監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:エマ・ストーン、ジェシー・プレモンス、エイダン・デルビス、スタヴロス・ハルキアス、アリシア・シルヴァーストーン
原題:Bugonia
制作:イギリス、アイルランド、韓国、アメリカ/2024
URL:https://gaga.ne.jp/bugonia/
場所:MOVIXさいたま

ネットで誰もが情報を発信できるようになったがために陰謀論がはびこるようになったとおもう。日本で1999年5月に開設された匿名掲示板「2ちゃんねる」は、名無しの奴らが自由に発言できる場で、誰ともわからない名無しから有益な情報を得る場合もあったけれど、本当かどうか疑ってかかるべきあやしい情報も多かった。ところが、そのようなあやしい情報を面白がるヤカラもいて、そう云ったヤカラの集合体が陰謀論の元祖のような気がする。

その匿名掲示板「2ちゃんねる」の権利権を2014年2月に管理者のひろゆきから奪ったのがジム・ワトキンスと云う男だった。2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)や8kunの管理人となったジム・ワトキンスが、陰謀論の中でも有名な「Q」の正体ではないかと云われている。「Q」(あるいは「Qアノン」とも)とはアメリカの極右が提唱している陰謀論。「世界規模の児童売春組織を運営している悪魔崇拝者・小児性愛者・人肉嗜食者による秘密結社が世界を裏で支配しており、ドナルド・トランプはこれと密かに戦っている」と云うのが主張の中心らしい。(Wikipediaより)

そのような陰謀論が信じられる理由は、単なる知識不足や人の性格によるものではなく、人間の根本的な心理的欲求や、社会の複雑さに対する防御反応ではないかと考えられている。つまり、高学歴や低学歴、都市や田舎と云った属性とはあまり関係がなく、誰もが不安や不信感を感じた瞬間に、無意識に陰謀論に惹きつけられる可能性があると云われている。

ヨルゴス・ランティモス監督の『ブゴニア』に出てくるテディ・ガッツ(ジェシー・プレモンス)は陰謀論に取り憑かれた養蜂家だった。彼が陰謀論に走ったのは、世界中のミツバチの数が減る現象が起きていることや母親が医療ミスによって寝たきりの状態にさせられたことによる不安感、絶望感が大きい。彼が信じた陰謀論とは、アンドロメダのエイリアンが秘かに地球に潜入して、いよいよ人類を滅ぼそうとしていると云うものだった。母親に投与されている薬の会社でもある大手製薬会社のCEOミシェル・フラー(エマ・ストーン)がアンドロメダのエイリアンであると見抜いたテディは、彼女を誘拐して自宅の地下に監禁する。彼女に対してアンドロメダ星人の皇帝に会わせろと拷問を加える。テディに協力する自閉症の従兄弟ドン(エイダン・デルビス)やテディのかつてのベビーシッター(テディとは昔に性的な何かがあった?)で今は副保安官になっているケイシー・ボイド(スタヴロス・ハルキアス)などが絡んで、事態は予想もつかない方向に展開していく。

アンドロメダのエイリアンが人類を滅ぼそうとしているストーリーは、1950年代のSF映画のようなチープさが見えて笑えるけれど、テディがネットでアクセスする先にはそのような考えを持つ人が多く存在していることが想像できる。まるで劉慈欣(リウ・ツーシン)のSF小説「三体」のように、高度に進化した異星人が人類に対して攻撃をしかけてきていることの危機感を共有している人たちがいるのだろう。そのような陰謀論を聞いて、んな馬鹿な、で一笑に付してしまうのが我々だ。あまるにも荒唐無稽な考えで、そんな陰謀論を持つ人たちと議論もしたくないと考えるのが一般的だ。でも、それで良いのか? の流れでこの映画のオチがある。陰謀論なんて、あるようで無い。無いようで、あるかもしれない。

『ブゴニア』は韓国映画『地球を守れ!』(2003)のリメイクだそうだ。『地球を守れ!』の結末も同じオチだったのかな。

→ヨルゴス・ランティモス→エマ・ストーン→イギリス、アイルランド、韓国、アメリカ/2024→MOVIXさいたま→★★★★

監督:ホン・サンス
出演:イザベル・ユペール、イ・ヘヨン、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、ハ・ソングク、キム・スンユン
原題:여행자의 필요(英題:A Traveler’s)
制作:韓国/2024
URL:https://mimosafilms.com/gekkan-hongsangsoo/
場所:OttO

