今年、映画館で観た映画は31本。夏に体調を崩したこともあり、だいぶ減ってしまった。と同時に、シネコンで観られる外国映画が減ったような気がする。ますます若い人向けのラブロマンスやラブコメディやアニメだらけになってしまった。

その31本の中で良かった映画を6本に絞ると以下の通り。

どうすればよかったか?(藤野知明)
セプテンバー5(ティム・フェールバウム)
名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN(ジェームズ・マンゴールド)
教皇選挙(エドワード・ベルガー)
キムズビデオ(アシュレイ・セイビン、デイヴィッド・レッドモン)
ワン・バトル・アフター・アナザー(ポール・トーマス・アンダーソン)

以上、観た順。
10本選びたかったけれど、観た合計本数が少なかったので6本。
配信ではNetflixの『ハウス・オブ・ダイナマイト』(キャスリン・ビグロー)が面白かった。

監督:ジェームズ・キャメロン
出演:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーバー、ブリテン・ダルトン、トリニティ・ジョリー・ブリス、ジャック・チャンピオン、スティーヴン・ラング、ジョヴァンニ・リビシ、ウーナ・チャップリン、ケイト・ウィンスレット
原題:Avatar: Fire and Ash
制作:アメリカ/2025
URL:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/avatar3
場所:MOVIXさいたま

ジェームズ・キャメロンが監督した「アバターシリーズ」第一作目の『アバター』(2009)「は、地球人が希少鉱物アンオブタニウムを求めてアルファ・ケンタウリ系惑星ポリフェマス最大の衛星パンドラへと進出するが、それを許さない先住民族ナヴィと衝突するストーリーだった。資源開発公社のRDA社は、地球人とナヴィそれぞれのDNAを掛け合わせた人造生命体を作り、そこに地球人の神経を接続させたアバターによってナヴィとの交渉を成功させようと試みた。しかし、それがうまく行かないと悟ったRDA社は傭兵部隊を使って、まるで中世におけるスペインの中南米征服よろしく、先住民族が持つ文化や精神世界をまったく尊重しない侵略を行う。アバターの操作員となった元海兵隊員のジェイク・サリー(サム・ワーシントン)はそれに反発してナヴィたちに味方する、と云うのがストーリーの核だった。

「アバターシリーズ」第二作目の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022)は、第一作目の『アバター』から16年経っていて、パンドラの生命の母「エイワ」の力によって人間からアバターの肉体へと完全に意識を移した元海兵隊員のジェイク・サリーが、息子のネテヤムとロアク、娘のトゥク、そしグレース・オーガスティン博士(シガニー・ウィーバー)のアバターから生まれたキリを養女として、妻のネイティリ(ゾーイ・サルダナ)とともに子供たちを育てていた。そこへRDA社がパンドラを植民地化するために戻って来て、ブリッジヘッドシティという名の新しい作戦基地を建設する。そこには死亡した人間の兵士の記憶を移植したナヴィのアバターであるリコビナントがいて、第一作目の『アバター』でジェイク・サリーとネイティリに殺されたマイルズ・クオリッチ大佐(スティーヴン・ラング)もリコビナントとなっていた。クオリッチ大佐に狙われたジェイク・サリーの一家は、一族に迷惑がかからないようにと“海の部族・メトカイナ族”のもとへ身を寄せることになる。そして、クオリッチ大佐とジェイク・サリー一家の対決は、メトカイナ族や海の生物たちを巻き込んで大きな争いとなる。

そして今回の第三作目『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』は、前作からのそのままの続編だった。クオリッチ大佐とジェイク・サリー一家の対決がさらに続き、ジェイク・サリーの息子ロアクの成長譚が語られるものの、目新しい要素があまりにも少なすぎた。一作目ではパンドラの森が、二作目ではパンドラの海が、3Dの効果を最大限に引き出すための構図とともに美しく描かれていたのに、今回は怒りに燃えるナヴィのアッシュ族を加えた戦いの構図しか目立たないのはちょっと寂しい。平和主義者であるクジラのような生物「トゥルクン」が争いに参加せざるを得ない理由にも納得がいかない。どちらかと云えば、今までの「アバターシリーズ」の集大成として、パンドラに存在するすべての生命体を統括する巨大な生物学的ネットワーク(集合意識)である「エイワ」のことをもうちょっと深く掘り下げて欲しかった。映画のラストに割り当てられている「エイワ」のシーンだけではまったく物足りなかった。

『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』の製作費は推定4億ドルらしい。それを回収するにはおそらく日本での興収も重要ではないかとおもう。ところが「日本では出足が鈍い」そうだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/b9f365e60ec39d88f3b9944dbade2563356e0fdd?page=1

