監督:ティム・バートン
出演:マイケル・キートン、ウィノナ・ライダー、キャサリン・オハラ、ジャスティン・セロー、モニカ・ベルッチ、ジェナ・オルテガ、アーサー・コンティ、サンティアゴ・カブレラ、バーン・ゴーマン、ダニー・デヴィート、ウィレム・デフォー
原題:Beetlejuice Beetlejuice
制作:アメリカ/2024
URL:https://wwws.warnerbros.co.jp/beetlejuice/index.html
場所:早稲田松竹

昨年見逃してしまったティム・バートンの『ビートルジュース ビートルジュース』を早稲田松竹で観る。むかしの名画座でいま残っているのは早稲田松竹くらいじゃないのかなあ。池袋の文芸坐は建物がまるっきり変わってしまったのがちょっと残念。他には自分としてはあまり馴染みのなかった下高井戸東映→下高井戸京王が下高井戸シネマとして存続しているくらいか。

そんな名画座の名残りのある早稲田松竹で、1988年に作られた『ビートルジュース』の続編を観るのはまさにぴったりだった。『ビートルジュース』に出てくるような特殊メイクアップが多様され始めたのが1980年代で、リック・ベイカーやロブ・ボッティンが作る特殊メイクアップの出てくる映画を名画座でよく観たものだった。

最初の『ビートルジュース』を観たときに、ティム・バートンの細部に見せるオタク趣味は好きだけれど、映画全体としてはあまりおもしろくなかった、と云うのが個人的な印象だったような気がする。でも今回の『ビートルジュース ビートルジュース』は、しっかりと前作のテイストを引き継いでいる映画にもかかわらず、細部から全体まで何もかもとても楽しく観てしまった。おそらくそれは前作の『ビートルジュース』よりも、より明確なゴシック・ホラーのイメージを全面的に打ち出したからなんだろうとおもう。ビートルジュースの元妻ドロレス(モニカ・ベルッチ)のビジュアルはまさしくゴシック・ホラーだ。

早稲田松竹ではそれを意識して、マリオ・バーヴァの『血ぬられた墓標』や『呪いの館』をレイトショーで用意してあった。さすがにレイトショーへ行くことはできなかったけれど、Amazon Primeにあるので観てみたい気がする。評判ばかり聞いているだけでまだマリオ・バーヴァの映画を一本も見たことがない。

→ティム・バートン→マイケル・キートン→アメリカ/2024→早稲田松竹→★★★☆

監督:ナナ・ジョルジャゼ
出演:ラティ・エラゼ、タマル・タバタゼ、ナティア・ニコライシュビリ、アナ・クルトゥバゼ、ギオルギ・ツァガレリ、ブバ・ジョルジャゼ、タマル・スヒルトラゼ、タマル・ブズィアバ、マイケル・レスリー・チャールトン
原題:პეპლების იძულებითი მიგრაცია/Forced Migration of Butterflies
制作:ジョージア/2023
URL:https://moviola.jp/butterfly/#yokoku
場所:新宿武蔵野館

昨年の10月26日に実施されたジョージア議会選挙は、ロシアに融和的な姿勢を示す政党「ジョージアの夢」が54%の得票率で過半数の議席を獲得した。しかし野党は選挙に不正があったとして、国会議員らの間接選挙で選ばれた「ジョージアの夢」が支持するミハイル・カベラシビリ大統領を認めず、親欧米派のズラビシビリ大統領は退任を拒否する混乱が続いている。

ロシア、アジア、中近東、ヨーロッパの十字路に位置するジョージアは、歴史的に様々な国の脅威にさらされてきた。近代では長らくロシア帝国、そしてその後のソ連に支配を受けてきたことから、そして2008年に起きた南オセチア紛争などから、現在のプーチンのロシアに反発する人が多いとおもっていた。でも、議会選挙にロシアが暗躍したとしても、旧共産圏で「ソ連のときのほうが良かった」みたいな郷愁が生まれているように、欧米寄りに進むことへの不信感と云うものが芽生えてきているのも確かのような気もする。

そのようなジョージアの人々の暮らしって、どんなものなだろう? を知る良い機会だとおもってナナ・ジョルジャゼ監督の『蝶の渡り』を観てみた。

ストーリーは、半地下にある画家コスタの家に集まる芸術仲間たちの人間模様だった。みんな才能があってもうまくいかず、生活は困窮するばかりの人びと。そこにコスタのかつての恋人ニナが戻ってくる。再会を喜ぶ二人はコスタの家で暮らし始めるんだろうな、とおもいきや、ニナはコスタの絵を買いに来たアメリカ人の美術コレクター、スティーブにくっついてさらりとアメリカに渡ってしまう。

映画の題名「蝶の渡り」は、コスタの書く絵から来ている。風に乗ってコーカサスの山々へ移動する蝶を描いている。その説明を聞いたアメリカ人の美術コレクター、スティーブは、逆の風が吹いたらどうするんだ? の質問をコスタに投げかける。ああ、「蝶の渡り」ってニナのことだけではなくて、ジョージアの人びと全般のことも指しているのか、と気がついた。逆の風が吹いてもそちらへ渡ってしまうのがジョージア人なのか? それは「日和見」のようなものではなくて、もっと自然に、蝶のようにふらりと渡ってしまうんじゃないのかと。

半地下にある画家コスタの家はいつも宴会のように賑やかだ。みんなそれぞれ悩みがあるのに、過去の辛い体験もあるのに、楽しそうにしている。今度はどうするんだろう? ロシアに渡るのか、EUへ渡るのか。

