
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:オリヴァー・リード、サマンサ・エッガー、アート・ヒンドル、シンディ・ハインズ、ナーラ・フィッツジェラルド、ヘンリー・ベックマン、スーザン・ホーガン、ニコラス・キャンベル
原題:The Brood
制作:カナダ/1979
URL:
場所:新宿武蔵野館
レーザーディスクで『スキャナーズ』を見て衝撃を受けて以来、クローネンバーグの映画を欠かさず追いかけて来たのだけれど、それ以前の作品はDVDなどで見ようとおもえば見れたのにすっかり見逃していた。クローネンバーグの新作『コスモポリタン』の公開に合わせてレイトショーで『ザ・ブルード/怒りのメタファー』が公開されたので、これは良い機会と念願の『ザ・ブルード/怒りのメタファー』を観に行った。
人間の内面にある精神性を具現化する際に、『ヴィデオドローム』や『ザ・フライ』にも共通する受胎のイメージでもってそれが生まれてくるシーンを見て、やはりクローネンバーグの映画は、これでなくっちゃ、と痛切に感じてしまった。最近の彼の映画は、基本的なモチーフはあまり変わっていないのかもしれないけど、その表現方法が巨匠となってしまったと云うか、お高くとまっていると云うか、製作費があまりなかった頃のアイデアで勝負する実験的な姿勢が欠如してしまっているのが悲しい。新作の『コスモポリタン』はどうなんだろう? おそらくもうこの『ザ・ブルード/怒りのメタファー』で得た背中がゾクゾクするような感覚を新作で味わうことは今後一切ないんだろうなあ。もちろん観には行くけど。

初期のクローネンバーグの映画に見られたカナダの色のない風景も好きだ。そこにくっきりと浮かび上がる子供たちの原色の衣装が不気味で怖い!
→デヴィッド・クローネンバーグ→オリヴァー・リード→カナダ/1979→新宿武蔵野館→★★★★










だから、この映画の中でヒッチコックを演じたアンソニー・ホプキンスよりも、アンソニー・パーキンスを演じたジェームズ・ダーシーのほうが、ジェームズ・ダーシーと云う役者を知らなかっただけに、これは凄い! まったくアンソニー・パーキンスにしか見えない、としかおもえなくて素晴らしかった。スカーレット・ヨハンソンのジャネット・リーは、これはまったく似てないので問題外。ジェシカ・ビールのヴェラ・マイルズは、これもジェシカ・ビールと云う女優を知らなかったので、まったく似てないけどまあまあ良かった。ヘレン・ミレンはただのおばさんにしか見えなかった。一度だけ、本当のヒッチとアルマの写真がクローズアップになるけど、アルマはもうちょっと可愛らしい感じじゃなかったのかなあ。
いや本当は、そんなところにゴタゴタと文句を云うよりも、一番面白かったのは父親役のロバート・デ・ニーロが、アメリカン・フットボールのフィラデルフィア・イーグルスの熱狂的なファン(66番ビル・バージェイのジャージなんて着ているのは筋金入りだ)なことだった。息子役のブラッドレイ・クーパーもその影響を受けて、デショーン・ジャクソンのレプリカ・ジャージを着ていたりしていた。この映画の原題の「Silver Linings Playbook」の「Silver」はイーグルスのチーム・カラー(鷲のマークがSilver)でもあって、「Silver Linings」の意味するところの「銀の裏地」とは、地区優勝はするもののなかなかスーパーボウルで優勝することのできないイーグルスのこととも掛けていたのではないかとおもう。「どんなに分厚い雲で覆われていてもその上には太陽が輝いている」と。原作本の初版の時のカバーは、このことをそのものずばりで現していた。そして映画の中では、父親と息子との結びつきにこのフィラデルフィア・イーグルスが使われているんだけど、どこか中途半端な感じは否めないので、原作本をしっかりと読んでみたい気がしてしまった。おそらくは、プロスポーツのチームを子供の頃から親子で応援していることの意味がもっと重要視されていて、ラストのイーグルスがダラス・カウボーイズに勝つことへのカタルシスがもっと半端ないことになっているんじゃないかと期待して。