監督:ヤスミラ・ジュバニッチ
出演:ヤスナ・ジュリチッチ、イズディン・バイロヴィッチ、ボリス・イサコヴィッチ、ヨハン・ヘルデンベルグ、レイモント・ティリ、ボリス・レアー、ディーノ・バイロヴィッチ、エミール・ハジハフィズベゴヴィッチ、エディタ・マロヴチッチ、エミナ・ムフティッチ、トゥーン・ルイクス、ジョーズブラウアーズ、レイナウト・ブッスマーカー、エルミン・ブラヴォ、ソル・ヴィンケン、ミシャ・フルショフ、ユダ・ゴスリンガ、エルミン・シヤミヤ、アウバン・ウカイ
原題:Quo vadis, Aida?
制作:ボスニア・ヘルツェゴビナ、オーストリア、ルーマニア、オランダ、ドイツ、ポーランド、フランス、ノルウェー/2020
URL:https://aida-movie.com
場所:新宿武蔵野館

バルカン半島の北西部に位置していたユーゴスラビア社会主義連邦共和国は1991年に起きたユーゴスラビア紛争によって崩壊し、ボスニア・ヘルツェゴビナは1992年3月にボシュニャク人(ムスリム人)を中心に独立を宣言した。この独立に不満も持ったボスニア・ヘルツェゴビナ内のセルビア人民族主義者は、ボスニア北部を中心に「スルプスカ共和国」を設立。クロアチア人の民族主義者も「ヘルツェグ=ボスナ・クロアチア人共和国」を設立して、この三者による対立がボスニア・ヘルツェゴビナ紛争へと発展した。

セルビア共和国に張り出すようにあるボスニア・ヘルツェゴビナの東部地域は、セルビア人にとってはセルビア共和国と地理的に連続した領土としか考えられず、ボシュニャク人住民の殺害や強制追放を繰り返す事態が起きていた。国連によって安全地域と設定された都市スレブレニツァには、そんな迫害から逃れたボシュニャク人の多くが流れ込んでいた。

1995年7月11日、スレブレニツァには国連保護隊(UNPROFOR)のオランダ兵士が駐留していたにもかかわらず、セルビア人の武装勢力が乗り込んできた。そして、ボシュニャク人の成人男性や少年約8000人を連れ去って殺害し、遺体を集団墓地に埋めると云うジェノサイドが起きた。

ヤスミラ・ジュバニッチ監督の『アイダよ、何処へ?』は、この「スレブレニツァの虐殺」を描いている。

この映画の中でのセルビア人武装勢力の野卑な行動があまりにも目に余るのだけれど、いろいろ調べてみるとボシュニャク人側がセルビア人を虐殺する事件も起きていて、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争ほど、人間が断ち切ることのできない憎しみの連鎖が繰り返されてしまった戦争だったとおもい知らされてしまう。とにかく、同じ街に住んでいた隣の家の親父が敵となって、そいつに殺されることって何なん? と日本人には想像もできない世界を描いている。

映画の最後には、一見、平和を取り戻したようにボシュニャク人もセルビア人も一緒に暮らしているスレブレニツァが描かれているのだけれど、ちょっとしたきっかけでまた憎しみの連鎖が繰り返される可能性が透けて見えて、なんとも微妙な綱渡りの世界にも見える怖いラストシーンだった。

→ヤスミラ・ジュバニッチ→ヤスナ・ジュリチッチ→ボスニア・ヘルツェゴビナ、オーストリア、ルーマニア、オランダ、ドイツ、ポーランド、フランス、ノルウェー/2020→新宿武蔵野館→★★★★