監督:守屋文雄
出演:柳英里紗
制作:cogitoworks/2019
URL:https://www.suzushii-kokage.com
場所:新宿K’sシネマ

映画を面白く感じるのは、一般的に考えてドラマティックな部分にあって、主人公が窮地に立たされて、絶体絶命に追い込まれて、そこを間一髪で切り抜けて悪漢を退治するような、サイレント映画のころからあるパターンが代表的だとおもう。もしくは、もうちょっと人間描写に重きを置いた映画で、思考の過程や感情の機微を細かく描いて、そこから見い出される行動の意味を深く洞察するような映画を面白く感じる場合もある。

ドキュメンタリー映画の場合でも、「事実」と云う前書きがありながらも、ドラマティックな部分を面白く感じる場合が多い。ただ単純に対象者へカメラを向けているだけではドラマティックさにかけるので、そこに多少の演出を加えてしまっているドキュメンタリー映画も多い。

数年前の山形国際ドキュメンタリー映画祭で、リスボンの街角にカメラを据え置きして、街行く人たちを撮っているだけのドキュメンタリー映画があった。ああ、これがある意味、本当のドキュメンタリー映画なのかなあ、とはおもったのだけれど、面白い映画かと問われれば、面白いとはおもえなかった。強く印象には残った映画ではあったのだけれど。

そして今回の守屋文雄監督の『すずしい木陰』なんだけど、この映画はドラマティックなことが何ひとつ起こらない。起こらないどころか、木陰のハンモックに寝ているひとりの女性だけに、ちょっと引き目の定点カメラで、1時間半ずっと寝返りをする姿だけを撮り続ける映画だった。これじゃ、普通の人だったら、なんだこりゃ? になるとおもう。最悪、人をバカにしている、金返せ! になるだろう。

この映画は何なんだろう? 寝ている状態を演技している劇映画とも云えるが、寝ている事実をただ単純にカメラで撮っているドキュメンタリー映画とも云えるのかもしれない。

そして、この映画を面白く感じるのかと問われれば、じっと耳を澄まして、聞こえてくる鳥の声や虫の声や車の音、生活音、子どもの遊ぶ声などから、その女性の暮らしている生活を想像することに多少は面白味を感じるけど、ただそれだけではやはり飽きてしまうし、あまりにもメリハリがないので、まるでこの映画の主人公のようにまどろみに陥ってしまう。

監督が考えるこの映画の主眼がどこにあるのかはよくわからない。が、この映画を観ながらウトウトできる状態がどれほど幸福なことなんだろう、とは今の世界情勢からすればまずは考えてしまう。

面白い映画とはまったく云えないけれど、山形国際ドキュメンタリー映画祭で観たポルトガルのドキュメンタリー映画と同じように、印象としては強く残る映画だった。ある意味、すごい映画だとはおもう。

→守屋文雄→柳英里紗→cogitoworks/2019→新宿K’sシネマ→★★★