監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
出演:イディル・ベン・アディ、オリヴィエ・ボノー、ミリエム・アケディウ、ヴィクトリア・ブルック、クレール・ボドソン、オスマン・ムーメン
原題:Le jeune Ahmed
制作:ベルギー、フランス/2019
URL:http://bitters.co.jp/sonoteni/
場所:新宿武蔵野館

イスラム圏の若い人たちが、より厳格さを求めるイスラムの教えへと傾倒して行って、その教えから外れる人間を攻撃してしまう流れは、チャランポランな自分にとってはまったく異質の世界のはなしではあるのだけれど、理解できなくもないなあ、とはおもったりもする。

ダルデンヌ兄弟の新作『その手に触れるまで』に出てくる13歳のアメッドも、テレビゲームばかりしていた日常から一転、日々の礼拝を事欠かないイスラム教信者に変貌してしまう。そこの、意識の切り替わった境界にいったいなにがあるのかと考えると、日本で云うところの「中二病」のような自意識過剰やコンプレックスがあって、もし日本に宗教がもっと生活に根付いていたとしたら、アメッドのような狂信的な少年を排出する可能性が、イスラム圏以上にあるんじゃないかと恐怖してしまう。日本では、そのはけ口として宗教ではなくて二次元で良かった。

いつもながらダルデンヌ兄弟が見せる「視点」には時事的なことが密接に連動していて、それをコンパクトに1時間半くらいの尺で見せるところがとても良い。ベルギーでも「COVID-19」が猛威を奮っているらしいので、次回作はそのあたりが来るのかな。

→ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ→イディル・ベン・アディ→ベルギー、フランス/2019→新宿武蔵野館→★★★★

監督:守屋文雄
出演:柳英里紗
制作:cogitoworks/2019
URL:https://www.suzushii-kokage.com
場所:新宿K’sシネマ

映画を面白く感じるのは、一般的に考えてドラマティックな部分にあって、主人公が窮地に立たされて、絶体絶命に追い込まれて、そこを間一髪で切り抜けて悪漢を退治するような、サイレント映画のころからあるパターンが代表的だとおもう。もしくは、もうちょっと人間描写に重きを置いた映画で、思考の過程や感情の機微を細かく描いて、そこから見い出される行動の意味を深く洞察するような映画を面白く感じる場合もある。

ドキュメンタリー映画の場合でも、「事実」と云う前書きがありながらも、ドラマティックな部分を面白く感じる場合が多い。ただ単純に対象者へカメラを向けているだけではドラマティックさにかけるので、そこに多少の演出を加えてしまっているドキュメンタリー映画も多い。

数年前の山形国際ドキュメンタリー映画祭で、リスボンの街角にカメラを据え置きして、街行く人たちを撮っているだけのドキュメンタリー映画があった。ああ、これがある意味、本当のドキュメンタリー映画なのかなあ、とはおもったのだけれど、面白い映画かと問われれば、面白いとはおもえなかった。強く印象には残った映画ではあったのだけれど。

そして今回の守屋文雄監督の『すずしい木陰』なんだけど、この映画はドラマティックなことが何ひとつ起こらない。起こらないどころか、木陰のハンモックに寝ているひとりの女性だけに、ちょっと引き目の定点カメラで、1時間半ずっと寝返りをする姿だけを撮り続ける映画だった。これじゃ、普通の人だったら、なんだこりゃ? になるとおもう。最悪、人をバカにしている、金返せ! になるだろう。

この映画は何なんだろう? 寝ている状態を演技している劇映画とも云えるが、寝ている事実をただ単純にカメラで撮っているドキュメンタリー映画とも云えるのかもしれない。

そして、この映画を面白く感じるのかと問われれば、じっと耳を澄まして、聞こえてくる鳥の声や虫の声や車の音、生活音、子どもの遊ぶ声などから、その女性の暮らしている生活を想像することに多少は面白味を感じるけど、ただそれだけではやはり飽きてしまうし、あまりにもメリハリがないので、まるでこの映画の主人公のようにまどろみに陥ってしまう。

監督が考えるこの映画の主眼がどこにあるのかはよくわからない。が、この映画を観ながらウトウトできる状態がどれほど幸福なことなんだろう、とは今の世界情勢からすればまずは考えてしまう。

面白い映画とはまったく云えないけれど、山形国際ドキュメンタリー映画祭で観たポルトガルのドキュメンタリー映画と同じように、印象としては強く残る映画だった。ある意味、すごい映画だとはおもう。

