
監督:リチャード・リンクレイター
出演:イーサン・ホーク、マーガレット・クアリー、ボビー・カナベイル、アンドリュー・スコット、パトリック・ケネディ、ジョナ・リース、サイモン・デラニー
原題:Blue Moon
制作:アメリカ/2025
URL:https://longride.jp/bluemoon/
場所:MOVIXさいたま
アメリカの作詞家ロレンツ・ハートは、作曲家リチャード・ロジャースとコンビで、1920年代、30年代に数々の名曲を生んだ。なかでも「ブルー・ムーン」「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」は日本でもカバーされていて、誰もがいつか聴いたことのある曲だとおもう。しかし、ロレンツ・ハートは、1940年代の初めころにはアルコール依存症と情緒不安定が酷くなり、リチャード・ロジャースはオスカー・ハマースタインと仕事をするようになる。そのロジャースとハマースタインの初めてコラボレーションがミュージカル「オクラホマ!」だった。
リチャード・リンクレイターが監督した『ブルームーン』では、作詞家のロレンツ・ハートをイーサン・ホークが演じていた。映画の舞台は「オクラホマ!」のブロードウェイ公演初日の終幕後、舞台関係者が翌朝の劇評を確認するために集まったニューヨークのレストラン「Sardi’s」。そこに早々と劇場から到着していたラリー(ロレンツ)・ハートは、バーテンダーのエディ(ボビー・カナベイル)や休暇中の軍人であるピアノ奏者のモーティ(ジョナ・リース)、そしてレストランで原稿を書いていたエッセイストのE・B・ホワイト(パトリック・ケネディ)を相手に、自分が好意を寄せるイェール大学の美術学生エリザベス(マーガレット・クアリー)のことや「オクラホマ!」への酷評などをのべつ幕なしまくし立てる。次第に、アルコール依存症のために断酒していた酒が進んで行ってしまう。
この映画は、ロレンツ・ハートを演じたイーサン・ホークの独壇場だった。やたらと喋り尽くす饒舌さの中に見え隠れする自己嫌悪や孤独感。フラワーギフトを配達してきた青年をナンパする同性愛者でありながら女性に対しての愛を語りつくす不自然さ。いままで数多くの映画でコンビを組んで来たリチャード・リンクレイターとイーサン・ホークのコンビだからこそできる複雑な人物像を描く映画だった。今年のアカデミー賞主演男優賞は『罪人たち』のマイケル・B・ジョーダンが獲ったが、いやいやいや、イーサン・ホークでしょう!
さらに古い映画ファンをくすぐるさまざまな仕掛け。ロジャース&ハートの楽曲だけではなく様々なスタンダードナンバーが流れ、映画『カサブランカ』(1942)への愛が語られ、若き日のジョージ・ロイ・ヒルもちょこっと登場する。ニューヨークのレストラン「Sardi’s」の壁にはアレックス・ガードのカリカチュアされた有名人の絵がずらりと掛けられ、オスカー・ハマースタインの隣にいたこまっしゃくれたガキは若き日のスティーブン・ソンドハイム(ミュージカル「ウェスト・サイド・ストーリー」の作詞家)の設定だそうだ。
安易な回想シーンも入れずに、レストラン「Sardi’s」だけのシーンに限定された舞台劇のようなこの映画は、昔のミュージカルや映画のファンのための映画だった。とても楽しい100分(の短さも良い!)だった。
→リチャード・リンクレイター→イーサン・ホーク→アメリカ/2025→MOVIXさいたま→★★★★