room Next Door
制作:スペイン、アメリカ/2024
URL:https://warnerbros.co.jp/movies/detail.php?title_id=59643&c=1
場所:MOVIXさいたま

ペドロ・アルモドバルの映画をあまり観なくなっってしまったのだけれど、ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアの共演と云うことで久しぶりに食指が動いた。

相変わらずに情報を仕入れずに観に行ったら、映画のテーマは「安楽死」だった。

戦地を取材する記者のマーサ(ティルダ・スウィントン)は末期がんを宣告される。ネットで違法の薬を手に入れて「安楽死」することを決意するが、それを決行するまでのあいだ誰か知人がそばに居てくれることを願う。でも親しい友人たちには、その行為に恐れを抱かれてすべて断られてしまう。そこでむかし雑誌社で一緒に働いたことがあって仲の良かった、今は作家のイングリッド(ジュリアン・ムーア)に連絡を取る。驚くイングリッドだけれど、最近自分の書いた小説のテーマが「死」でもあることから承諾する。

映画のタイトル「The Room Next Door」は、「安楽死」を決行するマーサを見守るために用意されたイングリッドの部屋のことを指している。いや、逆か? イングリッドから見たマーサの部屋のことか? 実際には階下の部屋だったので「Next Door」では無いのだけれど。

「安楽死」を扱っている映画と聞けば重くずっしりとしたものを想像してしまう。でも、ペドロ・アルモドバルの映画なので、病気をかかえて痩せ衰えたマーサをしっかりとスタイリッシュなアート作品の数々が包みこんでいて、そこに死にゆくものへの悲壮感はまったくなかった。

「安楽死」を選択する理由もしっかりとしていた。イングリッドから今までで一番印象に残っと戦地はどこ? と聞かれて「ボスニア」と即答したマーサ。隣同士が敵味方に分かれて殺し合ったボスニア紛争のような地獄こそが、マーサにとって生きている実感が湧く場所だった。そのような地獄へ戻れないのなら、もう終止符を打たざるを得なかった。

ジョン・ヒューストン監督の遺作『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』(1987、原作はジェイムズ・ジョイスの短編「死者たち」)の内容はすっかり忘れていたのだけれど、そのラストシーンだけは覚えていた。昔のアイルランドのダブリンにひらひらと舞い落ちる雪の美しさ。それがこの映画のラストに引用されていて、マーサが亡くなったあとに降る季節外れのピンクの雪とオーヴァーラップされていた。その雪はまるでマーサの魂のようで、イングリッドの上にも、彼女の娘(ティルダ・スウィントンの2役)にも厳かに降り注ぐ美しいラストシーンだった。

→ペドロ・アルモドバル→ティルダ・スウィントン→スペイン、アメリカ/2024→MOVIXさいたま→★★★★