ペーパーボーイ 真夏の引力

監督:リー・ダニエルズ
出演:ザック・エフロン、マシュー・マコノヒー、デヴィッド・オイェロウォ、メイシー・グレイ、ニコール・キッドマン、ジョン・キューザック、スコット・グレン、ニコレット・ノエル、ネッド・ベラミー
原題:The Paperboy
制作:アメリカ/2012
URL:http://www.paperboy-movie.jp
場所:新宿武蔵野館

町山智浩のポッドキャストの中で、たしかロバート・エリス・ミラー監督の『愛すれど心さびしく』(原作はカーソン・マッカラーズの同名小説)を紹介するくだりだったとおもうけど「南部ゴシック」のことに触れていて、ウィリアム・フォークナーの小説「サンクチュアリ」がその「南部ゴシック」の代表作で、トビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』もこの小説が元になっているんじゃないかと云っていた。その「南部ゴシック」とは、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスのような、『ノーカントリー』(原作はコーマック・マッカーシーの『血と暴力の国』)で云えばシガーのような、我々の常識からは想像できないような異常な行動をとる人物が出てくるのが特徴で、とても凄惨なグロテスクな描写が盛り込まれている場合が多い。そして一般的に見える人々も、キリスト教的な戒律に支配されながらも、その教えとは相反するような男尊女卑や人種差別、アブノーマルな行動をとるような異常な世界が展開されて行く。

ピート・デクスターの原作によるこの『ペーパーボーイ 真夏の引力』も暴力とセックスにまみれた「南部ゴシック」だった。今まで、どちらかと云えば優男を演じることが多かったジョン・キューザックが、フロリダの湿地帯に住む異常な男を演じていて、湿気がむんむんとする中の目が飛んでしまっている演技がすごかった。そして、その異常な男に執心するはすっぱ女をニコール・キッドマンが演じていて、前作の『イノセント・ガーデン』で見せた役者バカっぷりがここでも爆発していて、二人の演技合戦だけでこの映画を成立させてしまっていた。なので、本来ならばこの映画のメインとなるべきザック・エフロンの南部の異常な世界での人間成長物語も、マシュー・マコノヒーの黒人好きでマゾでゲイの話しもまったくかすんでしまっていた。

この映画は黒人メイドの回想形式でストーリーが進んで行く。その黒人メイドをメイシー・グレイが演じていた。メイシー・グレイと云えばエリカ・バドゥとのコラボレーションシングル”Sweet Baby”あたりを良く聞いていたのだけれども、あまり顔をしっかりと確認したことがなかったので、この映画に女優として出いることにまったく気がつかなかった。演技もなかなか上手くて、ザック・エフロンとの掛け合いの間も良かったので、てっきり専業の女優の人だとおもってしまっていた。

→リー・ダニエルズ→ザック・エフロン→アメリカ/2012→新宿武蔵野館→★★★☆