監督:アシュレイ・セイビン、デイヴィッド・レッドモン
出演:キム・ヨンマン、ショーン・プライス・ウィリアムズ、アレックス・ロス・ペリー、ディエゴ・ムラーカ、エンリコ・ティロッタ、ヴィットリオ・ズカルビ、ジュゼッペ・ジャンマリナーロ
原題:Kim’s Video
制作:アメリカ/2023
URL:https://kims-video.com
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町

一昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で話題となったアシュレイ・セイビン&デイヴィッド・レッドモン監督の『キムズビデオ』がやっと一般公開された。韓国系移民のキム・ヨンマンが1987年にニューヨークで開業した「キムズビデオ」の5万5000本もの貴重なビデオコレクションの数奇な運命を追ったドキュメンタリー。

VHSやDVDの膨大な映画のコレクションを見ると心ときめいてしまう。日本では新宿や渋谷のTSUTAYAの品揃えが有名だった。すでにDVDの時代だったのに、VHSにしかないタイトルを新宿TSUTAYAで借りたものだった。その日本のTSUTAYAよりもさらに膨大な品揃えの「キムズビデオ」はどんなに素晴らしい場所はだったんだろう。映画ファンにとって空前絶後の聖地だった。

しかし時代は配信の時代へ。「キムズビデオ」は2008年に惜しまれながらも閉店する。そしてその膨大なコレクションは、芸術の都を目指そうとしたイタリアのシチリア島にある村、サレーミへと移管されていた。キムズビデオの元会員デビッド・レッドモンがコレクションの行方を捜索すると、サミーレでコレクションがホコリだらけの湿った所蔵庫に放置されていることを発見する。

と、「キムズビデオ」のコレクションが、あれよあれよとおもいもよらない方向へと展開して行く顛末がとても面白かった。監督のアシュレイ・セイビンとデイヴィッド・レッドモンはそこに、フェリーニやベルイマンの名作からマニアックなもので、いろいろな映画のシーンを織り込む手法を取っているのもやはり映画ファンとしては嬉しかった。でも、自分たちの犯罪スレスレの行為である「キムズビデオ」コレクション奪還作戦を、そのコレクションの中にあるだろう映画のシーンと重ねて、映画の亡霊たちに突き動かされた結果なので許してね、と弁解に利用しているのはちょっとズルかった。

数で云えば「キムズビデオ」には到底及ばないものの、あの新宿や渋谷TSUTAYAのコレクションもどうなったんだろう? 単純に廃棄されちゃったのかなあ。この「キムズビデオ」のようなストーリーは、無いだろうなあ。

→アシュレイ・セイビン、デイヴィッド・レッドモン→キム・ヨンマン→アメリカ/2023→ヒューマントラストシネマ有楽町→★★★★