監督:松本優作
出演:東出昌大、三浦貴大、皆川猿時、和田正人、木竜麻生、池田大、金子大地、阿部進之介、渋川清彦、田村泰二郎、渡辺いっけい、吉田羊、吹越満、吉岡秀隆、阿曽山大噴火
制作:映画「Winny」製作委員会/2023
URL:https://winny-movie.com
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

2000年代に入ってから個人のパソコンの多くがインターネットへ常時接続できるようになりはじめた。それは一般のアナログ電話回線を流用したブロードバンドインターネット接続サービス「ADSL」の普及が大きな後押しとなって、さらに光ファイバー網を利用した高速の「光回線」の普及がさらに輪をかけることになった。そんな中で登場したのがファイル共有ソフト「Winny」だった。「Winny」を使えば大容量のファイル、たとえば映画まるごと1本の動画ファイルを送受信することが容易くなり、個人のコンピュータ同士を複数経由させる方法(Peer to Peer)のためにサーバー間の通信だけに負担がかかると云うこともなく、まだまだ開発途中で手直しすべきところはあったものの技術的には素晴らしいソフトだった。(と云っても「Winny」を使ったことはなかったとおもう。使ったのは似たようなファイル共有ソフト「WinMX」とか「BitTorrent」だったような)

ただ、やはり時代の先駆たるものの宿命として、既存のルールとのミスマッチが起きてしまうのは必定で、ユーザーの使い方によっては著作権のある映画などの動画ファイルをばらまくためのツールとなってしまった。その結果、2003年11月には著作権のある動画ファイルを違法に公開したとしてユーザーが逮捕され、さらに「Winny」の開発者である金子勇にまで捜査の手が伸びた。

松本優作監督の『Winny』は、金子勇宅への捜査から、逮捕、裁判に至るまでの過程を描いていた。検察側が有罪とする決め手は、金子勇が「2ちゃんねる」上で著作権違反行為を意図する者への要望に応えるために「Winny」を作ったとしている点だった。反対に弁護側は、金子勇が「2ちゃんねる」での書き込みに著作権違反行為に関する発言はまったくしてなくて、純粋に便利なツールを開発したいがために「Winny」を作ったとしている点だった。

この映画での金子勇と云う人物は、ちょっと天然ボケのある純粋な人間として、それをやたらと強調して作られていた。つまり不当逮捕であることを前提に映画が成り立っていた。実際の金子勇本人がどのような人物なのかわからないのだけれど、おそらくこの映画で描かれていたような人物だったとおもう。でも「Winny」の開発者逮捕の事件はそのような個人の問題だけではなくて、ネット時代へと突入しはじめた当時のデジタル・コミュニケーションが作り出す世界がとても重要なポイントだった。とくに金子勇が「Winny」開発のベースとした匿名掲示板「2ちゃんねる」を語らずして何を語ろう。映画『Winny』での「2ちゃんねる」は、金子勇を救うために「2ちゃんねる」有志が募金を募ったと云う美談しか登場しなかった。いやいや、そんな美談は「2ちゃんねる」には似合わない。

映画『Winny』を単純な刑事裁判映画にするよりも、当時のインターネットでのムーブメントをもう少し表現して、名無しの人たちが集う「2ちゃんねる」から如何にして「Winny」が生まれたかの部分も映画に組み込まれていたのならもっと面白かったのに。それを描くのはとてつもなく大変なのだろうけれど。

→松本優作→東出昌大→映画「Winny」製作委員会/2023→ユナイテッド・シネマ浦和→★★☆