監督:レイ・メンドーサ、アレックス・ガーランド
出演:ディファラオ・ウン・ア・タイ、ウィル・ポールター、ジョセフ・クイン、コスモ・ジャーヴィス、テイラー・ジョン・スミス、キット・コナー、チャールズ・メルトン、マイケル・ガンドルフィーニ、アダイン・ブラッドリー、ネイサン・アルタイ、ハイダー・アリ、ノア・センティネオ、エンヒキ・ザガ
原題:Warfare
制作:アメリカ、イギリス/2025
URL:https://a24jp.com/films/warfare/
場所:MOVIXさいたま

元Navy SEALs隊員のレイ・メンドーサがイラク戦争従軍時の体験を元に撮った映画。アレックス・ガーランドが演出補佐を務めた。

最近の戦争映画は昔に比べるとVFX技術によってますます戦闘シーンがリアルになって、あたかも戦場にいるかのような臨場感がハンパない。それに加えて『ウォーフェア 戦地最前線』は、実際に戦地に赴いた兵士の経験を元に演出しているので、まるでドキュメンタリーのような様相も兼ね備えている。カメラのポジションやカット割りが考え抜かれているので、ドキュメンタリー以上のドキュメンタリー・ドラマ映画とも云えるのかもしれない。

さらにクリント・イーストウッドの『15時17分、パリ行き』(2018)のように、Navy SEALs隊員本人を役者として使えたらもっと凄いことになっていただろうにそれは無理だった。映画の最後に、実際の隊員本人の写真とその人役の役者の写真が並べられてスライドショーのように見ることができるが、本人の写真の半分ぐらいには顔にボカシが入っていた。つまり、その当時のことはおもい出したくもないし、いわんや映画制作には寸分たりとも携わりたくもないと主張しているように見えてしまった。それだけ厳しい戦場であったことを物語っている。

この映画を観て気付いたことが一つあった。戦場で一番怖いことは、スナイパーの狙撃でもIDE爆弾(即席爆発装置爆弾)でもない。足をズタズタに寸断された同胞の兵士の断末魔の叫びだった。足をやられてから四六時中、阿鼻叫喚、絶叫に近い声で叫び続けられるのが一番キツかった。

→レイ・メンドーサ、アレックス・ガーランド→ディファラオ・ウン・ア・タイ→アメリカ、イギリス/2025→MOVIXさいたま→★★★☆

30年くらい前のことだったとおもう。駅のホームで、記憶の限りでは赤羽駅、電車を待っているときにふとホームの屋根を支える白くて太い支柱を見たら「ソフィア・ローレンひまわり」と縦書きで落書きがしてあった。おもわず笑ってしまった。誰がこんないたずら書きをするんだろう? それもマニアックな映画ファンでないかぎり見ないような映画の題名と主演女優の名前だけを書くなんて。いや、ヴィットリオ・デ・シーカ監督による1970年公開の映画『ひまわり』はとても有名なので、ある程度年齢を重ねた人であれば知っている可能性は高い。でも、中年と呼ばれる年代になっている人、もしくはそれ以上の人がホームの支柱にいたずら書きをするだろうか。いたずら書きをするのは若い人の特権だ。分別をわきまえてしまうほど、悲しいかな、いたずら書きはしなくなる。となると、その若い人が「ソフィア・ローレンひまわり」といたずら書きするモチベーションはなんだろう? たまたまDVDレンタルで見た『ひまわり』に感動したんだろうか。あまりに感動したので、みんな見ろよ、と落書きをしたくなったのか。いまで云えば、推しの良さをみんなに知ってもらいたかったのか。SNSが普及する以前のささやかな推しのアピールの場が落書きだった。

最近、Xで「ソフィア・ローレンひまわり」と検索してみた。おお、出てくる、出てくる。どうやら、ABEMAプレミアムで見られるらしい。はじめて見て感動した人がポストしている。年齢はわからないが、これだけ多くのポストがあれば、その中には若い人も含まれているだろう。SNSは自分の気に入ったものをアピールするのには良いツールだ。30年前に比べれば誰もが「ソフィア・ローレンひまわり」とポストできる。ところが、それに対してディスることも簡単になった。「ソフィア・ローレンひまわり」をディスることはあまり考えられないが、ソフィア・ローレンの容姿をディスることは簡単だ。でも、そんなやつにはこうリプライしてやる。「人生は祭りじゃないか、一緒に楽しもう!」。

監督:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)
出演:趙濤(チャオ・タオ)、李竺斌(リー・チュウビン)、潘剑林(パン・ジアンリン)、周游(チョウ・ヨウ)
原題:風流一代 Caught by the Tides
制作:中国/2024
URL:https://www.bitters.co.jp/romantics/
場所:OttO

ジャ・ジャンクーの映画はいつもドキュメンタリーのように当時の中国の市井の人たちを写し入れる。彼らが歌ったり、踊ったりするするシーンを入れる場合もある。そのような中国人の生の生活をフィルムに収めながら、同時に俳優を使ったドラマを織り交ぜるバランスがとても面白い。

