悪の法則

監督:リドリー・スコット
出演:マイケル・ファスベンダー、ペネロペ・クルス、キャメロン・ディアス、ハビエル・バルデム、ブラッド・ピット、ロージー・ペレス、ブルーノ・ガンツ、ルーベン・ブラデス、ディーン・ノリス
原題:The Counselor
制作:アメリカ、イギリス/2013
URL:http://www.foxmovies.jp/akuno-housoku/
場所:ユナイテッドシネマとしまえん

テレビやネットの報道を見た時に、その事件が起きている世界が自分の暮らしている世界と同じなんだろうかといつも疑問がわく。今まで生きてきた自分の世界には、たとえば家族や親戚や友人や会社の同僚に殺人を起こした者はいなかったし、もっと幅を広げてその友人に、さらにその友人の友人にも殺人事件を起こした人間がいたような噂は流れて来たことがなかった。じゃあ、毎日のように起きている殺人事件はどこで起きているんだろう。おそらくこの世の中にはいくつもの世界があって、それはいろんな階層に分かれて同時並行に進んでいて、たまたま自分は殺人が起きているような世界とは交わらなかっただけなのかもしれない。自分が生活する階層では、そのような事件が起きづらいのかもしれない。でも、この“欲”にまみれた時代では、すぐ隣のラインの世界では殺人が起きていて、そこへ知らずに入り込む可能性は充分にあって、ちょっとした欲望を見せただけで簡単に人を殺したり、誰かから殺されかねない世界が待っているんだろうとおもう。

コーマック・マッカーシーの「血と暴力の国」を映画化したコーエン兄弟の『ノーカントリー』の面白さは、一線を越えて踏み込んでしまった世界に待ちかまえていた異様な殺人鬼と対決せざるを得なくなった男の腹の括りようだった。ところが、同じコーマック・マッカーシーが脚本を書いたこの映画の面白さは、同じテーマであったとしても、安易に金儲けの世界に入り込んでしまって、そんなつもりではなかったんです、の言い訳の効かなさに右往左往する男の惨めさだった。些細なことですべてが崩壊してしまうような危うい世界に足を踏み入れてしまったと云う自覚のなさは、まるで自分がその世界に入り込んでしまったかのようだった。いかにして腹を括るべきなのか。それは昨今のとても重要なテーマだ。

この『悪の法則』は、小道具にもいろいろな意味を含ませているところが面白い。ダイヤモンド、豹、懺悔、クルマ、バイク。それらがすべてマイケル・ファスベンダーと共同で麻薬の事業をすることになるハビエル・バルデムの愛人キャメロン・ディアスにつながる。“永遠の命”であるダイヤモンドの品質評価に詳しく、豹の刺青を入れ、二人の男を捕食動物に例え、カトリックでもないのに神父に懺悔する。クルマとSEXし、バイクの男の首を刎ねることを命ずる。こいつは何だろう。おそらく悪魔だ、メフィストフェレスだ、リリスだ。『ノーカントリー』の殺人鬼アントン・シーガーがまた違った形で現れたのだ。ここにもまたコーマック・マッカーシーの共通しているテーマが隠れている。

→リドリー・スコット→マイケル・ファスベンダー→アメリカ、イギリス/2013→ユナイテッドシネマとしまえん→★★★★