監督:ケヴィン・ラファティ、ジェーン・ローダー、ピアース・ラファティ
出演:
原題:The Atomic Cafe
制作:アメリカ/1982
URL:
場所:被爆者の声をうけつぐ映画祭、武蔵大学

2011年3月11日に起きた東日本大震災の津波によって福島第一原子力発電所の電源がすべて失われた。そのために原子炉内部への注水が不可能となって炉心溶融(メルトダウン)を引き起こし、1・3・4号機は水素爆発を起こした結果、大量の放射性物質が大気中に放出される事態になった。その放射性物質がどちらに向かうのか、その時の風向きがどっちなのか、一般の我々にはメルトダウンも含めてすぐには公表されなかった。だから、東京も危ないんじゃないのか? なんて憶測が乱れ飛び、さらにはアメリカ政府が日本に住むアメリカ人を本国に帰国させる手段を取ったものだから、ますます緊張感が増す事態になったことを今でも覚えている。

このアメリカ政府が取った行動は、ぐずぐずしている日本政府にくらべて迅速さが際立っていた点と、ちょっと反応が過剰すぎるんじゃないのかとおもわせる点の、2つの複雑な感情が入り混じったこともはっきりと覚えている。

ケヴィン・ラファティ、ジェーン・ローダー、ピアース・ラファティの3人による『アトミック・カフェ』は、自分たちが開発した原子爆弾のすさまじい威力を広島、長崎で目の当たりにしたことから、かえってその恐怖に取り憑かれてしまったアメリカ人の歴史を、記録フィルムやニュース映像などをコラージュさせて描いたドキュメンタリーだった。原子爆弾が落とされた時の退避方法を練習する人びとや、核シェルターの有効性を論議する人たちなど、得体の知れない恐怖に対応しようとする人びとの行動が、バックに流れるポップな音楽とともに笑えるし、もの悲しいし、放射能に対する無知さにも恐怖する映画でもあった。

なるほど、福島第一原子力発電所の事故で取ったアメリカ政府の行動は、この『アトミック・カフェ』で描かれる人びとの延長線上にあった。もし『アトミック・カフェ』に追加すべき映像があるとすると、福島第一原子力発電所事故のときのアメリカ政府の用意した専用機にあたふたと乗り込むアメリカ人家族たちなんじゃないかと勝手に想像してしまった。この地球上から核を廃絶しない限り、見えない恐怖に右往左往する哀れな人間の行動が『アトミック・カフェ』に追加されて行くだけだなあ。

→ケヴィン・ラファティ、ジェーン・ローダー、ピアース・ラファティ→→アメリカ/1982→被爆者の声をうけつぐ映画祭、武蔵大学→★★★☆