→守屋文雄→柳英里紗→cogitoworks/2019→新宿K’sシネマ→★★★

監督:ケイシー・レモンズ
出演:シンシア・エリヴォ、レスリー・オドム・Jr、ジョー・アルウィン、ジャネール・モネイ、ジェニファー・ネトルズ 、ヴァネッサ・ベル・キャロウェイ、クラーク・ピータース、ヘンリー・ハンター・ホール、ザカリー・モモー
原題:Harriet
制作:アメリカ/2019
URL:https://harriet-movie.jp
場所:MOVIXさいたま

新型コロナウィルスの「COVID-19」が日本でも蔓延してしまったために、4月中旬の政府の緊急事態宣言以降、映画館も軒並み休館となってしまった。それから2ヶ月半、こんなに映画館から足が遠のいたのは中学生以来なんだけど、まあ、だからと云って、WOWOWやNetflixなどもあるので、このまま映画館が無くなったとしても、簡単にこの環境に順応してしまうのかなあ、なんて悲しくなりながらも、緊急事態宣言が解除されて、映画館も徐々に再開されはじめたら、やはり居ても立っても居られずに映画館へ。

何を観ようかとMovixさいたまのラインナップを眺めていたら、ケイシー・レモンズ監督の『ハリエット』が目に止まった。表題の“ハリエット”とは、ハリエット・タブマンのことで、1850年代から1860年代にかけて、メリーランド州からペンシルベニア州のフィラデルフィアへと、黒人奴隷を密かに逃亡させた女性の奴隷解放運動活動家に焦点を当てた映画だった。今の時節、この映画を観ることが、ぴったりじゃないかと、すぐさま選択した。

全世界的に「COVID-19」がパンデミックになっている状況にもかかわらず、アメリカではまた警察官による黒人への暴行致死事件が起きて、それをきっかけとして人種差別撤廃のデモが各地で発生。さらには日ごろの鬱憤やウィルス蔓延の影響による困窮からかデモの人びとが暴徒化してしまって、店舗での略奪行為が横行する目も当てられない事態になってしまった。この状況を見て、映画『ハリエット』の時代から、な〜んにも変わってねえじゃないかと、つまり人間は、アメリカだろうと日本だろうとどこだろうと、100年くらいの単位では簡単に人の意識を変えられるものではなくて、地域に根付いてしまった負の意識を変えるには多大な時間を要するんだなあ、と。

『ハリエット』のような映画がハリウッドで制作されて、高給を取る黒人俳優がたくさん出てきたとしても、その根が何も変わらないとするのならば、このような黒人ヒーローの映画を観るのはなんとなく虚しい。

→ケイシー・レモンズ→シンシア・エリヴォ→アメリカ/2019→MOVIXさいたま→★★★☆

ジュディ 虹の彼方に

監督:ルパート・グールド
出演:レネー・ゼルウィガー、ルーファス・シーウェル、マイケル・ガンボン、フィン・ウィットロック、ジェシー・バックリー、ジェマ・リア=デヴェロー
原題:Judy
制作:アメリカ、イギリス/2019
URL:https://gaga.ne.jp/judy/
場所:109シネマズ菖蒲

ヴィクター・フレミング監督の『オズの魔法使』をはじめてテレビで見たときには、すでに映画の雑誌などでジュディ・ガーランドの晩年の荒んだ生活についての知識があったので、純粋にファンタジーとしての『オズの魔法使』を楽しんだと云うよりも、その後のジュディ・ガーランドの人生も合わせて見てしまったような気がする。だから、健気にドロシーを演じるジュディ・ガーランドにどこか痛々しさも感じてしまって、自分にとっての『オズの魔法使』はそんなに楽しめる映画ではなかった。

ルパート・グールド監督の『ジュディ 虹の彼方に』は、ジュディ・ガーランドが亡くなる間際のロンドンでの興行にスポットライトを当てていて、精神的にボロボロになりながらも、3番目の夫とのあいだに生まれた2人の子供と暮らすために、必死にお金を稼ごうともがく姿をレネー・ゼルウィガーが演じていて、この演技で彼女は今年のアカデミー主演女優賞を獲ることになった。