→ナナ・ジョルジャゼ→ラティ・エラゼ→ジョージア/2023→新宿武蔵野館→★★★

監督:吉田大八
出演:長塚京三、瀧内公美、河合優実、黒沢あすか、中島歩、カトウシンスケ、高畑遊、二瓶鮫一、髙橋洋、唯野未歩子、戸田昌宏、松永大輔、松尾諭、松尾貴史
制作:ギークピクチュアズ/2023
URL:https://happinet-phantom.com/teki/
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

筒井康隆の小説を『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八が映画化。

筒井康隆の小説を原作とした映画化作品は『時をかける少女』『ジャズ大名』『怖がる人々』『パプリカ』と有名どころはそれなりに見たことがあるのだけれど、筒井康隆の小説を一つも読んだことがないので、このバラエティ豊かな様々なジャンルの映画群からは筒井康隆の小説のイメージを決定づけるものはなにもなかった。もしかすると筒井康隆と云う小説家はつかみどころのないところが魅力的で人気があるのかもしれない。

今回の『敵』も、今までの彼の映画化作品とはまた違ったジャンルの映画だった。

この映画の主人公はフランス近代演劇史を専門とする元大学教授。妻・信子に先立たれ、都内の山の手にある実家の古民家で一人慎ましく暮らしている。講演や執筆で僅かな収入を得ながら、預貯金が後何年持つのか、それが尽きたら終わりを迎えようと計算しながら、来るべき日に向かっておだやかに暮らしている。老いさらばえて終わりの見えない醜態を晒すよりも、しっかりと終わりを決めて、それまでの日々の生活を充実させようと考えている。

だがそんなある日、パソコンの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくる。

「敵」ってなんだろう? がこの映画の大きなポイントになる。それは監督の吉田大八もコメントしている。この映画に出てくる元大学教授の夢の中に、「敵」とはメタファーだ、と云うシーンがあるので、それは単純な外から来る「敵」ではなくて、おそらくは元大学教授に迫りくる「老い」から来る「敵」としか考えられなかった。

映画は後半に向けて、現実とも夢とも判断がつかないシーンが増えていく。「老い」には「認知」に問題が生じることも含まれるので、そこを象徴したシーンに見えなくもない。元大学教授も、自分なりの理想的な老後を計画していても、そこまで考えが及んでいなかった「敵」によって大きく生活が乱されてしまう。老いると云うことは、どんなに抗っても、醜態を晒すことなんだろうとおもう。

とても映像化に向いている作品に見えるけれど、筒井康隆のコメントに「すべてにわたり映像化不可能と思っていたものを、すべてにわたり映像化を実現していただけた。」とあった。え? 小説ではどんな文章表現をしているんだろう?

→吉田大八→長塚京三→ギークピクチュアズ/2023→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆

監督:藤野知明
出演:藤野雅子、藤野知明
制作:動画工房ぞうしま/2024
URL:https://dosureba.com
場所:池袋シネマ・ロサ

一昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で話題になった藤野知明監督の『どうすればよかったか?』が劇場公開されることになって、さっそく観に行こうとおもったら、なんとポレポレ東中野では連日超満員。そんなに話題になっていたのか! とびっくり。なかなか観に行くことができずにいたけれど、これほどの人気なので上映館も増えて、池袋シネマ・ロサではゆったりと観ることができた。

藤野知明監督の姉は両親の影響から医師を志して医学部に進学する。ところがある日、突然、事実とはおもえないことを叫び出し、統合失調症が疑われることになった。しかし医師で研究者でもある父と母はそれを認めず、精神科の受診から姉を遠ざけてしまった。その判断に疑問を感じた弟の藤野知明監督は、両親に説得を試みるも解決には至らず、わだかまりを抱えながら実家を離れてしまった。その18年後、このままでは何も残らないと考えた藤野知明監督は、帰省ごとに家族の姿を記録しはじめる。

統合失調症がどういうものなのか、電子書籍関係でほんのちょっとだけSNSで知り合った語研の高島利行さんがご自身のことを書かれていたnoteを読んで、少しは理解しているつもりでいる。そのnoteはまとめられて「シネシネナンデダ日記 統合失調症の娘と生きる」と云う本になっている。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784807421022

昔ならば、家庭内に精神に障害を持つ人がいれば、それを恥ずべきこととしてひた隠しにしていたようおもう。ところが最近では、ブログやSNSなどでオープンにする人が出てきた。高島利行さんの「シネシネナンデダ日記」はそのはしりのような気がする。藤野知明監督のドキュメンタリー映画『どうすればよかったか?』も、オープンにして多くの人と情報を共有しよう、の気概を感じることができる。自分たちがやってきたことは失敗例です、どうすればよかったか? みんなで考えてほしい、と訴えている。

「シネシネナンデダ日記」でも書かれていたように、統合失調症の症状の出た人にぴったりと合う薬を見つけることがとても重要で、それは一律にいかないところが難しいらしい。藤野知明監督の姉もやっと合う薬が処方されて、晩年はある程度は落ち着いているように見えた。それがもうちょっと早く処方されていたら、とおもえなくもない。

どうしたって両親の行いを責めたくはなるのだけれど、彼らが今までの日本社会で、息子がこれからの日本社会だと考えて納得するしかない。

→藤野知明→藤野雅子→動画工房ぞうしま/2024→池袋シネマ・ロサ→★★★★