アクトレス 〜女たちの舞台〜

監督:オリビエ・アサイヤス
出演:ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、クロエ・グレース・モレッツ、ラース・アイディンガー、ジョニー・フリン、ブラディ・コーベット、ハンス・ジシュラー、アンゲラ・ビンクラー、ノラ・フォン・バルトシュテッテン
原題:Sils Maria
制作:フランス、スイス、ドイツ/2014
URL:http://actress-movie.com
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町

なぜか、舞台劇の映画化が大好きだ。限られた空間で展開される会話劇が好きで、映画として利用できる画面の広がりや展開のダイナミックさを殺してしまう結果にはなるけど、舞台では味わえない俳優のクロースアップやカットの繋がりから生まれるリズムから、凝縮された演劇空間がさらに豊かなものになっているように見えるところが好きな理由なんだとおもう。

オリビエ・アサイヤスの『アクトレス 女たちの舞台』は舞台劇の映画化ではないけれど、架空の舞台劇「マローナのヘビ」を再演する際の主演女優(ジュリエット・ビノシュ)と専属秘書(クリステン・スチュワート)の台本の読み合わせが主となっていて、そこで展開されるふたりのやり取りが台本上のセリフなのか、それとも実生活上でのふたりの会話なのかがわからなくなる虚々実々とした展開がとても演劇的で、ふたりの主従関係が時には逆転して見えたり、年上のジュリエット・ビノシュが時には幼く見えたりと、まるで二人芝居を見ているような両者の駆け引きがとても面白かった。それに舞台劇「マローナのヘビ」のストーリー自体が企業の上司と部下と云う主従のふたりの女性を主人公としていて、そこで交わされる女性同士の恋愛感情をも匂わせる会話が、ジュリエット・ビノシュとクリステン・スチュワートの女性同士の愛憎関係をも重ね合わせてみることができる重層構造になっているところが映画に深みを与えていた。

さらには、初演の時には若い部下の役を演じていたジュリエット・ビノシュが再演では年嵩の上司の役を演じることになり、若い頃に感じていた上司役の人物設定に対する無理解がクリステン・スチュワートと読み合わせをすることにより記憶からよみがえり、そこには歳を取ることによってもう若い役を演じることは出来ないと云う嫉妬をあたかも読み合わせの相手役のクリステン・スチュワートへぶつけているようにも見える複雑な構造へと変化して行く。読み合わせで若い部下の役を担当していたクリステン・スチュワートはいつのまにか上司役に取って変わったような状態となり、まるで舞台劇「マローナのヘビ」で上司が部下の元を去るように何も云わずにジュリエット・ビノシュの元を去って行く。

さらにもう一つ、再演の時に相手役をつとめる女優(クロエ・グレース・モレッツ)に対するその若さゆえに許される奔放な行動への羨望も重ね合わされ、年上と年下、大女優と若い人気女優と云ったジュリエット・ビノシュとクロエ・グレース・モレッツの関係も次第に曖昧になって行く。リハーサルの時の、ジュリエット・ビノシュのクロエ・グレース・モレッツに対するの演技上の苦言もさらりと交わされ、どちらが先輩の大女優なのかわからなくようなシーンは印象的だった。

このように二重にも三重にも受け取れる演劇的な構造が映画の中にうまく組み込まれ、さらにはスイスの大自然を利用した場面の展開も合わさって(実際の自然現象「マローナのヘビ」が見られるシーンは感動的だ!)、素晴らしい映画に仕上がっている。今年のベストにしても良いくらいの映画だった。


(映画の中にも出てきたアーノルド・ファンクの映画『Das Wolkenphänomen in Maloja』。「マローナのヘビ」が見られる)

→オリビエ・アサイヤス→ジュリエット・ビノシュ→フランス、スイス、ドイツ/2014→ヒューマントラストシネマ有楽町→★★★★