ところどころに『オズの魔法使』やミッキー・ルーニーとコンビを組んだ映画の撮影時の回想シーンを挟み込んで、そのときに会社側から受けたパワハラとも云うべき精神的抑圧が、ジュディ・ガーランドの人格形成にも大きな作用を働いたことも匂わせていて、自分がはじめて『オズの魔法使』を見た時に感じた云い知れぬもどかしさの解答をこの映画で見たような気もしてしまった。

『オズの魔法使』のドロシー役への大抜擢、そして成功が、その後のバラ色の女優生活が保証されたかのように見えて、実際には一人の人間を崩壊させてしまった事実を突きつけられて、平凡な人間で良かったと安堵するべきなのかと、モヤモヤとした気分で映画館をあとにした。

→ルパート・グールド→レネー・ゼルウィガー→アメリカ、イギリス/2019→109シネマズ菖蒲→★★★☆

監督:クリス・サンダース
出演:ハリソン・フォード、ダン・スティーヴンス、カレン・ギラン、オマール・シー、ブラッドリー・ウィットフォード
原題:The Call of the Wild
制作:アメリカ/2020
URL:https://www.disney.co.jp/movie/yasei.html
場所:109シネマズ木場

数年前に古本屋で、堺利彦訳のジャック・ロンドンの小説「野性の呼聲」(叢文閣、1919年)を入手したことから、青空文庫に向けて入力作業をしようとテンションが上ったのだけれど、やはり旧字の入力作業は苦しくて、次第に情熱を奪われてしまって、すっかり途中のままで頓挫してしまっている。

今年になって、その1903年に書かれた小説「野性の呼び声」が映画化されて、予告編が映画館で流れ始めた。何でいまさら映画化? とはおもうのだが、入力作業への情熱がふたたび復活するのではないかと期待して観に行ってしまった。

クリス・サンダース監督の『野生の呼び声』は、そつなく作られていて、大人から子供まで、動物好きでも好きでなくても、誰もが楽しめる映画にはなっていた。でもやはり、CGで作られた犬たちがどうしても不自然に見えてしまって、犬の「バック」に対して気持ちを向けることが難しかった。もうちょっと自然な動作のCGにしてくれていたら良かったのに。

まあ、当初の計画通り、入力作業を再開する気持ちがちょっとだけ芽生えたので良しとしよう。

→クリス・サンダース→ハリソン・フォード→アメリカ/2020→109シネマズ木場→★★★

監督:テレンス・マリック
出演:アウグスト・ディール、ヴァレリー・パフナー、ミカエル・ニクヴィスト、ユルゲン・プロホノフ、マティアス・スーナールツ、ブルーノ・ガンツ
原題:A Hidden Life
制作:アメリカ、ドイツ/2019
URL:http://www.foxmovies-jp.com/namonaki-shogai/
場所:新宿シネマカリテ

最近のテレンス・マリックの映画は、『ツリー・オブ・ライフ』にしても『トゥ・ザ・ワンダー』にしても『聖杯たちの騎士』にしても、ストーリーが素直に表面へ出てくるわけではないので、ただ、ただ、綺麗な映像を断片的に見せられているだけの印象に陥ってしまう。テレンス・マリックの映画が好きなものにとっては、その紡いだ映像の断片から彼が語ろうとしていることを探って、解き明かすことに快感があったりはするのだけれど、でもテレンス・マリックのファンでもない人にとっては退屈な映画にも見えてしまうのかもしれない。

ところが今回の『名もなき生涯』は、最近の手法を使わずに、テレンス・マリックの初期の作品『天国の日々』のようにしっかりとストーリーを語っていたことにはびっくりした。これだけ明快にしてくれれば、誰が見ても感動させられるだけのちからはテレンス・マリックの映画にはあるので、みんなに面白いぞと薦めることができる。とはいえ、単純な映画になってしまったなあ、と云う寂しさはちょっぴり。

自分の信念に基づいて、はたから見れば「犬死に」にも見える「死」を選ぶ男のストーリーは、フレッド・ジンネマンの『わが命つきるとも』(1966)をおもい出してしまった。そして、ラストのジョージ・エリオットの小説からの引用が、鑑賞後の余韻をひっぱるのに大きな貢献をしていた。