ホン・サンスが次から次へと立て続けに映画を撮るので、すぐに公開作が溜まってしまう。それをちまちまと公開していても集客させるのが大変なので、配給元のミモザフィルムは考えて、ホン・サンスの監督デビュー30周年もかねて「月刊ホン・サンス」を企画してきた。それを渋谷のユーロスペースへ観に行こうとしたら、大宮のミニシアターOttOでも上映すると云うので2月まで待った。

「月刊ホン・サンス」の新作1本目は2024年に撮った『旅人の必需品』。フランスの女優イザベル・ユペールとの3度目のコラボレーションの映画。

今回のイザベル・ユペールは韓国のソウルでフランス語の個人レッスンをしているイリスと云う女性を演じている。教え方が独特で、テキストをいっさい使わない。対面で会話を交わしながら質問を投げかけて、その時々の相手の気持ちをフランス語の文章にして暗記カードにまとめる。それを何度も読ませて言語を習得させる方法を取っている。

まず最初の生徒は若い女性(キム・スンユン)。彼女の家で会話を交わしているうちに、彼女は突然ピアノを弾き始める。イリスはその演奏のクオリティについて彼女に質問する。最終的に「心の奥底では何を思ったのか」とまで追求する。次の生徒は会社を経営しているらしき女性(イ・ヘヨン)。彼女の夫(クォン・ヘヒョ)と一緒に会話を交わす。すると彼女はギターを弾き始める。イリスはその演奏のクオリティについて最初の生徒とまったく同じ質問をする。

この二人の生徒への質問、そして生徒の返答がまるっきり同じだった。これはいったい何なのか? と考えた時に、音楽や詩のリフレインと同じことなのではないか? とおもい当たった。二人の生徒が楽器を演奏することや、イリスが下手なリコーダーを吹くシーンがあること。そして、韓国の有名な詩人である尹東柱(ユン・ドンジュ)の詩が出てくることなどから、今回のホン・サンスは映画全体の構成を一つの楽曲に例えているんじゃないかとおもってしまった。

この前半のAメロ(と云うのか、何と云うのか)を終えて、イリスに若い韓国人のボーイフレンドがいることがわかって、ふたりが暮らしている部屋にボーイフレンドの母親が訪ねてくることで楽調はサビのように一気に盛り上がる。でも、前半のリフレインが後半のサビの部分にどうのように影響しているのかはよくわからなかった。それにタイトルでもある「旅人の必需品」がいったい何を意味するのか明確なものが見えてくるわけでもないので、なんとなくぼんやりと映画を観終えてしまった。とは云っても、ホン・サンスの映画は会話の妙を楽しむものなので、それでも面白く観てしまった。

「月刊ホン・サンス」の次の作品は『小川のほとりで』(2024)らしい。もちろんOttOへ観に行く。

→ホン・サンス→イザベル・ユペール→韓国/2024→OttO→★★★★

監督:サム・ライミ
出演:レイチェル・マクアダムス、ディラン・オブライエン、エディル・イスマイル、デニス・ヘイスバート、ゼイヴィア・サミュエル
原題:Send Help
制作:アメリカ/2026
URL:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/fukushu-jima
場所:MOVIXさいたま

近ごろマーベルの映画ばっかり撮ってきたサム・ライミの新作は『HELP/復讐島』。予告編を観るかぎりでは、飛行機事故によってパワハラ上司と無人島で二人きりになった女性部下の復讐劇で、この設定を聞いただけでは映画を観たいと云う気は起きなかった。その後、多くのサム・ライミのファンによる絶賛がネットなどで伝わって来たので、観なければ、と云うことになった。

これが、評判通りの面白さだった。ストーリーを語る上でのいろいろな描写が「死霊のはらわた」シリーズのころのサム・ライミをおもい起こさせて、女性部下のリンダ・リドル(レイチェル・マクアダムス)がパワハラ上司のブラッドリー・プレストン(ディラン・オブライエン)の目を親指で押しつぶそうとするシーンなんて、もしファンタスティック映画祭での上映だったら拍手大喝采のシーンだった。血糊多め、ゲロ多め、ホラーっぽい要素を入れて来るところなども原点回帰を自らに課しているように見えて、さすがのサム・ライミだった。