『新世紀ロマンティクス』は、ジャ・ジャンクーの過去の映画『青の稲妻』(2002)や『長江哀歌』(2006)などの本編映像や未使用映像、そして当時の地元の住民を捉えた映像を使用しながら、ジャ・ジャンクーの映画の主演女優をつとめてきたチャオ・タオのの24歳、29歳、45歳の姿と共に、変化していく中国の街の景色を映しだす。手法としては今までの映画と同じだけれど、どちらかと云うとドラマ部分は添え物で、2000年初頭から2022年のコロナ禍までの長い期間を通して大きく変化していった中国人たちの姿を、俳優のチャオ・タオやリー・チュウビンだけでなく、一般の人たちをも含めて見せることに主眼を置いている。

われわれ日本人の云う中国人とは、日本に住んでいる中国人や、旅行で日本に訪れている中国人のことを指していて、日本人とはちょっと違うアグレッシブさに辟易する場合も多い。でも、ジャ・ジャンクーの映画に出てくる奉節(フォンジェ)や山西省・汾陽(フェンヤン)や大同の人たちを見る限り、昭和の高度成長期のころの日本人のイメージに近い。『長江哀歌』で三峡ダム建設中の奉節を訪れたサンミンや『山河ノスタルジア』(2015)でチャオ・タオにふられるリャンズー(リャン・ジンドン)や、そしてこの『新世紀ロマンティクス』でのリー・チュウビンも、アグレッシブさを内に秘めているとはおもうけれど、どこか日本人と共通する奥ゆかしさが感じられて、とてもわれわれがイメージする中国人とは違う。

ワン・ビンのドキュメンタリー映画もそうだけれど、中国人を理解するには中国映画を観ることが一番だとおもう。となると、黒澤明や小津安二郎の映画が日本人を理解してもらうことにどれだけ役立っていたことか。今では日本のアニメーションも。国はもっとコンテンツ産業に投資しないと!

→賈樟柯(ジャ・ジャンクー)→趙濤(チャオ・タオ)→中国/2024→OttO→★★★☆

監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:オースティン・バトラー、レジーナ・キング、ゾーイ・クラヴィッツ、マット・スミス、リーヴ・シュレイバー、ヴィンセント・ドノフリオ、ニキータ・ククシキン、ユーリー・コロコリニコフ、ベニート・マルティネス・オカシオ、グリフィン・ダン、ローラ・ダーン
原題:Caught Stealing
制作:アメリカ/2025
URL:https://caught-stealing.jp
場所:MOVIXさいたま

『ブラック・スワン』『ザ・ホエール』のダーレン・アロノフスキーの新作は、1998年のニューヨークを舞台にしたクライム・アクションだった。

ロウアー・イースト・サイドの「Paul’s Bar」でバーテンダーとして働くハンク(オースティン・バトラー)は大のサンフランシスコ・ジャイアンツのファン。最初、ニューヨークが舞台で「ジャイアンツ」としか云わないので、てっきりアメリカン・フットボールのニューヨーク・ジャイアンツのことかとおもってしまった。次第にそれがサンフランシスコ・ジャイアンツであることがわかってきて、ハンクがカリフォルニア州パターソンの出身で、メジャーリーグのドラフトにかかる寸前まで行った選手であることもわかってくる。ところが交通事故で野球のできなくなる体になってしまったために将来の目標を失って、そして事故のトラウマをかかえたままニューヨークで働いている。そこへ、病気の父親に会いにロンドンへ行ってしまった隣人ラス(マット・スミス)の関係で、凶暴なロシア人の二人組がやって来て半殺しにされてしまう。超正統派のユダヤ人の二人組にも追いかけ回され、恋人のイヴォンヌ(ゾーイ・クラビッツ)も殺されて、頼りにした女刑事ローマン(レジーナ・キング)も何やら怪しくて……。

原題の「Caught Stealing」は「盗塁失敗」を意味する野球用語だそうだ。絶えずサンフランシスコ・ジャイアンツの試合結果を気にしているハンクが主人公のこの映画は、つまり題名からしてベースボールをモチーフにしていることがわかる。ところが、それがとても中途半端だった。もっと野球に関わる道具を小道具として使ったら良かったんじゃないか。盗塁やホームラン、ボークとか隠し玉とか、なんでも良い、もっともっとベースボールに関わることをストーリーに盛り込んで欲しかった。

映画のラスト、南国に逃れたハンクは食堂のテレビで、当時のサンフランシスコ・ジャイアンツの4番バッターで、2001年にシーズン73本塁打の記録を作るバリー・ボンズの打席を見る。さあ、打てるのか? の、以前のハンクならば見逃しそうもない絶好の場面でテレビのスイッチは切られ、彼のトラウマが解放されたような暗喩で映画は終わる。そうそう、こういうのがもっと欲しかった。

ラストクレジットで「Paul’s Bar」を経営するポールがグリフィン・ダンだったことがわかる。すっかり歳を取ってしまったので、まったく気が付かなかった。となると、どうしてもマーティン・スコセッシの『アフター・アワーズ』をおもいだす。おそらくこの巻き込まれ型の映画は『アフター・アワーズ』を意識して作っている。それに、街なかを歩くハンクのトラッキングショットの背景に「キムズビデオ」もちらりと!

→ダーレン・アロノフスキー→オースティン・バトラー→アメリカ/2025→MOVIXさいたま→★★★☆