歴史に残らないような行為が世の中の善を作っていく
名もなき生涯を送り、今は訪れる人もない墓にて眠る人々のお蔭で
物事がさほど悪くはならないのだ

→テレンス・マリック→アウグスト・ディール→アメリカ、ドイツ/2019→新宿シネマカリテ→★★★★

監督:タイカ・ワイティティ
出演:ローマン・グリフィン・デイヴィス、トーマシン・マッケンジー、タイカ・ワイティティ、レベル・ウィルソン、スティーブン・マーチャント、アルフィー・アレン、サム・ロックウェル、スカーレット・ヨハンソン
原題:Jojo Rabbit
制作:アメリカ/2019
URL:http://www.foxmovies-jp.com/jojorabbit/
場所:TOHOシネマズシャンテ

人類の歴史を振り返れば、ローマ帝国の時代から多民族に対する残虐非道な行いが絶えず繰り返されて来てはいるのだけれど、時間が経てば過去の憎しみなどは次第に薄まって行って、昔のことだから、で済むようになって来るとはおもう。じゃあ、75年の月日ではどれだけ薄まるんだろう? ひと一人の寿命の長さしか経っていないのだから、なかなか忘れることは難しいのかもしれない。第二次世界大戦の日本の行った非道な行為に対して中国や韓国の人たちの怒りが収まらないのを見れば明らかだ。それはナチスに対しても同じだとはおもうけれど、ヒットラーを悪の権化として切り離して考えることも出来るので、ドイツ国民に対して向かう憎しみがある程度中和されているようにも見えてしまう。

タイカ・ワイティティ監督の『ジョジョ・ラビット』には、ナチスを信奉する少年の空想としてヒットラーが出てくる。それをタイカ・ワイティティ監督自身がコミカルに演じている。例えば東条英機をコミカルに演じることの重大さに比べると、ヒットラーのキャラクターとしてのイメージが独り歩きしていて、それをコメディとして扱えることの羨ましさを感じてしまった。

でも、この『ジョジョ・ラビット』の中で、少年の空想の中の滑稽なヒットラーが有効的に生きていたかと云えば、うーん、どうなんだろう? 「クラウン」としてまったく生きていなかったような気が、、、

→タイカ・ワイティティ→ローマン・グリフィン・デイヴィス→アメリカ/2019→TOHOシネマズシャンテ→★★★

監督:アリ・アスター
出演:フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ウィル・ポールター、ヴィルヘルム・ブロングレン、アーチー・マデクウィ、エローラ・トルキア、ビョルン・アンドレセン
原題:Midsommar
制作:アメリカ、スウェーデン/2019
URL:https://www.phantom-film.com/midsommar/
場所:MOVIXさいたま

昨年公開されたホラー映画『ヘレディタリー/継承』が話題となったアリ・アスター監督の新作『ミッドサマー』がTwitter界隈で何かと話題なので観に行った。

『ミッドサマー』の原題の“Midsommar”は、スウェーデン語の綴りの「夏至」のことだった。つまりこの映画は、スウェーデンにある閉鎖されたコミュニティで行われる夏至祭に行ってしまったアメリカ人大学生たちの恐怖の体験を描いた映画だった。

『ヘレディタリー/継承』でも精神的な疾患を持つ家系の女性を主人公としていたけれど、今回もやはり精神的にバランスを失ってしまった女性を主人公としていて、その状態で向かうスウェーデンでのコミュニティがあまりにもピーカンで明るすぎて、まるでドラッグでトリップしているような状態に見えるところが気持ちよくもあり、それがかえって怖くもあり、なんとも不思議な映画だった。そこに北欧神話と悪魔学を混ぜ合わせたような不気味な信仰があって、燦々と輝く太陽のもとで、表面的にはにこやかに食事をしながら、楽しそうに踊りながら、でも徐々にどす黒い底が見え隠れするところがキリキリと精神的なダメージを与えてくる映画だった。

アリ・アスター監督の映画はホラー映画に分類されているけれども、昔の70年代、80年代ににあったオカルト映画の要素も含んでいて、そこがとても懐かしかった。ずっとこの路線で行くんだろうか? もしそうならば、これからも追いかけて行きたいなあ。

→アリ・アスター→フローレンス・ピュー→アメリカ、スウェーデン/2019→MOVIXさいたま→★★★★

監督:ジェイ・ローチ
出演:シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー、ジョン・リスゴー、コニー・ブリットン、ケイト・マッキノン、マーク・デュプラス、ロブ・デラニー、マルコム・マクダウェル
原題:Bombshell
制作:アメリカ/2019
URL:https://gaga.ne.jp/scandal/
場所:MOVIXさいたま

