影の列車

監督:ホセ・ルイス・ゲリン
出演:ジュリエット・ゴルティエ、イヴォン・オルヴァン、アンヌ=セリーヌ・オーシュ
原題:Tren de sombras
制作:スペイン/1997
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場所:下高井戸シネマ

NHKアーカイブなどで、どこかの家庭で撮られた古い8mmフィルムを見ると、まったく知らない家族の映像なのに、そこに焼き付けられている過去がとても懐かしく、自分の記憶の一断面が映像化されているんじゃないかとおもう時がある。自分が生きてきた時代の映像ならもちろんのこと、例えば昭和初期の映像であったとしても、そこに映る着物姿の子供に自分を見たりしてしまう。おそらく映像に対する執着が人一倍強いので、そんなことが起こるのだろうとおもうのだけれど、だから過去の記憶や残された映像を使って郷愁を誘う題材の映画にとことん弱い。ヤノット・シュワルツ監督の『ある日どこかで』(1980)や大友克洋監修のアニメ映画『MEMORIES』の中の森本晃司監督『彼女の想いで』(1995)などがそれにあたる。神山健治監督の「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」シリーズにもそう云った題材のエピソードが多い。昨年のカン・ヒョンチョル監督の『サニー 永遠の仲間たち』もそうだ。

この『影の列車』もそのジャンルに属する映画ではないかとおもう。ただ、とりわけてストーリーがあるわけではない。1930年にフランスで実際に撮られた(とされる)家族のフィルムが延々と流れるだけだ。それも同じシーンを何度も何度も繰り返す。この執拗なまでの執着さは『シルビアのいる街で』と同じモチーフだ。ところが、この執拗さから不思議な感覚が生まれている。古いフィルムなので、ところどころに傷があり、酷いところでは映像が溶け出してしまっている。全体的にまだらになっている部分もある。何度も繰り返される映像の中に挟み込まれるこれらの不協和音によって幻覚的な作用を引き起こし、次第にその時代にタイムスリップしているような感覚にさえ陥ってしまうのだ。これこそ『ある日どこかで』のタイムスリップを実際に行っている感覚だ。

「映画」と云うよりも、どちらかと云ったらビデオ・インスタレーションに近いとはおもうのだけれども、でも、なんとも新しく、野心的で、挑発的な映画だった。

→ホセ・ルイス・ゲリン→ジュリエット・ゴルティエ→スペイン/1997→下高井戸シネマ→★★★☆