第七の封印

監督:イングマール・ベルイマン
出演:マックス・フォン・シドー、グンナール・ビョルンストランド、ベント・エケロート、ニルス・ポッペ、ビビ・アンデショーン、グンネル・リンドブロム、ベティル・アンデルベルイ、オーケ・フリーデル、インガ・ジル、モード・ハンソン
原題:Det sjunde inseglet
制作:スウェーデン/1957
URL:
場所:新文芸坐

映画館で『第七の封印』を観るのはこれで2回目。2回も観れば映画への理解が深まったかとおもえばそうでもない。やはり難しい映画だった。

最初の感想→ https://www.ag-n.jp/wp/?p=206

でも最近、自分の人生にひしひしと「死」が近づいていることを実感させられる出来事が増えてきて、1回目に観たときよりもより鮮明な映画になってきているような気がする。もし自分に「死」が迫ってきたら、マックス・フォン・シドーのようなチェスの試合で時間稼ぎをするようなことはせずに、すんなりと死神に手を引かれて死のダンスを踊りたいとおもう。

→イングマール・ベルイマン→マックス・フォン・シドー→スウェーデン/1957→新文芸坐→★★★☆

監督:イングマール・ベルイマン
出演:マックス・フォン・シドー、イングリッド・チューリン、ナイマ・ウィフストランド、グンナール・ビョルンストランド、ベント・エケロート、ビビ・アンデショーン、エルランド・ヨセフソン
原題:Ansiktet
制作:スウェーデン/1958
URL:
場所:新文芸坐

イングマール・ベルイマンの映画を好きだと云っておきながら初期の作品をあまり観ていない。なので、昨年のYEBISU GARDEN CINEMAで行われた「ベルイマン生誕100年映画祭」でのデジタルリマスター版で彼の初期作品を拾っておきたかったのだけれど、悲しいかな、もう恵比寿に行く気力がなかった。まあ、いつかは名画座を巡回してくれるだろうとおもっていたら、今回、池袋の新文芸坐で上映がはじまったのでさっそく観に行った。

ベルイマンの初期の映画は、その宗教的な内容を理解することはなかなか難しい。今回の『魔術師』は、オカルト的な古臭い出し物が時代と合わなくなってしまっている魔術師一座を「キリスト教」と見立てて、それを嘲笑っている科学者や警察署長たちを「無神論者」と見れば、そのどちらをも笑っているような喜劇として捉えることができるのだろうけれど、その喜劇を心底から笑えるのはベルイマンと同じように幼い頃から宗教が生活の場にあったものだけなんだろうとおもう。宗教とのかかわり合いの薄い日本人にはなかなか笑うことができない。笑えるとしても本題を彩っている装飾的な部分だけだった。

自分にとって手がかりがあるとすれば、社会を構成する上での「宗教」の存在を肯定しながらも、それを自分が「信心」することは到底できない、というジレンマくらいかなあ。そんなの、ベルイマンのキリスト教に対する葛藤に比べたら、小さい、小さい。

→イングマール・ベルイマン→マックス・フォン・シドー→スウェーデン/1958→新文芸坐→★★★☆

天才作家の妻 40年目の真実

監督:ビョルン・ルンゲ
出演:グレン・クローズ、ジョナサン・プライス、クリスチャン・スレーター、マックス・アイアンズ、ハリー・ロイド、アニー・スターク、エリザベス・マクガヴァン
原題:The Wife
制作:スウェーデン、イギリス、アメリカ/2017
URL:http://ten-tsuma.jp
場所:MOVIXさいたま