この記事では日本での洋画不況が背景にあると云っている。たしかにシネコンでの洋画上映が極端に少なくなった。『国宝』の大ヒットがそれを後押しているような気もする。でも、今までの「アバターシリーズ」とまったく同じようなイメージしか予告編で観客に訴えることが出来なかったのは致命傷だった。実際に今回の『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』には、前作、前々作の焼き直しにしか見えない。このままの繰り返しだけでは『アバター4』を作るのは大変なんじゃないのかなあ。どうするジェームズ・キャメロン。

→ジェームズ・キャメロン→サム・ワーシントン→アメリカ/2025→MOVIXさいたま→★★★

監督:山田洋次
出演:倍賞千恵子、木村拓哉、蒼井優、迫田孝也、優香、中島瑠菜、神野三鈴、イ・ジュニョン、マキタスポーツ、北山雅康、木村優来、小林稔侍、笹野高史
制作:映画「TOKYOタクシー」製作委員会/2025
URL:https://movies.shochiku.co.jp/tokyotaxi-movie/
場所:MOVIXさいたま

山田洋次も94歳になって、まだ映画を撮ることが出来るのか! の驚きをもって『TOKYOタクシー』を観に行った。そこには倍賞千恵子もいたし、北山雅康もいたし、柴又帝釈天も登場した。これが最後の映画になるなんじゃないかとのつもりで最後まで観た。

『TOKYOタクシー』は2022年のフランス映画『パリタクシー』(クリスチャン・カリオン監督)の舞台を日本に置き換えてリメイクした映画だった。個人タクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉)は、高野すみれ(倍賞千恵子)という85歳の女性を東京の柴又から神奈川の葉山にある高齢者施設まで送ることになった。すみれにとって思い出となる都内の様々な場所に寄り道しつつ、二人は会話を重ねながら次第に打ち解けて行く。心を許したすみれは浩二に自分の壮絶な過去を話し始める。

山田洋次の映画が奇をてらったものになることはないだろうとゆるりと観た。そしておもった通りに、オーソドックスにストーリーが進んだので、まったりと映画を楽しむことができた。ただ、回想シーンでの若い頃の倍賞千恵子を蒼井優が演じていたのには違和感を持ってしまった。『男はつらいよ』でさくらを演じた若い頃の倍賞千恵子が頭の中で再生されつつ、蒼井優を見るのはあまりにもギャップが大きかった。若い倍賞千恵子をCGで出せとは云わないけれど、もうちょっと似た女優が欲しかった。それから、ギリギリで余裕のない生活を送っている個人タクシー運転手を木村拓哉が演るってのも、あまりにもイメージに合わない。だったらそこは吉岡秀隆でしょう。吉岡秀隆が貧乏くさいと云ってるわけではないけれど。いや、云ってるか。

ラストのオチは、おそらくそうなるんじゃないかと予想がついた。でも、そう云うオチにするにはあまりにも出来過ぎの感が否めないともおもった。なのに、やっぱりそうなったので、やっぱりそこも驚きのない映画だった。

新藤兼人は98歳で『一枚のハガキ』を撮った。マノエル・ド・オリヴェイラは105歳で『レステルの老人』を撮った。山田洋次もまだ行けるでしょう。

→山田洋次→倍賞千恵子→映画「TOKYOタクシー」製作委員会/2025→テMOVIXさいたま→★★★

監督:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラー、ルーク・グライムス、ディードル・オコンネル、マイケル・ウォード、アメリ・ホーファーレ、クリフトン・コリンズ・Jr.、ウィリアム・ベルー
原題:Eddington
制作:アメリカ/2025
URL:https://a24jp.com/films/eddington/
場所:MOVIXさいたま

『エディントンへようこそ』の予告編を観たとき、コロナ禍でのマスクを付ける付けないで巻き起こる住民同士のトラブルを面白おかしく描いている映画に見えた。えっ、アリ・アスターがコメディを撮ったの? そうだよなあ、彼も新境地を切り開かないと、と変に納得してしまった。

実際に映画を観てみると、な、わけがなかった。何なんだ、あの予告編。ミスリードと云うか、サムネ詐欺すぎる。やっぱり今までのアリ・アスターの映画らしく狂った映画だった。

映画の舞台はコロナ禍真っ最中の2020年、アメリカ・ニューメキシコ州の小さな町エディントン。町の保安官ジョー(ホアキン・フェニックス)は喘息持ちだから息苦しくなるマスクを付けたくない。マスク着用を強いる市長テッド(ペドロ・パスカル)と対立し、突如としてジョーは市長選に立候補する。精神的に弱いジョーの妻ルイーズ(エマ・ストーン)、陰謀論者のその母ドーン(ディードル・オコンネル)、カルト集団の教祖ヴァーノン(オースティン・バトラー)などを巻き込んで、事態はとんでもない状況へと展開して行く。