FOXニュースの創立者で当時CEOだったロジャー・エイルズが、女性キャスターのグレッチェン・カールソンやメーガン・ケリーらからセクシャル・ハラスメントで訴えられたニュースが大きく報道されたのが2016年だった。そのセクハラ告発の顛末を全員実名で、しかも実物にそっくりのメイクをして映画化してしまうのはさすがハリウッドだとおもった。それも本人たちの承諾も取ってないらしい。

中心となる登場人物たちは、グレッチェン・カールソンをニコール・キッドマン、メーガン・ケリーをシャーリーズ・セロンが演じていて、セクハラシーンが赤裸々な架空の人物カイラ・ポシュピシルを演じているのがマーゴット・ロビーだった。映画の題材としては深刻な問題を扱ってはいるのだけれど、窓際になってしまったキャスター役をニコール・キッドマン、飛ぶ鳥を落とす勢いのキャスター役をシャーリーズ・セロン、駆け出しのプロデューサー(?)役のマーゴット・ロビーの3人による演技合戦ばかりに目が行ってしまった。

自分にとって、映画作品に対して魅力を感じる大きな要素が俳優たちによる演技くらべなので、この3人による丁々発止の演技合戦がたまらなく楽しかった。特に、図らずも3人が一つのエレベーターに乗り合わせて、話すことなく目配せし合うだけで緊張感がみなぎるシーンは凄かった。そのシーンがあっただけでこの映画を観て良かったとおもうくらいだった。

ただ、FOXニュースのスターとして君臨しているシャーリーズ・セロンが、セクハラ告発をしたニコール・キッドマンに対して、告発者として連名しようと決意した過程をもうちょっと丁寧に描いてくれていたら良かったのに。

→ジェイ・ローチ→シャーリーズ・セロン→アメリカ/2019→MOVIXさいたま→★★★☆

監督:サム・メンデス
出演:ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン、マーク・ストロング、アンドリュー・スコット、リチャード・マッデン、クレア・デバーク、コリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッチ
原題:1917
制作:イギリス、アメリカ/2019
URL:https://1917-movie.jp
場所:109シネマズ木場

全編ワンカットの映画と云えば、真っ先におもい浮かぶのがヒッチコックの『ロープ』(1948)で、まだフィルム時代のワンカットとは、巻の切り替えにうまく黒味などを入れて、ワンカットに見えるようにする涙ぐましい努力が必要だった。ところがデジタルの時代となって、そんな苦労はいらなくなって、やろうとおもえば誰でもワンカットの映画(本番1回の長回し)が撮れる時代になった。とはいえ、上田慎一郎の『カメラを止めるな!』がドタバタで見せたように、演技や撮影からメイクにいたるまでミスの許されないワンカット撮影は誰得なんだ? とトライする人は極端に少ない。やったとしても、『ロープ』の時代と同じようなテクニックを使って、ところどころでカット(休憩)する映画がほとんどだ。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014年)もネメシュ・ラースローの『サウルの息子』(2015)も厳密云えばワンカット映画ではないとおもう。

サム・メンデス監督の『1917 命をかけた伝令』の惹句は「全編ワンカット!」だった。ああ、またテクニックを使ってワンカットに見せているんだろうなあ、と映画を観たら、いやいや、しっかりとフェードアウトして時間経過してるじゃん、になった。でも、ほとんどワンカットに見える映画は、厳密に云う本番1回の長回し映画をやる人がいない以上、「全編ワンカット」と謳っても良いほどにスムーズに流れる映画だった。

ほぼワンカットに見えるこの映画は、主人公たちに寄り添うカメラから見える第一次世界大戦の戦場に緊張感がみなぎっていた。撤退して敵はいないとの情報が真実なのか疑心暗鬼に前へと進む戦場が、死体だらけの戦場が、まるでホラー映画のように怖かった。そして、進む途中に見える桜の林や、闇夜に燃える建物が美しかった。この恐怖と美のコントラストを表現させたロジャー・ディーキンスの撮影が素晴らしかった。サム・メンデスは、『アメリカン・ビューティー』(1999)でも、『ジャーヘッド』(2005)でも、『007 スカイフォール』(2012)でも、いつも恐怖と美を映画の中に盛り込むことが巧い!

→サム・メンデス→ジョージ・マッケイ→イギリス、アメリカ/2019→109シネマズ木場→★★★★