映画のストーリーは、もちろん何も知らずに観るに越したことはない。どんな展開になっていくんだろう? のゾクゾク感こそが映画の醍醐味の一つだからだ。しかし今のインターネット、SNS時代では、すべての情報をシャットアウトすることはとても難しいので、まあ、ある程度の情報流出は致し方ないとおもっている。目くじらを立ててネタバレだ!と叫ぶようなことも馬鹿らしいとおもっている。でも、邦題の副題にネタバレをしちゃうのって、どうなんだろう? 映画のタイトルに「40年目の真実」とあれば、その真実が何であるのかと身構えてしまって、ある程度のストーリーの予測がついてしまう。原題の「The Wife」は、とてもシンプルなタイトルであるからこそ意味深さがあって、とても良いタイトルだ。なぜ、邦題を「妻」にできないのだろう? 百歩譲って「作家の妻」だなあ。

ビョルン・ルンゲ監督の『天才作家の妻 40年目の真実』は、そんな多少の邦題のネタバレがあったとしても、グレン・クローズとジョナサン・プライスによる特殊な夫婦関係から来る確執が面白く、はたして妻のグレン・クローズは「内助の功」として全面的に納得しているのか、それとも才能がありながら埋もれてしまっている自分に対する不満がくすぶっているのか、そこだけを取ってみても最後まで緊張感が持続している素晴らしい映画だった。

『ガープの世界』のジェニー・フィールズ役以来の付き合いのグレン・クローズが本当に良かった。彼女はまだアカデミー主演女優賞を獲ってないんだよなあ。今年こそは彼女に獲らせてあげたい!

→ビョルン・ルンゲ→グレン・クローズ→スウェーデン、イギリス、アメリカ/2017→MOVIXさいたま→★★★☆

シュガー・ラッシュ:オンライン(2D日本語吹き替え版)

監督:リッチ・ムーア、フィル・ジョンストン
声:山寺宏一、諸星すみれ、花輪英司、田村聖子、菜々緒、浅野まゆみ
原題:Ralph Breaks the Internet
制作:アメリカ/2018
URL:https://www.disney.co.jp/movie/sugarrush-ol.html
場所:109シネマズ菖蒲

前作の『シュガー・ラッシュ』(2012年)を観ての感想は、最近の3Dアニメーション映画と同様に、ゴチャゴチャした映画! でしかなかったけれど、今回の『シュガー・ラッシュ:オンライン』は、アーケードゲームの世界のヴァネロペとラルフたちがインターネットの世界へと侵入して悪戦苦闘するエピソードを軸にきっちりと作られていた。『アナと雪の女王』のアナとエルサや、シンデレラ、白雪姫らのディズニーのキャラクターたちも多数カメオ的に出演していて、そこへ前作同様に日本のゲームのキャラクターたち、「ストリートファイター」シリーズの春麗やザンギエフ、ソニック、パックマンたちも出てきて、ゲームの世界とアニメの世界のキャラクターたちがコラボしたような盛りだくさんのワクワクする映画になっていた。

ゲームの世界のキャラクターが活躍する3Dアニメーション映画ってもっと作られても良いとおもうんだけど、それが少ないのはなぜなんだろう? ゼルダの映画とか観たいのに。

→リッチ・ムーア、フィル・ジョンストン→(声)山寺宏一→アメリカ/2018→109シネマズ菖蒲→★★★☆

監督:ハイファ・アル=マンスール
出演:エル・ファニング、ダグラス・ブース、ベル・パウリー、ベン・ハーディ、メイジー・ウィリアムズ、スティーヴン・ディレイン
原題:Mary Shelley
制作:アイルランド、ルクセンブルグ、アメリカ/2017
URL:https://gaga.ne.jp/maryshelley/
場所:シネマカリテ

今年最初の映画は『少女は自転車にのって』を撮ったサウジアラビアの女性監督ハイファ・アル=マンスールの『メアリーの総て』。

メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」は青空文庫に宍戸儀一訳が公開されていて、

https://www.aozora.gr.jp/cards/001176/card44904.html

登録されたときにすぐさま読もうと考えていたのに、まったくの手付かずのままだった。『メアリーの総て』が公開されたことをきっかけとして、今年には絶対に読もうと新年のはじめに決意をあらたに。