『HELP/復讐島』と云う邦題も、予告編の作り方も、不遇な女性部下によるパワハラ上司への復讐劇であることを示唆していたけれど、この映画はそれだけではなかった。親の愛情を得られずにモンスターとして育ってしまった男が、今まで毛嫌いしていた女性部下の優しさに改心して「人間の本性は本来善である」を実証する映画なのか? とおもわせておきながら、人間はそう簡単には変わらねえんだよ! と突き放してくるところはサム・ライミらしい爽快感もあった。女性部下のリンダ・リドルも、自分のためなら人を殺すことも厭わない女で、パワハラ上司V.S.か弱き女性部下の構図ではまったくなかった。

そんなリンダ・リドルにも天罰が下るのかと常識的な展開を予想していたら、おもわぬハッピーエンド。いやあ、最後まで展開を読めないサム・ライミらしい映画だった。

→サム・ライミ→レイチェル・マクアダムス→アメリカ/2026→MOVIXさいたま→★★★★

監督:エドガー・ライト
出演:グレン・パウエル、ジョシュ・ブローリン、コールマン・ドミンゴ、マイケル・セラ、リー・ペイス、エミリア・ジョーンズ、ウィリアム・H・メイシー、ジェイミー・ローソン
原題:The Running Man
制作:アメリカ、イギリス/2025
URL:https://the-runningman-movie.jp
場所:MOVIXさいたま

1987年にアーノルド・シュワルツェネッガー主演、ポール・マイケル・グレイザー監督によって映画化された『バトルランナー』(原題:The Running Man)の再映画化。原作はリチャード・バックマン(スティーヴン・キングの別名義)。

『バトルランナー』は、当時のアーノルド・シュワルツェネッガーの人気にあやかっただけのアクション映画で、すべてがゆるゆるの緊迫感もないつまらない映画だった。ただ、凶悪犯を「ランナー」としてエリアに放ち、正義の「ストーカー」がそれを追って処刑する様子を生中継するテレビのリアリティ番組である設定だけは面白かった。

それをエドガー・ライトが2025年に再映画化するにあたって、当時の未来予測が恐ろしく的確だった部分と、今となっては時代遅れと感じてしまう部分とが混在しているところが面白かった。

今となっては古臭いと感じてしまった部分は、テレビ地上波(または衛星放送)の人気番組によって国家権力が大衆をコントロールできると設定しているところだった。YoutubeやNetfkixなどの配信系番組が数多くあって、さらに様々なSNSが氾濫している現在、国家権力がメディアを使って大衆の思考をある一定方向へ誘導させることはもう無理だとおもう。病気の娘を抱えたベン・リチャーズ(グレン・パウエル)がお金のためにテレビ番組「ランニング・マン」に出て報酬を得ようとする設定も、視聴者参加番組があまり無くなって、一時期よりもリアリティ番組の数も少なくなってしまった今、どこかズレていると感じてしまった。

1987年当時の未来予測(リチャード・バックマンの原作が書かれたのは1982年)として恐ろしく的確だった部分は、今となってはあたりまえの技術となったディープフェイクをフィーチャーしていたところだった。今回のエドガー・ライト版でもディープフェイクが大切な役割を持っていてベン・リチャーズを窮地に追い込む。ただ、ディープフェイクが誰でも使える簡単な技術になってしまったので、国家権力だけでなく反政府の抵抗勢力もディープフェイクを使える結果、どこに真実があるのか見抜くことがとても難しくなってしまった。つまり、体制に貶められたベン・リチャーズが国家の手先であるテレビプロデューサー、ダン・キリアン(ジョシュ・ブローリン)との決着を制したとしても、彼の正しさを証明する手立てもなく、1987年のポール・マイケル・グレイザー版のころに比べて単純な勧善懲悪の構図にすることの出来ない難しさがいまの時代には存在するようになってしまった。

エドガー・ライトはどうして『バトルランナー』を再映画化しようとしたんだろうなあ。とても難しい素材だったおもう。

→エドガー・ライト→グレン・パウエル→アメリカ、イギリス/2025→MOVIXさいたま→★★★☆