監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ、レジーナ・ホール、テヤナ・テイラー、チェイス・インフィニティ、アラナ・ハイム、ウッド・ハリス、シェイナ・マクヘイル、ポール・グリムスタッド、トニー・ゴールドウィン、ジョン・フーゲナッカー、エリック・シュヴァイク
原題:One Battle After Another
制作:アメリカ/2025
URL:https://wwws.warnerbros.co.jp/onebattlemovie/index.html
場所:MOVIXさいたま

ポール・トーマス・アンダーソンの新作がやってきた。邦題は『ワン・バトル・アフター・アナザー』。なんだ、このひどいタイトル。どんな映画なのかまったく想像がつかない。なるべく事前情報を入れたくないのでそれは大歓迎なんだけれど、原題の英語センテンスをそのままカタカナ表記するのはどう考えても安易すぎる。

映画がはじまると、カリフォルニアの移民収容所から移民を救出する極左革命グループ「フレンチ75」の活動が描かれる。ポール・トーマス・アンダーソンにしては珍しい時事ネタなんだ、とおもっていらすぐに、「フレンチ75」のメンバーであるパーフィディア・ビバリーヒルズ(テヤナ・テイラー)と「フレンチ75」を追う軍人スティーブン・ロックジョー大佐(ショーン・ペン)の性的に倒錯した関係を見せつけられる。そうそう、これこそがポール・トーマス・アンダーソンの映画なんだなとはおもうものの、今までとは違ってとても多くの人に開いたわかりやすい映画になっているのはどうしてなんだろう? 

映画の後半はまるで70年代の映画のような逃走劇だ。とてもエキサイティングで、ワクワクするアクション映画になっていて、ポール・トーマス・アンダーソンの名前を知らない人がシネコンでこの映画を選んだとしても誰しもが楽しめる映画になっていた。とは云っても、ポール・トーマス・アンダーソンが作り出す偏執的なキャラクターは存在していて、それがこの映画にアクセントを加えているのが楽しかった。

偏執的なキャラクターの中でも面白かったのは、いちおうこの映画の主人公であるボブ・ファーガソン(レオナルド・ディカプリオ)だった。彼はいったい何者だったんだろう? とても頼りなくて、いつもラリっていて、極左翼のグループ「フレンチ75」に属していながら考え方はいたって保守的。メキシコ人やLGBTへの差別的な発言も見せる。今の時代、頼りになるのは女性ばかりで、娘のウィラ・ファーガソン(チェイス・インフィニティ)のかっこよさに比べたら、男はダメダメだ。70年代の映画とは逆転している。

いつも同じような映画ばかりを撮っていてもつまらないので、ポール・トーマス・アンダーソンがこのようなアクション映画を撮ることは大歓迎だ。ただ、お客が入るのかなあ。邦題が『ワン・バトル・アフター・アナザー』では、少なくとも日本では無理だろうなあ。

→ポール・トーマス・アンダーソン→レオナルド・ディカプリオ→アメリカ/2025→MOVIXさいたま→★★★★

監督:李相日
出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、越山敬達、永瀬正敏、嶋田久作、芹澤興人、宮澤エマ、中村鴈治郎、瀧内公美、田中泯、渡辺謙
制作:映画「国宝」製作委員会/2025
URL:https://kokuhou-movie.com
場所:MOVIXさいたま

やっと李相日の『国宝』を観た。これだけ話題になっていて、しかも観た人からも「面白かった!」との絶賛報告を受けると、見る目がどんどんと鋭くなって評価も厳しくなってしまうのはいつものこと。今回も、たしかに面白かったのだけれど、長編小説を映画化する時のエピソードの整理の仕方が気になってしまった。

映画のラストで人間国宝となった花井東一郎(吉沢亮)が「鷺娘」を演じると云うことは、花井半二郎(渡辺謙)の弟子となって最初に観た演目である小野川万菊(田中泯)の「鷺娘」との繋がりを持たせているわけで、となると、原作小説では花井東一郎と小野川万菊との関係性がもっときめ細やかに描かれているんじゃないかと想像する。失踪した花井半弥(横浜流星)を救うのも小野川万菊であるし、花井半二郎が亡くなってからの三代目花井東一郎の凋落から手を差し伸べるのも小野川万菊であることから、この映画の一つのキーとなるのが小野川万菊であることは間違いない。なのに、あまりにも中途半端な小野川万菊の描き方に、これでは重要なものが抜け落ちているのではないか? とのおもいに駆られてしまった。

と云っても、小野川万菊との関わりのシーンを増やせば、完全に3時間超えの映画になることは間違いない。映画興行のことを考えれば3時間超えになることは避けたかったに違いない。そのあたりが難しい判断だった。

吉田修一の「国宝」を読まなければ。そこには花井東一郎と小野川万菊との関係についての記述が多くあるとおもう。その補完をすることによってもっと映画『国宝』を楽しめるはずだ。

→李相日→吉沢亮→映画「国宝」製作委員会→MOVIXさいたま→★★★☆