『メアリーの総て』でメアリー・シェリーを演じたエル・ファニングは、最近の『20センチュリー・ウーマン』と『パーティで女の子に話しかけるには』で自分にとってのNo.1女優になりつつあって、この『メアリーの総て』もめちゃくちゃ期待はしていたのだけれど、小説を書く女性にしては文系オタク臭が少し足りなかった気がしないでもない。実際のメアリー・シェリーの肖像画を見ても、メリル・ストリープやティルダ・スウィントンに似た神経質で繊細な感じが見て取れて、エル・ファニングの少女的なかわいらしさとはまったくかけ離れているような気がしてしまった。

映画の構成も、メアリー・シェリーが「フランケンシュタイン」を書くきっかけとなるのが夫のパーシー・シェリー やバイロンとの関係にあることはもちろんわかるのだけれど、スイスにあるバイロンの屋敷のシーンがくどくどと長くて、それでいて「フランケンシュタイン」を出版化する部分があまりにもハイスピードで短いのはバランス的にも偏っているような気が、、、「フランケンシュタイン あるいは現代のプロメテウス」が出版化される部分にもっと重きを置いている映画かと勝手に思い込んでいたのでちょっとがっかり。

→ハイファ・アル=マンスール→エル・ファニング→アイルランド、ルクセンブルグ、アメリカ/2017→シネマカリテ→★★★

今年、映画館で観た映画は、なら国際映画祭で観た短編映画10作品も含めて全部で75本。
その中で良かった映画は10本に絞ると以下の通り。

苦い銭
勝手にふるえてろ
スリー・ビルボード
聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア
アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル
ファントム・スレッド
レディ・バード
告白小説、その結末
カメラを止めるな!
判決、ふたつの希望

以上、観た順。

今年は『カメラを止めるな!』に尽きるのかもしれないけれど、なら国際映画祭に行ったこともあって、これだけ様々な国の映画を観た年は無かったとおもう。特に『判決、ふたつの希望』や『運命は踊る』など中東の映画の台頭には驚いた。

アリー/ スター誕生

監督:ブラッドリー・クーパー
出演:レディー・ガガ、ブラッドリー・クーパー、サム・エリオット、アンドリュー・ダイス・クレイ、デイヴ・シャペル
原題:A Star Is Born
制作:アメリカ/2018
URL:http://wwws.warnerbros.co.jp/starisborn/
場所:109シネマズ木場

『スタア(スター)誕生』のストーリーは、ジュディ・ガーランド版、バーブラ・ストライサンド版と観てきて、どんな展開になるのか知っているわけだけれども、このレディー・ガガ版も新鮮な気持ちで観ることができたのにはびっくりした。レディー・ガガは演技できるの? おお!あんがい出来るんじゃん、なんてところの興味が映画への集中力を増していたのかもしれない。

ブラッドリー・クーパーの演出は、ハリウッドのスタイルにただ取り込まれただけのあまり面白味のないものだった。ブラッドリー・クーパーの演技同様に、もっと過剰さが加わっていても良かったんじゃないのかなあ。でも『スタア(スター)誕生』のストーリーは、その時代、その時代のマネー・メイキング・スター(と云うか歌姫?)を迎えて、これからも作り続けられて行くのも悪くはないのかもしれない。

1954年に公開された『スタア誕生』でのジュディ・ガーランドの名台詞、「私はノーマン・メインの妻です」を引き継いで、今回も「私はジャクソン・メインの妻です」と云ってくれるのではないかと一瞬おもったけれど、それはなかった。

→ブラッドリー・クーパー→レディー・ガガ→アメリカ/2018 →109シネマズ木場→★★★☆

アメリカン・バレエ・シアターの世界

監督:フレデリック・ワイズマン
出演:アメリカン・バレエ・シアター(ABT)のダンサーたち
原題:Ballet
制作:アメリカ/1995
URL:
場所:アテネ・フランセ文化センター

いつだったか、ふとテレビで見たコンテンポラリー・バレエに衝撃を受けた。目も止まらぬ素早い動きのダンサーの躍動感に目を奪われてしまった。カナダのラララ・ヒューマンステップスと云うダンスカンパニーだった。すぐさまAmazonでDVDも買ってしまった。

