監督:ジョセフ・コシンスキー
出演:ブラッド・ピット、ダムソン・イドリス、ケリー・コンドン、ハビエル・バルデム、トビアス・メンジーズ、サラ・ナイルズ、キム・ボドゥニア
原題:F1
制作:アメリカ/2025
URL:https://wwws.warnerbros.co.jp/f1-movie/
場所:MOVIXさいたま

1987年から1994年にかけて、日本ではF1ブームが起きていて、とくにアイルトン・セナは大人気だった。なんであんなに人気があったんだろうかと今から振り返ってみると、やっぱりフジテレビのメディア戦略がとても巧かったとおもう。当時仕事で、F!レースを収めたレーザーディスク版についての打ち合わせの末席に座ったことがあったのだけれど、フジテレビの人々はみんな生き生きとしていて、やることなすことすべて上手く行っている感じだった。

あれから時が流れて、フジテレビもご覧の通りになり、日本ではF1を見る人が少なくなってしまった。角田裕毅と云う活きの良い日本人ドライバーがいるのに、あまりにもいろいろなスポーツが見られるようになって、その観戦方法もさまざまになって、F1人気は他のスポーツの人気に押され気味でとても低調だ。

こんな時代に『トップガン マーヴェリック』を撮ったジョセフ・コシンスキー監督の『F1/エフワン』が公開された。日本でF1ブームが起きていた当時のセナやアラン・プロスト、ナイジェル・マンセルらとともに走ったことのある年配のドライバー、ソニー・ヘイズ(ブラッド・ピット)が主人公で、かつてのチームメイト、ルーベン(ハビエル・バルデム)がオーナーを務めるチーム「APXGP」に加わってF1に復帰する姿を描いている。

チーム「APXGP」にはトップドライバーとして、若い優秀なジョシュア・ピアス(ダムソン・イドリス)がいて、映画の基本はこの若いジョシュア・ピアスと年配のソニー・ヘイズとの確執が軸となっていく。おそらくソニー・ヘイズは、この鼻持ちならない生意気なジョシュア・ピアスを若い頃の自分と重ねて見ていて、自分の培ってきた経験を彼のレースの勝利に役立てようとサポートに回ったりする。ところが持ち前のアドレナリン全開を良しとするソニー・ヘイズの型破りな戦法が仇になって、自分自身を追い込んでしまうような結果になってしまう。

さらに映画の途中で、ソニー・ヘイズが若い頃に起こしたレースでの事故の後遺症として、もう一度、身体に大きな衝撃を与えたら、失明するか半身不随になるか死ぬ危険のあることが明かされる。となると、もう、彼のフルスロットルの無謀な走りは、死ぬことさえ厭わない喜びに満ちているいる走りだった。

この映画にはときおりソニー・ヘイズに対して「何のためにはしるのか?」と問うシーンがある。いろいろな意味に捉えることができるけれど、おそらくは単純に、前に相手がいる以上全力をかけて抜きにかかる、ために走るんじゃないのかなあ。そこに生きている実感があったからこそ、死への恐怖はまったく意味しなかった。だから、F1だろうとデイトナ24時間レースだろうと、そして世界一過酷なレースと云われる「バハ1000」のオフロードレースだろうと、どんなレースにも飽くなき挑戦者としてあり続けたんだろうとおもう。

弱いチームに勝利をもたらすには常識通りに挑んでいてはダメで、だからソニー・ヘイズのルールすれすれの常識破りの走りこそが、諸刃の剣ではあるのだが、最後はチームに勝利をもたらす。と云うちょっと出来すぎな展開の映画になってしまったのだけれど、F1映画らしく155分を一気に駆け抜ける疾走感は楽しかった。

→ジョセフ・コシンスキー→ブラッド・ピットアメリカ/2025→MOVIXさいたま→★★★☆