今から振り返って見れば、コロナウィルスによるパンデミックが起こったことによって、我々の生活を取り巻く環境が大きく変化してしまった。それは病気に関する衛生面のことだけではなくて、社会的な側面も大きく変容してしまった。陰謀論も含むさまざまな情報の氾濫が人々の生活を大きく左右し、差別やハラスメントに対して極端に敏感になることによって暮らし向きは窮屈となり、単純な正義なんてもうこの世にはなく、もちろん単純な悪もない。誰もが混沌としたまだら模様の中で生きて行かざるを得なくなってしまった。

アリ・アスターの『エディントンへようこそ』はまさにそのことを映像化しようとしていた。そしてホアキン・フェニックスは『ジョーカー』(2019)のアーサー・フレック(ジョーカー)と同じように、まさに現代のトリックスターである保安官ジョーを演じていた。だから、予告編からイメージしたようなコメディ映画ではなかったけれど、この住みづらい世の中を風刺したブラックなコメディ映画ではあった。で、面白かったか? と聞かれたとしたら、うーん、面白くはない、と答えるけれど。

→アリ・アスター→ホアキン・フェニックス→アメリカ/2025→MOVIXさいたま→★★★

監督:細田守
声:芦田愛菜、市村正親、斉藤由貴、岡田将生、山路和弘、柄本時生、吉田鋼太郎、松重豊、青木崇高、染谷将太、白山乃愛、白石加代子、宮野真守、津田健次郎、役所広司
制作:スタジオ地図、日本テレビ、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/2025
URL:https://scarlet-movie.jp
場所:MOVIXさいたま

細田守の新作が突然やってきた。映画館で予告編を観ることもなかったし、テレビやネットでパブリシティを目にすることもなかったので、それはまったくの突然だった。しかもシネコンの上映回数が多い! こんなに細田守の映画を観る人がいるのか?

細田守の新作をそれなりに期待して観始めると、暗い色調ではじまるのにはびっくり。前々作『未来のミライ』や前作『竜とそばかすの姫』の流れから、もっと日本のアニメーションっぽい明るい色調を期待していたのに、地獄のような世界の描写からはじまるとはおもいもよらなかった。そしていきなり中世のデンマークへ飛ばされる。主人公のスカーレットはデンマーク王国の王女で、父アムレットを殺した叔父クローディアスへの復讐を果たせずに毒殺される。

なにやらシェークスピアの「ハムレット」のようなキャラクター設定で、テーマも「To be, or not to be, that is the question.」をベースにしているような復讐への苦悩が描かれている。まあ、本質的には今までの細田守の映画にあったような主人公の苦悩や葛藤を描いていることに変わりはないのだけれど、それをあまりにもストレートに突きつけてくるので、ここまでベタな作品を作る意味をはどこにあるんだろうと最初のうちはわからなかった。ただ、その中でもひとつ面白いとおもったのは、王女スカーレットも叔父クローディアスも現世ではすでに亡くなっていて(いるように見える)、そこから「虚無」になるまでの中間地点での世界(これがオープニングの地獄のような世界だった)が舞台であることだった。

その「現世」と「虚無」の中間地点であるような異次元世界は、過去や未来の区別もなく、また場所も特定されない。だからスカーレットは日本の救命救急センターの看護師である聖(ひじり)と知り合うこととなって、二人して復讐を果たすべく叔父クローディアスが居るであろう「見果てぬ場所」へと旅して行く。

この異次元世界の描写がまるで中東のようなイメージで、子供の亡くならない世界を望んだりもするので、それはどうしたってパレスチナのガザのことと結びつけてしまう。ああ、なるほど、このあまりにも遊びを排除した窮屈な映画は、憎しみの連鎖の止むことのないユダヤとパレスチナの状況を描こうとしているからなのかとおもい当たってしまう。その意義はわかるけれど、細田守の今までの映画のようにもうちょっと硬軟織り交ぜたものに、例えばローゼンクランツとギルデンスターンあたりでもっと遊べれば良かったのに。

それから、デンマークの王女スカーレットの感情の表し方が、細田守の今までの映画に出てきた日本の女子高校生のそれとまったく同じなことにどうしたって違和感を持ってしまう。別に日本のアニメーション的な感情描写でも悪くはない。日本のアニメーションなんだから。でも、このテーマにはそぐわない気がしてならなかった。

いま、自分のよく行く映画館の『果てしなきスカーレット』のスケジュールを見ると、すっかり上映回数が減ってしまった。ネットニュースでは、大コケ、の言葉が踊る。細田守の映画を見てきたようなファンに向けた映画ではないことは容易に想像がつくので、もうちょっとそれ以外の、『国宝』を観に行くような世代にでもパブリシティを展開させたら良かったのに。

→細田守→(声)芦田愛菜→スタジオ地図、日本テレビ、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/2025→MOVIXさいたま→★★★