自分にとってのバレエの接点はそんなもので、おそらく普通のクラシック・バレエは退屈するんだろうなあ、と云う懸念はぴったりと当たってしまった。いくらフレデリック・ワイズマンの映画でもバレエのシーンではちょっとウトウトと。でも、そのクラシック・バレエの練習風景はコンテンポラリー・バレエのダイナミズムを感じてとても面白かった。それは最近のフレデリック・ワイズマンの映画『パリ・オペラ座のすべて』や『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』に通じて行く。

→フレデリック・ワイズマン→アメリカン・バレエ・シアター(ABT)のダンサーたち→アメリカ/1995→アテネ・フランセ文化センター→★★★

監督:デヴィッド・ロウリー
出演:ケイシー・アフレック、ルーニー・マーラ、ウィル・オールドハム、ソニア・アセヴェド、ロブ・ザブレッキー、リズ・フランケ
原題:A Ghost Story
制作:アメリカ/2017
URL:http://www.ags-movie.jp
場所:シネマカリテ

映画のタイトルだけを見れば軽いホラー系の映画にも見えるけど、実際には不慮の事故で死んでしまった男の現世への強烈な執着を描いた映画だった。

「ゴースト」となった男が連れ立っていた妻を忘れられずに、ずっとその場所にとどまって妻を見守って行くストーリーではないかと誰もが最初は想像するのだけれど、未亡人となった妻に新しい男が出来てからはなぜかその住んでいた「家」に執着して、未来に向かって永遠ともおもわれる時間そこに居続けるストーリーとなって行くところがとても不思議な映画だった。あとから考えれば、住んでいた「家」への執着に関する夫婦の会話があったことがその伏線で、日本でも幽霊は「人」に憑くことよりも「家」に憑くことのほうが多いんじゃないかと、最近読んだ小野不由美の「営繕かるかや怪異譚」からもおもいあたる部分だった。

ただ、その行為が未来永劫に続くのではなくて、途中から時空をさかのぼって、アメリカの開拓史の時代からその土地の歴史をなぞって行くところがさらに不思議さを増していた。そして、夫婦がその「家」に住んでいたときに聞いたラップ現象が実は「ゴースト」となった男が立てた音だったことがわかる部分をどのように解釈すればいいのか難しかった。自分の生きているこの瞬間にも、先々に死んだ自分の魂の影響が及んでいることの意味を脚本も書いたデビッド・ロウリーに聞いてみたい気がする。

→デヴィッド・ロウリー→ケイシー・アフレック→アメリカ/2017→シネマカリテ→★★★

監督:フレデリック・ワイズマン
出演:アラバマ聾盲学校(AIDB)内のヘレン・ケラー校の人びと
原題:Multi-Handicapped
制作:アメリカ/1986
URL:
場所:アテネ・フランセ文化センター

フレデリック・ワイズマンのカメラは、障害者施設の子どもたちに対してもしっかりと視線を送っていた。日本でもこのような施設での取り組み方をブラックボックス化しないで、もっと公にしらしめる活動をするべきなんじゃないかと、この映画を観ながらずっと考えていた。どんなにアピールしてたとしても、津久井やまゆり園の事件の犯人のような考えを持っている人間に対しては何の効力も発揮しないのかもしれないけれど、でも、少なくとも、多様性の大切さが叫ばれる今の世の中に対して、彼らもその一つの要素として認識してもらう必要はあるんじゃないかと、重度の障害を持つ人や特別支援施設に多少なりとも関わっている人間としては考えざるを得なかった。

フレデリック・ワイズマンの映画は、いつの時代に観ても、その時々の問題にぴたりと寄り添ってくる汎用性がある。スゴイことだ。

→フレデリック・ワイズマン→アラバマ聾盲学校(AIDB)内のヘレン・ケラー校の人びと→アメリカ/1986→アテネ・フランセ文化センター→★★★☆